62.旅の途中
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南国特有の背の高い木に囲まれた街道をゆっくりと進む馬車がいた。
後ろに幌の付いた荷台部分のある馬車だ。
人が乗る部分の後ろに、連結された荷台はそれなりに大きく。
珍しいその馬車は本来ならかなり人目を引く。
しかし、ハイランダー国の南端を東に走る街道は、通る人もまばら。
熱い日中は特に人も動かないので、目立つはずなのに目立つことなく…粛々と進んで行く。
馬車の横には同じ馬と牛とダチョウが歩いている。
なんでやねん!と言いたくなるような光景だ。
馬と鹿ならぬ馬と牛にダチョウ。
そばに牛がいることも、ダチョウがいることも気にせず馬車を引く馬。
いや、馬かも怪しい。
なぜならその額には立派な銀色ツノが生えていたから。
体も黒くて、鬣やしっぽは銀色。
不思議と目を惹く馬だ。いや、馬なのか…?
馬車は南海岸を東へと進む。
場所によってはかなり海に近い場所を通る街道は、所々に難所がある。
海から魚が襲ってくるのだ。
そんな事があるはず無いと思うかもしれないが、実際にあるのだ。
空中を泳ぐ魚が海から襲ってきて、そのままかぶりついて海に引き込む。
そう、魔魚だ。
ちょうどその難所に馬車がさしかかる。
海の中では待ち構えていた魔魚が勢いをつけて海面から飛び上がり空を泳ぐ。
しかし…魔魚たちは2度と海面に戻ることは無かった。
そして馬車は何事もなかったかのように進んで行く。
*****
私は馬車に揺られている。
特にすることもないから、サナエの膝枕でゴロゴロしてる。胸元にはあーちゃん、首元にはラビ。
柔らかなサナエの太ももを堪能中だ。
なんだろうね、サナエは細身なのに柔らかい。皮下脂肪のなせる技か?
ふわふわやわやわ…で癖になる。
(おいこら、やめろ!)
レイキの念話だ。チラッと見ると耳まで赤い。
ん?レイキくんは膝枕を所望かな?
いつでもお姉さんがしてあげるよ!
(お前が1番年下だろ)
タツキの呆れた声がする。
見た目ならそうだね。
サナエはにこにこ笑いながら
(いつでもしてあげるよ?膝枕)
レイキはピシッと固まった。私と違って女性らしい体付きのサナエには遠慮があるんだろう。
下から見上げたらね?ぽよよんがさ。
(だからお前は!)
さーせん。サナエも真っ赤だ。そして顔を隠すように私を抱きしめた。
むぎゅう…待ってサナエ。う、嬉しいけど呼吸が…慌てて腕をタップする。
「あ、ごめん…」
「ぜぇはぁ…だ、大丈夫。幸せ過ぎて、でも苦しい。はぁはぁ」
「つい、ね。まだ寝てていいよ」
ん?これは。
目を開けてサナエを見る。
「起きるよ!レイキッ」
「おう!」
やっぱり感じたか。馬車の天板を開けて外に出たレイキが引っ張り上げてくれる。
馬車はゆっくりだから落ちることはない。僅かに体を浮かせてるし、ね。
街道は海から2mほどの高さで、海と反対側は切り立った崖だ。
狭い街道をゆっくりと進む。
馬車の屋根に2人で仁王立ちすると、海を見据える。
(来るぞ!)
(うん)
念の為、レイキとは手を繋ぐ。
海から細長くてヒレが羽状になった肴もとい、魚が飛び出してきた。次々と。
来たね、食料!
さぁドンと来い。
(おい、言い方!)
相変わらずレイキはキレッキレだ。
私とレイキは亜空間を頭の上と体の前に広げた。
そうとは知らない魔魚は哀れ、亜空間へと収納されていく。
そう、亜空間には本来、生き物を入れられない。
しかし、物事には例外がある。
そこに空気を送り込めれば…人も入れるのだ。
もちろん魚も。
そうすれば、危険な時には戦わずして亜空間に放り込める。
しかし、空気を少なめにしておけば…やがて死ぬ。
手を汚さず獲物をゲットだぜ!
この方法は亜空間について魔法通信で調べてて、出来ると分かった。
以下魔法通信のやり取り
―亜空間に生き物を保管する方法は?―
―亜空間に空気を流入させればいい―
ん?どういう事だ。
―亜空間に生き物が入らないのは空気がないから?―
―亜空間は入れる前の状態を維持できる事が条件―
それはつまり…
―亜空間には空気がない?―
―亜空間は真空―
なるほど。
・入れる前の状態を維持する
・真空
それが生き物が入らない理由。
ならば、魔法通信さんの言うとおり空気があれば真空ではなくなり、入る前の状態を維持できる。
入れた後にまた空気を抜けば、真空を維持するから時間停止になる。
それならそもそも亜空間の中を仕切ればいいのでは?
―亜空間は仕切って時間停止と時価促進、普通の時間経過とかに分けて保管可能?―
―本来は魔力依存によるので難しいが、スキルがあるので可能―
あーあの魔力回復超とかだっけか。
なら出来るのか。
―やり方は?―
―念じる―
そんな事で出来るの?
妄想族と呼ばれた私には最適じゃないか!
想像したり妄想したりは大の得意だ。アクセサリーの作品を作る時にはまず、頭で思い描いてから作る。
同じアプローチならばきっと大丈夫。
で、結果。
出来た!これで素材も食材も取り放題だ!!
ってレイキに言ったら笑われた。
この方法は魔力回復を持ってる私とレイキにしか出来ないからね。
で、今まさにその
「飛んで火に入る夏の虫」作戦を敢行中…採れるわ取れるわ!
魔法通信さん、あざーっす。
レイキと並んで見えないスキルに敬礼した。
難所を超えてからレイキがまた馬車の天板を開けて降りると、手を貸してくれる。
私も馬車に戻る。
「採れたか?」
「バッチリ」
「あぁたくさんな!」
「あれって飛魚みたいだったけど、大きさが」
そう、飛魚は20cm程だけど魔魚は実に1.5mもある。
ただ見た目はまんま飛魚。
なら食べるのはやっぱりお刺身と唐揚げかな。
身が厚ければ、煮付けやフライにしても美味しいかも。
やっぱりお刺身かな。
タフにはお醤油を解禁していい気がする。
ふふふっ本物のお醤油をね!
貝も沢山あるし、焼きハマグリに魔魚のお刺身、魔魚の唐揚げに魔魚のあら汁。
もう絶対に美味しい。
あ、食べ盛り(タフ)がいるから唐揚げも作る?
ワイバーンのお肉あるし。
1人ほくそ笑んでいた。
ぐーきゅるう
ぐぐー
きゅるぅ
ん?また膝枕してもらっていたサナエの膝から顔を上げる。
タツキもレイキもサナエも真っ赤だ。
「シ、シエルのせいだぞ!」
「そ、そうだ…刺身とか」
「唐揚げとか、あら汁とか…」
「「「お腹空く!」ぞ」よ」
声が揃ったね?
ぐーぎゅるぅ…
まさかの御者席、外から特大の音が響いた。みんなで顔を見合わせる。
そう、タフは御者台にいる。
「どんだけだよな…」
「育ち盛りってぶほっ」
「ふふふっ」
まさに、この5人の中で1番食べるのがタフだ。
凡そ4人前は食べる。
そろそろお昼か、少し早いけど休憩がてら食べてもいいかな。
(タフ、お待ちかねのお昼ご飯だよ!)
「やったー!」
元気だな?
街道から少し逸れて馬車を止めたタフ。
馬たちにはレイキが干し草と水を与えていた。
私はタツキに手伝ってもらってお昼ご飯。
せっかくの魔魚だし、簡単に作れるならと海鮮丼だ。
お米を鍋で炊きながら、魔魚を捌く。
魔法通信さんに教えて貰いながら。
エラを切って鱗を剥いで、内臓を取り出して…切り身に分ける。
それ用にちゃんと包丁をエオンで買っておいた。
出刃包丁は特別だからね。
切り身はまた刃の長い刺身包丁で削ぎ切り。
スルスル切れる。
本当はポーチの中でも解体が出来るけど、タフがいるからね!
それを炊き上がって冷ましていたご飯の上に、円形にきれいに並べて、真ん中に大葉と生姜とネギを散らして出来上がり。
本物の飛魚と違って大きいから、見た目はブリみたいだ。だから醤油は別皿にした。付けながらご飯に乗せて食べた方が良さそう。
私たちはもちろんお箸で、タフにはスプーンとフォークを出した。
あら汁は骨と骨についた身を入れてぐつぐつ…しないで魔法でね!
出汁は充分だから味噌と塩を少し入れて…出来上がり。
味見はタツキとサナエ。
コクン…
2人とも固まった。
「これは凄いな」
「…美味しい」
良かった。サナエが僅かに涙ぐんだのをタツキはそばで見ていて、その背中にそっと手を当てた。
サナエは涙目で笑って
「ありがとう、大丈夫よ!お母さんの味だなって」
子供はいなくても年齢的には充分おかんだ。
サナエがそう感じてくれたなら、あちらでの頑張りが少し報われた気がする。
「出来たよー!」
レイキとタフは何やら森に入っていた。
あ、戻ってきたね!
海鮮丼…美味しいですよね
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