57.海の町
情報を共有してお互いに言える事は言った。やっぱり気にしたままで過ごすのは難しいからね。
「あー、恋愛感情が無くてもな、男性と寝るのはどうかと」
「みんなは寝てるのに?」
「うぐっ…」
「共有の空間が嫌なら部屋を変えるよ。これからも時々はあるだろうし」
「でも危険が…」
「それはお互い様だから」
「まぁそうだな…またその時に考えるか」
「これからは部屋をどうするかも考えないとな」
「そうだね…」
「ひとまず、寝るか?」
「うん、おやすみー」
いつも通りラビとあーちゃんをもふもふしてからベットに入った。サナエのぽよんを感じながら、ふとタフの体温はサナエより高かったなぁと思って…即落ちした。
目を覚ます。背中にぽよんを感じる。あーちゃんを撫でるとしっぽがわっさわっさと揺れた。可愛い。前脚で私の顔をホールドして口元を舐める。くふっ可愛い。その柔らかい毛を撫でる。休みの日の朝はいつもこんなだったなーと思う。本当に少しずつ、日本のことが遠い記憶になっていく。それなのにトラウマは残ってるし、体の感覚も52才のまま。
忘れたいとは思わないけど、時々どうしようもなくやるせない思いがする。その思いすら消えていくのかな。
あーちゃんはせっせと唇を舐める。ふふっ、考えても仕方ないね。アイカ…長生きしてね!
そっとベットから降りるとテントを出る。隣のテントからタツキが出て来た。
「「おはよう」」
外の空気は徐々に温かく湿ってきた。海が近づいてるんだ。
「リリと姫たちの散歩に行かないか?」
「行く!」
ラビもあーちゃんも走らせてあげたい。
タツキと手を繋いで歩く。なんか習慣みたいになっててね。
リリたちが走り始めると手を離して私も走る。風魔法で体を浮かしてるから、走ってるというより浮いてる。
あまり遠くには行けないから適当な所で止まった。そうそう、テンとミリオはミドルナリスにいる。元々、そこが拠点だったらしい。ガルたちと知り合った事もあって、ノースナリスに拠点を移すらしい。
私たちを送り終えたガルたちと同行するとか。ガルたちにとっても周辺の情報に詳しい人がいるのは心強いんだろう。
はしゃいで追いかけっこしたり、寛いだりしている従魔たちを見ながらポツリとタツキが言う。
「なんかさ、シエルを置いていったのは自分なのに…シエルがタフと仲良くしてるのを見てモヤってしたんだよ。そばに居なかったのは俺なのに、さ」
あーそれはいわゆる子離れ出来ないってヤツかな?
「それでさ、タフはほぼ裸だしシエルは肩丸出しにしてるしで…。多分、レイキとサナエも同じ感覚だと思う」
「そうなんだね」
怒ってる訳じゃ無いし、反応に困るな。
「だからな、こうしてまた手を繋げてホッとした」
「ずっと手を繋いでくれてたのはタツキだからね!」
当たり前だ。
「そうか?なら良かった」
情けないおとんを見ているようで、なんだか可哀想になるなぁ。
「抱っこされてもいいよ?」
タツキはキョトンとしてからふわりと笑った。
「おう!」
帰りはおとんなタツキに抱っこされて野営場に戻ったのだった。
朝ごはんはベーコンとスクランブルエッグ。スープにサラダ。サッサと食べると出発だ。
毎度毎度、食べながら泣くのやめて?ガル。本当にどんだけなのかな。もうあと少しで依頼も終わるのに。
私はたちの旅はこれまでとは違って順調だった。歩いて食事を作って食べてまた歩いて寝て。
そして今日はサウナリスから8時間ほどの距離にある村に辿り着いた。
ジルが先行して村の集会所に泊まる事になった。
途中、お魚も料理したけどね。そろそろ使い切りたい。だってサウナリスに着けば魚、魚魚だよ。だから夕食は海鮮バーベキュー!パフパフ。
貝は洗って、イカとタコは捌いて切り身に、魚はおろして切り身に、タイは焼きに、アジは生でおろして生姜と混ぜてお酒のツマミのなめろう風に。
そしてきのこ!お魚と一緒に焼くよー!バターと塩を掛けていただきます!
うまぁい。
各自好きなものを焼きながら食べる。ハマグリは塩味が聞いててプリップリ。イカとタコは油を掛けて焼いたからアヒージョ風。こちらもプリップリ。
タイはほろほろでアジのなめろうはしっかり味、アジだけにね?
「ぐほっ…ゲホゲホ、おま、不意打ちはやめろ!」
レイキが吹き出して咽せた。
えっ?ごめんごめん。
満足な海鮮バーベキューにガルは相変わらず泣きながら、グレイは一心不乱に、ジルは黙々と、メッシはお皿にこんもりと、レイノルドとライルも焼き台にかぶりつきでひたすら食べてた。
タフ?私の横でめっちゃ食べてた。美味い美味いって言いながら。ふふっやっぱりこの人は優しいね。欲しい言葉が分かる人。
「ぷはぁ、最高に美味しい料理だった」
「これは堪らんな」
「やめられない」
「止まらない」
カッパえびさんって心の中で歌ったらタツキが吹き出した。世代だね?
「なんと工夫された料理か。手を加えすぎず、素材の旨みを存分に引き出している」
「本当に、良くぞここまで…」
レイノルドとライルにも褒められた?嬉しいな。
私は少し浮かれていて、だからその2人がサウナリスが近づくに連れて元気がなくなっている事に気が付かなかった。
片付けをして集会所で雑魚寝だ。テントで寝たい気持ちもあるけど、こうして過ごす最後の夜だからね。雑魚寝上等!でもグレイの横は無理だって言ったらなぜかタフが隣になった。まぁいいけど。寝る前にそっとキスされたけど、それを見て周りがピシッと固まったけど知らないよ?
サナエとラビとあーちゃんに包まれておやすみなさい…。
目が覚めると、目の前に壁?ん、壁…?顔を上げると美形のドアップ。タフか…なんでだ。それと驚くのでやめてね?顔はいいんだから。
「んふっ反応が可愛いね…」
「くっ…」
そっと抱きしめられて頭を撫でられる。おでこにちゅうまでがワンセットだった。もう、サナエが背後でぽよよんしてるよ?
刺激的な朝だったけど、それ以外は特に変わった事もなく。起き抜けの私を見てレイノルドとライルがなんかあわあわしてたくらい。何だろう?ふわぁ。欠伸をするとタフが肩からローブを掛けた。
「肩が出てるぞ?」
あれ?ほんとだ。ローブを羽織って着替えるためにテントに入った。
さて、今日でサウナリスだ!
朝ごはんはパンがゆ。昨日はがっつりだったからね。コンソメとソーセージが入った堅パンをひたひたのスープに付けてオーブン(レイキ作石窯オーブン)で焼く。
熱々だ!はふはふしながら食べる。
片付けをして、出発!
レイキとサナエと手を繋いで意気揚々と…あ、無理。少し酔った。風魔法で体を浮かせてるからリズムが違うサナエとだと酔う。レイキと手を繋いで振動しないように歩く。
ふう、危ない危ない。
お昼はハム卵サンドを食べながら進み、見えて来た!サウナリスー!塩の匂いが濃い。来たね、港町。
うわぁ懐かしい匂い。海の近くには住んで無かったけど、この匂いは慣れ親しんだ海の匂い。
私はスキューバダイビングをやってたからね。この匂いには思い出が沢山ある。
レイキと手を繋いで大はしゃぎの私たち。タツキが
「だからいい加減落ち着けよ!」
「え、無理」
「無理だ」
即返した。ガックリ項垂れてるけどね?だって目的地であったサウナリスだよ!
ワクワクしか無い。魚、魚魚ー、魚を食べましょー、魚魚魚ー魚を食べましょーさぁ、みんなで魚を食べようーふふふふふふーふふー待っている!
(覚えてないんかい!)
相変わらずキレッキレだね、レイキは。
まだ午後2時。門に列はない。みんなそれぞれにカードをだして門を通過した。
今回はガルたちが依頼達成を手紙で報告すればいいので、そのまま宿に向かう。レイノルドがお勧めしてくれた宿だ。
なんと、そこは南国風コテージ。平屋のコテージが点在している。私たちは外にテラスがあるコテージ。寝室はちゃんと4部屋あって、居間と台所にシャワー室があった。
おぉー凄い!なんと宿にはプールもある。海水浴場とかは無いみたいだ。
テンション上がるね!いつもなら嗜める側のタツキもこれにはワクワクした顔で、コテージに入ってすぐ窓際の部屋を確保してたよ。
部屋の中をレイキやあーちゃんと走り回りながらソファに乗ってはしゃいでいた。いつもならタツキが怒るんだけどね、外のテラスでサナエと紅茶を飲んでたからやりたい放題!
きゃっきゃうふふして楽しんだよ。ん?誰か来たね。
らびは鼻をぷもぷもしてる。
「レイノルドたちだな」
「何だろう?」
タツキが呼ぶのでレイキと外のテラスに出た。
「どうした?」
レイノルドが
「夕食のお誘いと、後はお願いがあって…」
みんなで顔を見合わせる。
レイノルドとライルも座って話を始めた。




