58.サウナリスで魚介!
「知っての通り、サウナリスは漁港の町で、各種ギルドは買取りのみの出張所があるだけ。生活は物物交換が主流で特に困ってなかったんだけど、小麦とか塩は現金取引。ギルドで買取をしてたから問題なかったんだ。それがここの所の物資不足もあって買取りも出来ずに困ってるんだ。それで僕たちがここまで物資を運んで、何か出来ないかって」
レイノルドの後をライルが引き取って話をする。
「魚は新鮮さが命。なかなか南部の町以外には出回らない。魔獣の横断で、荷馬車や定期馬車が出なくなって物流が滞ると廃棄になってしまう。そこで、アイディアがないかと考えていたんだ。その時にあの串焼きを食べたんだよ!シエルの」
あ、あーなるほどね。要は腐らなきゃいいと。火を通せば日持ちするから。別にやってもらって構わないけど?
「普通に焼くと固くなってしまう。それにあの味付け。そのレシピを売ってもらえないだろうか?あの串の形も。後は例の石けん。安い方の2種類も各100、追加で欲しいんだ」
2人に頭を下げられた。タレは別にね?魚醤にハーブとか唐辛子とかニンニクを混ぜただけだし。串はレイキ作だから。
レイキを見る。頷いてるね!タツキを見ると
「事情は分かった。もちろん、構わない。しかしレシピを売るとはどういう事だ?」
「それは契約だ。この調合はシエルから我々が買ったと記録する。誰かぎ真似をしても、元祖は我々だと主張出来る」
うん、特許とかで良く揉めてるもんね?元祖、とかさ。
「串焼きの串は?」
「そちらも契約で、我々が譲り受けたとする。譲った側と譲り受けた側以外は、模倣となる」
「構わないぞ、こちらは。石けんは明日以降の用意になる」
「では契約も明日でいいだろうか?我々の店も小さいがここにあるんだ。良かったら見に来てくれ」
「分かった。契約の詳しい話はまた後で。食事にはまだ時間があるから、街を歩くなら案内するが。店の場所も」
「そうだな、頼む」
という事で、レイノルドとライルの案内で町を歩く。と言ってもそんなに大きな町では無い。観光で来る人も余りいない。仕事か、旅の途中で寄る人ばかり。
それでも新鮮な魚介類を食べに来る人はいて、寂れているわけでは無い。
南国風のお店が多くて見るだけでも楽しい。何だろう、色合いがカラフル。人も日焼けしてて服装も比較的ラフだ。長袖を捲っていて太い腕が見えたり眼福だ。漁師さんってなんであんなにカッコいいんだろうね?
可愛い小物のお店を発見。
レイノルドが
「僕の発案で作った店なんだ。結構人気なんだよ!」
「「見たい!」」
サナエと2人で即答。お店の中はカラフルな小物が色々あった。貝の置物とか、色を付けてあるみたい。
へー置物だけなんて勿体無い。貝の中に貝殻のアクセサリーを入れたら可愛いのに。
「ねぇ、貝殻のアクセサリーは無いの?」
「えっ?貝殻の?」
「うん、貝に穴を開けてね…こういう」
自分の耳を見せる。そこには小ぶりなフックピアスが付けてある。私はピアスの穴が左は3カショ、右は2カショ開いてる。左右とも小さなフックピアスとそれ以外はポストピアスだ。
「ここにぶら下げるパーツとして貝をね?小さ目のとか」
「これは、どうな風になるのか…」
「レイノルド様、そのアイディアはぜひ取り入れたいです!」
離れた所から私たちを見てた日に焼けた健康的な女性だ。
「彼女はここの店の店長でマリアナ」
「初めまして、お嬢様。素敵なアイディアです。ぜひ形にしたいのですが、その形のアクセサリーはどのように作るのですか?」
あ、そういえばこっちのピアスってポストタイプ、いわゆる突き刺すタイプしか見たことがない。
「あーこれは自作で…」
「やっぱり…独創的で素敵ですわ」
ふわふわしたら可愛いもんね!
「シエル、その試作品を作れないだろうか?」
それならせっかくだし、貝殻の中にリップバームとかハンドクリームを詰めて販売したら売れそう。
「分かった!海岸には行けるの?」
「案内するよ」
ってことで、今日は何も買わずにお店を出た。
「あのきれいな貝はとって来てるの?」
「そうだよ、海岸で拾うんだ」
「あるかな?」
「どうだろう」
電動工具があるから薄くて柔らかい貝なら穴を開けられる。ただ、柔らかいと割れちゃうからね。虫食いが最適なんだけどな。
お店を出てさらに海の方に歩いて行くと、岩場があってそこから海のそばまで降りられる。レイノルドが手を出してくれたので、有り難く掴まって降りた。サナエにはライルが手を貸していたよ。
きれい…沈みかけた太陽に反射してキラキラしている。やっぱり塩っぱいのかな?私はそんなことを考えながら海を見ていた。隣にレイキが並ぶ。
「海だな」
「海だね」
「でも、繋がってないんだよな」
「そう、だね…」
何を思ったのかは分からないけど、レイキが私の手をそっと握った。その手を握り返す。少しずつ、噛み締めるようにこの世界に馴染んで行くんだろうか。
「おーい、貝殻あるぞー!」
はしゃいだタツキの声がする。ふふっなんか子供っぽいな。海が好きなのかな?
レイキと顔を見合わせて走る。レイキとは手を繋いでも走れるからね!
タツキとサナエがいるあたりには確かに貝殻が落ちていた。ん、サンゴのカケラもあるね。拾おう。そのままだと穴あけが大変だから、穴が開いたようなサンゴを探す。貝も巻貝の小さなのを探す。
うん、それなりに虫食いがあるね!良き良き。大きめの合わせになりそうなのもせっかくだから拾っておく。どこかの町で売れるかも知れないし、、
両手にいっぱい拾えた。帰ったら水洗いして乾かそう。みんなもそれぞれ拾ってるね!
ガラスに入れたらきれいだろうな、と思うサクラ貝風のもカケラを拾った。
帰ったらすぐに作品作り。で、夕ご飯に付けて行こう。
「試作品作るから、私は帰るね!」
「俺たちは少し散策したい」
「私も」
ということで、レイノルドと私はコテージに。タツキたちはライルに町を案内してもらうそうだ。
「悪かったね」
レイノルドが謝るので、
「気にしないで!私がやりたいだけ」
手を繋いでも宿に帰る。居間のソファに座ったレイノルドに紅茶を入れると道具を取りに部屋に行く。と言っても亜空間から出すだけ。
各種工具と丸カン、フックピアスといくつのチャームを持って居間に戻る。
「お待たせ!先に拾った貝を洗浄するね」
水魔法で洗浄して風魔法で乾かす。
小さな巻貝の穴開きに丸カンを倒してフックピアスに固定。ハートや星のミニチャームを付けたら完全。
巻貝は白とレンガ色のマダラでそれも個性があって可愛い。
私の手元を見ていたレイノルドが感心して
「凄い!魔法みたいだ」
「完全な手作りだけどね!どう?」
自分の耳に当てる。
「凄く可愛いよ!」
今作ったのは自分用だから、試作品として何種類か作った。ちなみに自分用のもう片方はチェーンで長さを出して、そこに小さな星を6個付けた。
「左右で違うの?凄い!オシャレだよ…」
「可愛い?」
「凄く…」
それ以外にもピアスじゃなくてイヤーカフタイプも作った。イヤリングは金具が複雑だからやめた方がいいと判断して。
「後ね、これ…。手荒れを治すクリーム。これをこうして…どう?」
貝殻の容器にハンドクリームを入れて、蓋をした。硬めのクリームだから溢れない。
「え、凄い!」
「これはレイノルドに。使って!」
顔を赤らめて手を隠すレイノルド。その手は荒れていた。荷物を積んだり降ろしたり、仕事をする人の手だ。
「使って?仕事してる人の手を守るよ」
「ありがとう」
でもどう使うのか分からないみたい。だから私が適量を手に取ってその働き者の手に塗る。それを指先まで満遍なく伸ばして、最後にしっかりと包み込む。
「こうすると、効果が良く出るからね」
レイノルドはまだ赤い顔のまま頷いた。
「しっとりしてる。自分の手じゃないみたいだ。これは間違いなく売れるよ!」
レイノルドに手を握られて真剣な顔で迫られる。
そ、それは良かった…ってか顔が近い。
「シエル、僕はその君が…」
扉がバーンと開く。
「よぉ、あれ、取り込み中だったか?丸見えだぞ!やるなら部屋の中で」
えぇ、このタイミングなの…全く空気読まないね?
「タフ、何をやるのよ!もう…」
せっかくレイノルドが一世一代の売り込みをする所だったのに。
この商品はきっと売れる、の後だよ?専属契約とか専属デザイナーとかさ…期待してたのに、もう。台無しだよ。いや、まだ今からでも…。
「レイノルド、何?あの商品は売れそうかな?」
「う、うん…間違いなく」
「ん?何の話だ?」
「こ、こ、こ、これ…」
レイノルド、どもりすぎだよ?
空気の読めないグスタフ…
雰囲気の読めないシエル…
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