55.その結末とグスタフ
『ラビ、タフをお願い』
『ぷもーん』
『あーちゃん、行くよ?』
『わん!』
脱力して蹲るタフの肩にラビを見えないように乗せる。するとピカンとラビごとタフが光る。完全結界だ。私はブレスレットを外してタフの力の抜けた手首に付けた。これでこの結界に触れると…ふふふっ。
「げはははっ、嬢ちゃん…大切にしてやるよ!ぐははっ」
あーちゃんと息を合わせると、喋っていた男の口の中に風魔法で圧縮した空気を送り込む。
「ぐむっがはっ…」
目を剥いて倒れた。しばらく息すら出来ないはず。
倒れた後ろの男2人と、背後の男1人が襲いかかって来る。
背後で冷気を感じた。
「ゴハッ…」
前から来る男たちは石の塊をちょうど股間の辺りに固定した。そして自ら走って来て固定された石に股間を強かに打ち付けて悶絶していた。
ついでに倒れた彼ら4人の股目掛けて拳大の石で強打した。悪い事するモノは要らないよね…?その方が世のためだ。でも私は鬼じゃないからね、3回でやめた。
そして少しだけローブをはだけさせて
「キャーーーー」
タフにしがみ付いて叫び声を上げた。
『ラビ?タフを回復出来る?』
『ふもーん(無理)』
(中毒状態 進行中 解毒可)
どうやって
(粘膜の接触により可能)
粘膜って…口の中もあり?
(あり)
すぐにタフと唇を合わせて…粘膜の、これだけではダメ?
(口の中まで舌を入れれば可)
えーい、女は度胸だ!唇をこじ開けて舌を侵入させる。タフの舌は丸まって少し喉を塞いでいた。危ない、窒息の恐れもあったか。
丸まったタフの舌を絡め取って広げる。もうそれはただの作業で色気も何も無いけど、とにかく中毒を何とかしないと。タフ、戻ってきて…タフ、また抱っこして…お父さん…!
「ぐはっ…こほっ」
タフが咳き込む。唇を離すとタフのまつ毛が揺れてやがて目を覚ました。そしてタイミング良く、人が掛けてきた。
「大丈夫か?」
顔を向けると衛兵さんだ。転がる男たちと私とタフを見て
「コイツらは?」
「タフ、が…」
「シ、エル…」
私はガチ泣きした。タフに抱き付いて。優しく髪を撫でる手を感じる。
(ごめん、また助けられたな)
(ぐすん、ほんとだよ…もう。私の初ディープキスを返して…)
(え、えぇーー。あ、あれはそのだな、医療行為だ!キスじゃ無い。たとえ舌を絡めあっだとしても)
(覚えてるの?嫌だ、もう…お嫁にいけない)
(えっ、その胸でお嫁に行く…わ、ごめんて。だから首絞めないで、ぐえっ)
(もう…)
(はぁぁ、ねぇもう一回言って?)
(何を?)
(お父さ、いて…分かった、ごめんて)
まさか抱き付いて泣きながら、かたや脱力して横たわりながら、こんな会話をしてるとは誰も思わないだろう。
「エル!」
「エル、無事か?」
「エルちゃん!」
レイキにタツキにサナエだ。あ、エルは私だ。外で名前を呼ぶ時はエルって事にした。
後で聞くと、防御の指輪は働いてないけど、何かを感知したレイキがみんなに連絡をして連れ立って来てくれたみたいだ。
タツキは私の全身とタフを見て安堵し、レイキは全身確認して安心して崩れ落ち、サナエはぽよんで私にダイブした。
えっと心配かけたかな?でもこれは私は悪く無いよ?
男たちは衛兵に捕縛されて何処かに連行されて行った。
「タフ、歩けそう?」
「ん…ちょっと無理かも。怠い」
「俺が運ぶぞ?」
「あぁ悪いな。最中だったか?宿まで送ったら戻っていいから。ほんと悪いな」
「あ、あぁ…大丈夫だ」
タフ、言い方。もっとナニかあるでしょ?もう。
レイキとサナエはそのままお楽しみに戻り、タツキはタフを私たちの部屋の、私の室のベットに置いて戻って行った。
タフはぐったりしてる。
「大丈夫なの?」
「ん、あぁ…しかしキツイな」
どうにかならないのかなぁ。
(解毒後は体力と魔力が削られる。魔力を流せば回復は早まる)
嫌な予感。ちなみに魔力はどうやって流すの?
(接触した粘膜と肌から流す)
ふぅ、仕方ないか。いつまでもしょぼくれたままのおじさんじゃ可哀想だ。
「なんか酷いこと考えてない?」
「別に…ねぇ、魔力流すよ?」
「え、いやそれは…だって未開通って…」
何の話だ!そっちじゃ無い。
「そっちじゃ無いよ!だいたい、その体で無理でしょ?私にも無理だし。じゃ無くて、唇と肌を触れ合わせて…」
「えっと、それは裸になるって事だけど…いや、僕は大丈夫だけどね、嫌だろ?」
「特別嫌ではないよ、恥ずかしいだけで。だから暗くするよ?見ちゃダメだからね!」
「努力する」
タフに背中を向けて服を脱ぐ。背後でタフも服を脱ぐ音がする。
要するに、魔力を渡すには身体的な接触が必要なんだって。本当はね、体をつなげるのが手っ取り早い。でも私もタフもそういうのは無理だ。だからキスをしながら肌を触れ合わせて魔力を渡す。
そういう事だ。
脱ぎ終わってベットに横たわるタフの体に自分の体を密着させる。
硬くて温かな体。腕の中に包まれて、頬を撫でられる。そして唇を合わせると…緊張する。
魔力を渡すのは難しい。手から少しだけ魔力を渡したことはある。でもそれなりに魔力を渡すのは、気を付けないとお互いに大変だ。
細くゆっくりと魔力を渡す。点滴のイメージだろうか…。タフの体が楽になりますように。
薄く薄く薄く、ゆっくりと…。意識を保てたのはどれくらいだろうか?だんだんと自分の境界が曖昧になる。自我を保つのに精一杯だ。それでも、タフが早く元気になりますように…。
自分の体の上で魔力を僕に渡しながら、やがて眠りに落ちた少女を見る。ごめんね?僕は暗視のスキルがあるから、暗くても見えるんだ。その可愛いらしい顔も、体も。
その細い肩を見る。まだほんの子供と同じ。薄くて細い体だ。小さな、でもとても温かい体。
その魔力は優しい色をしていた。自分と同じ色の髪の毛を撫でる。唇を合わせたまま、寝落ちした愛おしい子。お母さん、見つけたよ。多分、この子たちだ。
ねぇ、シエル。僕が持ってるカバンは時間停止。そして亜空間収納を使える。
君たちも、だよね?僕はきっと君たちを見守るために生きてきたんだよ。守護者として。
あぁ、君の従魔もそうだね。
僕は温かなその体と唇を感じながら、目を閉じた。
翌朝、宿に響き渡るような悲鳴と怒号で目を覚ましたら。ん?何…まだ眠い。
タフが何か喋ってるけど、眠いよ…あ、タツキとレイキ、サナエの声も聞こえる。んん…うるさいなぁ。怠いんだからもう少し寝かせて。
俺たちはミドルナリスを出発して当面の目的地、サウナリスを目指している。ここから徒歩で約5日。
同行するのは護衛依頼パーティーの空かける翼、そしてノースナリスの大店、リーブラン商会の跡取り息子であるレイノルドと従業員のライル。そして、彼らの護衛としてグスタフだ。
俺は今朝のことを思い出してため息をついた。
朝帰りした日、夜にタフがぐったりしていたのもあって気になったから。シエルの部屋を扉を開けた。
そこにはタフと裸で抱き合うシエルがいた。しかもキスしている。毛布からはみ出た細い肩をタフが抱くように腕を回している。2人の境界は見えず、身体が密着したいるのが分かる。
えっ、まさか…?
同じく部屋の入り口から中を覗いたレイキとサナエも大混乱だ。そしてサナエの悲鳴が響き渡る。
その声でタフとシエルが目を覚ました。タフは俺たちに見られていると分かって毛布をシエルの肩まで引き上げた。シエルは眠そうにタフの胸に顔を埋める。
はっ…?ナニをしたんだ?
タフは
「いや、違う…違わないがその、訳が」
しどろもどろだ。シエルはシエルで
「怠いよ、うるさいなぁ…眠い」
とタフに抱き付くし。カオスだった。レイキもサナエも魔力をねっていたが、2人は密着してるから何も出来ず。結局、タフがシエルを揺り起こしてことの顛末を聞いた。
タフに促されて起き上がったシエル。おい、待てお前はまだ服を着てな、い。
毛布が滑り落ちて見えたのは白くて細くて薄い体だった。6才児か…?一瞬、見えた体はすかさずタフが毛布で覆った。いや、その前に自分のを隠せよ!サナエは真っ赤になって後ろを向いてる。
事情は後から聞いて分かったが、本気で裸で抱き合って唇まで合わせて寝た?
いやまぁ、あの体に反応するのは無理だが。それにしても、はぁぁ。
俺はまたため息をはいた。
グスタフもシエルも全くお互いを異性と意識してません
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