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星なし転移者と仲間たち〜逃亡中〜  作者: 綾瀬 律
マイヤーに向けて

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63.森の獲物

「出来たよー!」

 レイキとタフは何やら森に入っていた。

 あ、戻ってきたね!

 手を挙げるタフとレイキ。

 で、そのタフの手には何やら鳥さんがいた。大きくて丸々としている。

 とても美味しそうだ。


「おう、シーちゃん腹減ったぞ」

 レイキも機嫌が良さそうだ。

「で、タフ。それは?」

「おう、お土産だ。ここらでは七つ鳥って言うんだ。美味いぞ!」


(七面鳥 激うま)


 だからレイキがほくほく顔なのか。

(シエル、七面鳥だぞ!)

(だね…)

(丸焼きが食べたい!)

(ファイトー)

(えっ…)


 あからさまにテンションダダ下がりのレイキ。

(おい、揶揄われてるだけだ!顔見てみろ)

(あ…くすっ美味いよな、きっと)

 そう、タツキの指摘通り私の顔は緩んでいた。

 ふふふっこの国に来て30日の節目だ!

 やってやろうじなないか、七面鳥の丸焼き。くるくる回す棒とか無いけど、そこは人力でなんとかだ。

 シュラスコみたいに大きな串にドカンと味付け肉を刺して、削りながら食べるのもありだな。


 今日は肉肉パーティーだ。

 おぉー!

 4人で拳を突き上げるとタフが驚いていた。

 私の無意識の念話はタフには届かないからね。


「タフ、レイキありがとう!夕食で食べるよ」

 タフが心なしがしょんぼりして

「魚は?」

「もちろん魚も!」

 途端ににこにこした。

 魚好きのしょぼくれたおじさんは誰の得にもならないからね!


「食べよう!」

 新たにエマゾンで買ったタフ用の椅子と大きめの机。

 私たちは各自の椅子を出して座る。

 机の上には海鮮丼とあら汁だ。

「いい匂い。でもこれは残飯か?」

 あら汁を見てタフが聞く。

「ぶはっ」

 レイキが吹き出した。

「違うよ!私たちの故郷の漁師飯だよ」

「漁師飯?」

「そう、お魚を捌いた後の骨とかで出汁を取ったもの」

 マジマジと見つめる。

 そのタフの目はとても真剣だった。


「美味いぞ?魚の骨からはいい出汁が出る」

「出汁って?」

 あ、そこからか。

「美味しい調味料って言ったらいいかな」

 不思議そうな顔をしながらも、いただきます!と言って躊躇なく汁を飲み骨についた身を食べる。

「美味い…」


 ふふっみんな優しい顔をしてタフを見る。

 さて、食べよう。

「「「「いただきます!」」」」

 あら汁をすする。

 ススーッとな。

 うはぁ沁みる!骨についた身はほろほろだよ。うまうまだね。ほんと異世界に来て改めて思う。

 日本って本当に食文化が進んでたんだって。


 こちらにはそもそも出汁とか調味料の概念が薄い。

 調味料は塩と砂糖と胡椒、せいぜいが鷹の爪くらいなもんだ。

 鰹出汁やあごだし、コンソメやブイヨン、鶏ガラ、味噌や醤油もね。

 美味しい料理には美味しい調味料。


 私には魔法通信という武器があるから、取り寄せはできる。出来るけど、やっぱり目をつけられたくは無い。

 平穏な生活には平凡さが必要だ。

 なので、なるべくこちらの世界由来のものを使おうとしている。


 それでも製法は荒いなりに似た物はあるから、意外と問題なく使える。

 甘味は流石にほぼない。

 だから目立つので夜にこっそりとみんなで食べている。そう、いつもの4人で夜談義は継続している。

 タツキのミルク饅頭を食べたりしてね。

 だってさ、転移の際に持ってた荷物は復活するから。

 魔法通信を使うとかなりのものが取り寄せ出来る。ヤッホーとか楽満にもアクセス出来たからね!


 でも全てが取り寄せ出来るわけじゃ無い。

 ミルク饅頭もそう。だからとても貴重。しかもある意味食べ放題。

 ふふふっ私の物産展で買った元祖海鮮丼なんかもね。

 なんて回想をしながらも手は動かして黙々と海鮮丼を食べる私。

 みんなも静かに物思いに浸っているみたい。


 そんな中、タフだけは()()()()()()()()()って顔してガツガツ食べてる。

 もう無くなりそう。

 そして、多分…食べ終わって悲しそうに丼を見つめる。


「タフ、おかわり…」

 見えないしっぽがピンと立ったのが見えた。丼をずいと押し出してくる。

 私は受け取っておかわりを盛る。

「はい、どうぞ!タツキとレイキも食べる?」

「頼む」

「おう」

 丼を受け取っておかわりを盛る。


 またパクパク食べるみんな。

 私はあまりたくさん食べられない。サナエは自分でおかわりをしていた。

 タフが私をチラッと見る。

 もう、仕方ない。手を出せばあら汁のお椀を差し出した。

 受け取ってもりもりに盛る。残飯とか言ってたのにね?

 無言で指し出されるタツキとレイキとサナエのお椀。

 みんなにおかわりを盛ると、自分のもよそう。ご飯はもう要らないけど、あら汁はいける。

 美味しい…沁みる。


「ふはぁ、美味かった!」

「本当にな」

「あの魔魚がなぁ…」

 タフがしみじみと言う。

 魔法通信さん様々だね!


「もうシーちゃん無しでは生きられないかも…」

「お父さんだもんねー」

 と言えばふわりと笑う。

「こんな爆走娘を持ったら大変だ!」

 タツキは腕を組んでうんうん頷き、レイキはニヤリと笑い、サナエはほわほわと笑っていた。





 私たちは今、マイヤーに向かって旅をしている。

 サウナリスには結局、5日ほど滞在。

 ひと段落ついたという安堵と、レイノルドに頼まれた作品作り。

 アイスクリーム作りの伝授。

 さらにはタツキたちがあのコテージを気に入っていたこともあって、バカンスを楽しもうとなったのだ。

 そして、いよいよサウナリスを出発する事になった。

 こちらの世界に来て凡そ20日と少し。

 当面の目的地だったサウナリスを出て、帝国を目指す。


 レイノルドとライルには商業ギルドがある町で連絡することを伝えた。

 追加の納品をお願いしたい時にも連絡すると言われた。

 タツキと相談し、ハンカチタオルと石けんは少し多めにレイノルドに卸し、ビーフジャーキーはその都度納品する事に決めた。

 彼らならこの国にいる同郷の動向も分かるかもしれないから。情報は諸刃の剣だけど、知ってて悪いことはない筈。こちらの情報がいかないよう注意して。


 そして、惜しまれながら(レイノルドもライルも目を潤ませてたのは見てないよ?)も出発した。

 きっとハンカチタオルとか石けんが名残惜しいんだろう。大丈夫!他の町でも売るからね、と言ったら変な顔をされた。何故だ?


 それが5日ほど前の話。

 で、サウナリスから東に向かう行商の馬車に護衛として同乗して出発した。

 その人はサウナリスから東に3日ほどの村の人。

 サウナリスで仕入れて、自分の村までの間にある村に売りながら帰るという。

 時々、街道は海に近い場所を通る。

 そこは魔魚の狩場で、とても危険なんだとか。

 なので、同じ方向に行く人を護衛として同行をするんだって。今回はタフがいるからね、本当に余裕。

 魚はそのまま食材にもなるし。


 点在する村に泊めて貰いながら、順調に進んで行く。

 途中、肩の上のラビがぷもんと鳴いた。何だろう、警戒してる訳ではなさそう。

 馬車を止めてもらって内陸側にタフと向かう。そう言えば馬はすぐに見つかるとか言ってたな。


 しばらく進むと、いた!でも馬なの?

 真っ黒な体に鬣が銀色。まん丸な目も銀色で額から立派なツノが生えている。

 ツノも銀色だ。 


(黒馬 魔獣 風魔法と火魔法、雷魔法が使える)


 第一印象はカッコいい。

 第二印象は寂しそう。


 全く怖くないし、襲うそぶりもない。

 私たちに気がつくと振り返りながらさらに奥へ進む。

 そこには横倒しになったやっぱり黒い馬がいた。いや、馬の魔獣か。


(瀕死)


 私は倒れた黒馬に駆け寄る。

 治れ…全部全部治れー!!と魔力を注ぐ。


 ペカンと馬が光った。


 馬が首をもたげる。

 不思議そうな顔をして上体を起こす。

 あれっという顔で自分の体を見て、脚をかいて力強く立ち上がった。


 ヒヒヒーーーーン!


 はい、声はちゃんと結界で覆って外に漏れなくしたよ?


 2頭の黒馬は私のそばに来ると、その濡れた鼻で私を軽く突いた。

 まん丸な目は大きくて吸い込まれそうだ。首をそっと撫でたら嬉しそうに足踏みする。

「馬が見つかったな!」

 ジトッとタフを見た。

「知ってたの?」

 肩をすくめる。ほんとタフは不思議だ。

 でも賢い馬たちはいれば助かる。例え魔獣でもね。


 馬たちからは着いて行くよ、という気持ちが伝わってくる。

 こうして馬をゲットしたのだった。

 馬車に戻ると行商のおじさんがビックリしてた。

「はえー黒馬かいな…」

 珍しいのかね?



 そのまま旅は続き、予定通り3日後にはその人の村に着いた。

 そこで提案されたのだ。 馬車を買わないか、と。

 最近、他の人が荷馬車を買った。村には一つあればいいし、馬も2頭しかいない。

 だから良かったら、と。ちょうど馬もいるし(馬だよね?)


 タフはニヤリと笑って即決で買った。

 なんと5万ガロン。

 格安だそうだ。

 普通の馬車はだいたい新品で30万ガロン、中古でも15万ガロン、荷馬車は少し安いけどそれなりのお値段はする。

 多少古くても5万ガロンは激安だって。


 で、そこで馬車を買い受けた。

 でもね、荷馬車って御者先しか座るところがない。

 不便だからとレイキがジョブで廃材の板を使って普通の馬車を作り、荷馬車の荷台と連結した。

 荷馬車の荷台を少し詰めて連結したんだけど、それでもそれなりの広い空間を作ったから縦長になった。


 きっと結構目立つ。

 でも連結させたから、取り回しはそこまで悪くない。

 で、最初は御者台にタフ、私たちは馬車の中だったり歩いたり走ったり。

 その後はタツキが御者台に座り、私はタフと黒馬に乗っている。


 何故だか馬車をゲットしてから2日後に、また肩の上のラビがぷもんと鳴いた。

 馬車を止めてタフと私が連れ立って行くと、また黒馬がいた。何故に?

 その子はケガをしてた訳じゃないけど、痩せていた。


(狩が壊滅的に下手な個体)


 吹き出してしまった。なんじゃそりゃ、だ。でも切なそうな目を見たらね?

 だから、茹でた人参を取り出して与えるとすごい勢いで食べた。

 そしてそのまん丸で大きな目で訴える。きっと金づるならぬ食事つるを見つけた気分なんだろう。

 タフはニヤニヤ笑ってる。

 仕方ない、お馬さんはいても困らない。


 そしてタフとその子に乗って馬車に戻るとレイキが

 ぐはっ…

 崩れ落ちた。

(期待を裏切らないな…)

 タツキが呟く。

(シエルだし?)

 サナエも何かを引き寄せるみたいな言い方やめて?


 こうして仲間が増えて、旅を続けて行った。





最後が第2章の冒頭部分です

そしてグスタフの回想…シエルと2人乗りはここの光景でした



*読んでくださる皆さんにお願いです*


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