50.危機
15日目
予約忘れたので…いつもより遅いです
不穏な気配は止まない。背中のサナエも体を硬くして私にしがみ付いている。ルーもテント周りの防御を固めた。魔力を伸ばして気配を探る。
これは、死者の行進?ゾンビではない。レイス…?これが。普通の剣では切れないという。
なんだか安眠妨害されて怖い思いをして、イラっとする。
全部全部、その抱えている想いごと消えてしまえ!
そう強く思ったら…瞑っている目にもピカンとした光を感じた。
成仏して…。しばらくすると、するすると光は収束した。
そしてシンとした静かさが戻る。もう、眠い…。
目が覚めると、ん?ガタガタしてる。何だ…ん、眠い…。頭が柔らかなものに当たって気持ちいい。胸元にはラビとあーちゃんだ。あったかい。今何時…私はなにして…!あ、不意に目がハッキリと覚めた。
そして飛び起きる。サナエが驚いた顔で私を見て、それからギュウと抱きしめた。まった、ちょっと…い、息が苦しい…サナエ、ギブギブ!必死に腕をタップする。
「あ、ごめん…でも心配したんだよ?」
涙目で私を見るサナエ。えっと…?首を傾げると説明された。
どうやら、昨日のあれは夢ではなく(不穏な気配のほう)、現実だったらしい。
聖剣でしか斬れないレイス。聖水もなく、攻撃を躱すことしか出来なかった。非戦闘員のレイノルド、ライルと私たちパーティー以外は外でレイスと戦った。夜が明けるまでなんとか持ち堪えて…と思ったら何か明るい光が夜を照らし、レイスは消えたそうだ。
ふむふむ、心当たりがあるような、ないような?
みんな疲れ果てて、夜番以外は寝たと。で、朝になっても私の目が覚めず。
ゆすっても何をしても身が覚めず、さりとて怪我をしてるわけもなく。とにかく、荷馬車の片隅にサナエと放り込まれて出発したと。
で、今の状態。
はて、何が原因で起きれなかったんだろう。謎だ。
「だから心配したんだよ…もう眠り姫みたいで。そしたらタフが誰かのキスで目覚めないか、なんて言うから」
うわぁ、そんなの嫌だ。意識がない間に誰かにキスされるとか。
「あんまりにも騒動が大きくなって、お昼までに起きなかったらタツキがね?キスするってことになったの」
危なかった…回避できて良かったよ。色恋沙汰とか勘弁して欲しい。
「だから良かった!シエルの初めては私がって思ってたから…」
サナエさん…狙ってたのね?密かに。頬を染めてもじもじする様はとても可愛いよ?狙われてるのが自分でなければね。
「今は何時ごろ?」
「もうすぐお昼だよ。ねぇ、寝たふりしてみない?」
「なんのために?」
「んーくすっ、タツキの焦った顔を見るため?」
「えー、間近で見るのはちょっと…」
「そう?残念」
サナエさん、目が怖いっす。
少しすると馬車が止まった。私はサナエにもたれかかっていた。
馬車の後方の幌が外されてレイキが覗き込む。起きている私を見て、サナエを見て
「なんだ、起きたのか?」
「なんだって何さ」
「タツキの悲壮な顔がなぁ…ぷぷ」
レイキは後ろを振り返ると、首を振った。
「まだ起きないのか?」
その声は苦しそうだ。いや、そんなに私にキスするのが嫌なのかね?まぁ嫌だろうな…。
そしてものすごく思い詰めた顔のタツキが幌の中を除く。そして起き上がっている私を見て
「えっ、あれ?はぁ…?おい、レイキお前!」
「いやーキスを楽しみにしてるかと思って…」
「んな訳無いだろ?はぁ…」
タツキの顔は真っ赤だ。まぁ分かる。私も困るし。
「あ、シエルその…気分はどうだ?」
「ん、まぁまぁかな。なんか、ずいぶん寝てたみたいで」
「ん、あぁ…そうだな…」
しどろもどろだ。
「なぁ、シエルは何をしたんだ?」
何をしたのか、か。んー何をどうしようって行動はしてないからなぁ。
「具体的には何も」
「抽象的には何かしたんだな…」
「そうとも言うかな?」
「何を思った?」
「多分、レイスだったから。成仏してね?かな。全ての想いを無に返して…って」
「あーなるほど。だから消えたのか」
「おい、大丈夫か!」
「目が覚めたんだね?」
「体調は?」
「大丈夫?」
馬車を覗き込んだみんなに口々に聞かれる。
「ん、少し怠いけど…大丈夫かな」
「心配したんだぞ?その…」
タフが口ごもる。
「どうやって入ったの?」
タフを正面から見て聞けば
「えっ、いや…はぁ。なぁ防御、とんでも無いな?レイスに当たる前に死ぬかと思った」
「乙女のテントに入るなんて許されないでしょ?」
「「乙女…」」
「ぐふっ…乙女…」
誰だ、吹き出したのは?やっぱりレイキか。ふんだ!
「お前はまた変に絡みそうだったから、牽制したんだよ!まったく死ぬ思いでテントに入ったのに…」
「こっちは怖かったんだよ!急に口を塞がれて」
「「!」」
「へっ、あ、あれは…仕方なくだな。そもそも俺は子供に興味は無い!」
「隣にサナエもいたし…」
「そ、それは…」
タフの目線はサナエのぽよんに行ってるね。
「ち、違…サナエも含めて…だ?」
…なぜ疑問系?だから目線!お腹を突いてやった。硬いな。
「で、お前何した?」
「(具体的には)何も…」
「はぉぁ…何かしたんだな!だが、助かった。お前、聖力があるのか?」
「ん?そっちはまだ未開拓だよ?」
「ち、違うわ!精力じゃなくて聖なる力だ」
「知らない。そっちも…」
ぷいっとしつつ考える。無いよね?
「はぁ、何にせよ助かった」
「そういえば、ラビに聖魔法がなかった?」
「はぁ…?」
「えっ…?」
『あるよー!ご主人魔力に合わせて発動したー』
「ぐはっ…」
レイキが笑いを堪える。
「うん、やっぱりラビが聖魔法を放ったみたいだね…」
嘘は言ってない。私も使ったけどさ。ウィンウィンだ。
(シエルに合わせてラビが使ったんだろ?)
(…そうとも言う、かな)
(ぐはっ…いや、ほんと。俺の腹筋はマジですげーぞ?)
(後で見せて!)
(おう?お前のおかげでバッキバキだ!)
「お腹すいたなー」
「タツキと俺が作るぞ!」
「よろしくー」
(身体が怠いのは聖魔法を使ったからみたいだな)
(使おうと思って無いのにな)
「少し休んでろ」
お言葉に甘えてサナエのお膝にダイブ。すりすり.ふわぁ眠い。
ウトウトしてたら
「シエル、出来たぞ!」
「ん…起きる」
起こしに来たレイキに手を差し出す。ため息を付きながら私を抱きかかえて馬車の外に出してくれた。
テーブルまで運んでくれたから椅子に座る。
石窯ピザだ!嬉しいなぁ。
「「いただきます!」」
うん、はふっ…もぐもぐ、あふいっ…うんうん、はひふっ…美味しい…。空きっ腹に染みるな!
「ぐはっ…空きっ腹って…」
いつもより気持ちたくさん食べた。うん、美味しいねー。
少し休憩して出発。
ちゃんと歩いてるよ!身体が鈍るから。どうせ風魔法で体は浮かせてるしね。
私は歩きながら手を見る。
(聖なる魔法を使うために魔力を聖魔力に変換したことで、体力を使った)
聖魔法は使えないのに、無理に使ったってことかな?
(聖魔法を使うには聖力(聖魔力)が必要。聖女以外には発現しない)
でも使えた?
(⭐︎6スキルがあれば魔力を聖魔力に変換できる)
要はチートなんだね。ってことはレイキも使えると。
あのレイスたちは突然現れたの?
(異世界から召喚することで、負の力が増す。この世界はバランスを保とうとする。この反動で、負の力であるレイスやゾンビ、魔獣が増えている)
そんな…。私たちが召喚されたことで、バランスが崩れる。それを補うためにこの世界が負の力を増しているなんて。私たちのせいでは無いけど、間接的には関わってるんだ。
なんか切ないな…、それって。
世界のバランスを保つ為…。本来、私たちに課されたのはそのバランスを崩す負の力を抑えること。
でも、そもそも私たちを呼んで負の力が増すなら本末転倒な気がする。
だって呼んで増えて討伐するなら、元の負の力は結局変わらない。意味ないの?
なんだかなぁ、と思った。この国の王様たち、おバカさんかな?
召喚された私たちの周りに負の力をが多くなってたりするのかな?それだと嫌だな。平穏な暮らしが遠ざかるし。
(負の力はより強い対極の力に寄ってきやすい。が、傾向なだけで、ピンポイントに寄っては来ることはない。今はグスタフの強い力に引き寄せられている)
グスタフのせいか…。
※読んでくださる皆さんにお願い※
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