56.サウナリスに向けて
はぁ、眠い。慣れないことをすると眠いよね…。
「なぁ、そろそろ自分で歩かないか?」
「えーだって眠いし、楽だし、あったかいし?」
はぁぁ、耳元でタフが盛大にため息を吐く。
「なぁ、甘やかしすぎだろ?」
タフがタツキに言えば
「俺に言われても、な。絶賛甘やかし中のヤツに」
逆襲されていた。
怠いのは本当だよ?魔力を変換したり渡したりするのは慣れてない。だから余計な力が入って効率が悪くなる。だから疲れる。という悪循環みたいだ。
そろそろ歩き始めて6時間ほど。お昼ご飯を食べたら動けそう。それまでファイトだよータフ。
「休憩だ!」
ガルの号令でタフから降りる。
「ご飯作るよー手伝って!」
タツキとレイキに声をかける。すると
「僕たちも何か手伝わせて欲しい」
レイノルドとライルだ。どうやら気を遣ってくれたようだ。なら頼むかな。
「じゃあこれとこれ、皮を剥いて?魔法でね!」
ジャガイモと人参を渡す。
レイキにはカリコリーを渡して適当な大きさに切ってもらう。タツキにはオークの肉を大きめにカットしてフォークで穴を開けてもらい、先に油を引いた寸胴で焼き色を付けてもらう。
カットの終わった野菜を入れて油が馴染んだら小麦粉を投入。混ざったらお水と姫牛乳を入れる。コンソメと塩を入れて味を整える。そう、クリームシチューだ。いい匂いが漂う。かき混ぜるのはレイノルドだ。結構、力がいるからね?
混ぜる工程はライルがやった。野菜を飛ばしたりとその手つきはきごちなかったけどね。
練習あるのみ!
出来上がったらお鍋を2つに分けて、テーブルごとに1つだ。
先にお皿に取り分けてから中央にドンッと置く。
「出来たよー!」
「うおーい!」
野太い声が響く。
「いただきます!」
「「いただきます!」」
「「うまぁい!」」
「これだーー、美味い!」
それは良かったよ。ガルたちが泣きながら食べてるのには引いたけどね。
「シーちゃんはほんと料理上手だよね?」
しっかり私の保護者枠に収まったタフが言う。
「ありがとう」
「それな、野営ってもっと過酷だと思ったけどな」
「おいおい、これが普通じゃ無いぞ?」
「分かっててもな?」
「うん、もうエル無しでは生きられないかも」
サナエ…それはそれでどうかと。
私もだいぶ回復したよ!食事は偉大だね。
(シエル、シチュー見てみろ)
レイキだ。何で?
(シエル作のシチュー、体の疲労回復と魔力を回復させる効果あり 微)
ぐほっ…けほけほっ。マジか。
(レイキは気が付いてたの?)
(いや、今気が付いた。お前の食事を食べると体が楽になるなって思ってさ)
ちなみにこの念話はレイキとだけしている。意識を変えればレイキとなら2人で会話が出来るのだ。多分、⭐︎6チートなんだろう。
(まぁ、微だし…大丈夫だよね?)
(タフは多分、気が付いてるぞ?なぁ彼は信用出来るのか?)
(多分ね…、時間停止に気が付いてたの。それに、気になる事はあるんだけど、彼は味方だと思う)
そう、あの襲撃者の言ってたブツとか、お母さんの事とか。気にはなるけど悪意は感じない。私と抱き合っても平気だし、何より強いから。
(それなら構わないが…その、シエルはタフの事を?)
(あー無いね。恋愛感情はお互いに皆無。私の場合はそもそも人にそういう感情を抱けないかな)
あちらでのトラウマは簡単には消えないんだろう。
(そうか、それならまぁ)
みんなが食べ終わったのでレイキとの念話も終わる。片付けは魔法でちゃちゃっとね。
午後は私も歩いて順調に進み、野営場に辿り着いた。
夜ご飯はどうしようかな。もう面倒だしステーキだ!
また手伝いを希望したレイノルドとライルに肉のカットを任せる。
レイキにはジャガイモのカットを、タツキにはほうれん草とコーン(どちらもこの世界のもの)炒めを作ってもらう。付け合わせ。
ジャガイモが切れたらヒタヒタの脂で揚げて貰う。この工程はレイノルドが手伝った。
お肉を焼くぞ!ライルにお願いする。ひっくり返すタイミングは指示したよ?もちろん、お肉を叩いてスジキリもしたし。
ソースは魚醤とすりおろした大根。オロシソースだね。焼けたらソースをたっぷりと掛けて、フライドポテトとほうれん草とコーンのバター炒めを添えて、堅パンを薄くスライスして卵液に浸した塩味のフレンチトースト風を添えた。
さぁ、食べたまえ、諸君!
「うぉぉぉー」
「ステーキ」
「待ってましたー」
野太い声がこだまする。
「ヤバ、美味いー!」
「美味い!」
怒涛の勢いで食べ尽くされた。うん、何枚焼いたっけ?考えちゃいけないヤツだね。これは、うんうん。
片付けもサクッと終わって解散。
私たちはいつも通りテントの中へ。そこでソファとテーブルを出して寛ぐ。食後のデザートはアイスクリーム。きなこに黒蜜をかけたやつだ。そしてほうじ茶。
熱いのと冷たいのと、甘いのと甘いのと…最高だ!
「黒蜜って美味いんだな」
ポツリとレイキが言う。
「あまり和菓子って食べなかったから」
「まぁ若者はそうだろうな」
「私はわりと食べたかも」
サナエは女子だからね、男子よりは食べる機会も多かっただろうし。
「ご馳走様…」
「美味しかった」
その後は各自報告。この先も4人で動くなら情報共有が必要だろうという事で。
タツキたちはお姉さんやお兄さんがいるお店に行った。そこで、何人かのお姉さんと話をした。みんなそれぞれ気に入った人がいたので、奥の個室へと案内されてコトに及んだとの事だ。
そのまま朝までしっぽり…だったらしい。特に男性陣はやはり思うところもあったのか、やるせない気持ちを発散させたようだ。相手の人、ご愁傷様です。
サナエも優しいお姉さんに抱かれて、気持ちよく眠ったらしい。いつも抱いて寝てる私はそういう対象ではなく、だからやっぱりそれなりに思うところがあったようだ。
ここを離れると、サウナリスにはそういうお店も無い。安全を考えると誰でもいい訳では無いし、という事で2日連続で、となったそうだ。
昨日、助けに来てくれた時はまだお店の中にいたので、駆けつけられたとか。確かにね、繋がってる時に放り出すのは無理だよね?
「ぐほっ…お、お前…」
そう言ったらタツキが真っ赤になって咳き込んだ。
で、私の話はタフと眠ったこと、乙女の部屋で着替えようとして止めてカオスになった話。乙女の部屋って言ったら吹き出したレイキを睨んだり、胸を撫でられた事を話したり。
「その体ではな、確かに一緒に寝ても反応のしようが無いな」
吹き出しながらレイキが言えば、頷くタツキとサナエ。酷くない?
そして、夕食とタフへの襲撃者。エルフにだけ効く薬。
それからはまぁみんなも見た通り。で、魔力を渡すのに粘膜や肌を触れ合わせる必要があって、今朝の状態だったと。呑み込むのに時間はかかったけど、タフに害意が無い事は分かったらしい。
私たちの情報共有はこうして終わった。
「お前をさ、迎えに行った時に言われた知らない魔力や匂いがって言葉がマジで刺さった」
とはレイキ。
「私とラビは魔力に敏感で、アイカと私は匂いに敏感だからね。なんか、知らない部屋みたいで落ち着かなかった」
「それは気が付かなくて悪かったな」
「ごめんね」
「だからさ、別に私たちに危険がなければ適度に発散してくれて構わないんだけど。部屋をそもそも分けるか、分けないなら何か対策をね、して欲しい」
「あぁ、考えておく」
ここで話は終わる。
「なぁ、この先さ。どうしたい?まだ当面の目的地には着いてないが。俺はさ、鍛治の町に行きたい。マイヤーだったか。この国の端だよな?」
「そう言ってたね。防具を作るって事だよね?私も欲しいな」
タツキの提案にサナエが乗る。2人は戦闘職だもんね。
「俺も行きたい!そこで杖を作りたいんだ。で、そのまま隣のヤールカ国に入りたい」
「ヤールカは確か獣人が多い国だよね?」
レイキに聞く。王様から貰った本に乗ってた。
「そうだ!夢のケモミミだ!」
あー、レイキ君。残念だがケモミミは無いよ?もちろんしっぽもね。各獣の特徴、耳が良いとか目がいいとか夜目が聞くとか足が速いなどなどは引き継がれてるけど、見た目では判断がつかない。
唯一残る特徴はお腹。そこに元の獣の特徴が出るんだって。魚ならウロコ、鳥なら羽、猫や犬は毛。残念だけどね?そうそう、竜人もいるらしい。カッコいい人が多いとか。見てみたいね!鑑賞目的だけど。
奔放な国柄らしく、そこかしこで発情するとは本による知識だ。匂いで相手を見つけるらしいから、突然襲われたりもするとか。もっとも力づくでする事はなく、ちゃんと合意が必要。なので、手荒な事はされない。されなくても急に襲われたら怖い。
だからこのヤールカに入る前に、私は襲わないで!という意味を持つ花を頭に付けるんだって。男性も、だよ?
ふふっ、楽しそう。
「って事で、ケモミミはいないよ?」
がびーんとか言いながら蹲るレイキを見てみんなで笑った。
※読んでくださる皆さんにお願い※
面白い、続きが読みたいと思って貰えましたらいいね、やブックマーク、↓の☆から評価ををよろしくお願いします♪




