45、心の整理とお揃いのアレ
13日目
私は籠っていた部屋を出て居間に行く。
それぞれの部屋に一旦は散っていたけど、みんな居間に集まっていた。
「何してたの?」
サナエが聞いてくる。
「後で話する!サナエは?」
「私は荷物の整理を。あっちから持ってきた持ち物とか。下着以外の服とかハンカチは洗ってなかったからウタマル石けんで洗ったり、お財布の中のレシートとか見てた」
「そうっか、私もね…レシートがいっぱい入ってて。でも捨てられなかった。いつかもういらないって思えるまでは取っておこうと思って」
「それな、俺もさ。フェスのパンフとかさ、悩んで買わなかったフィギュアとか。買えばよかったな、って」
レイキは見るからにおタッキーだったもんね。
「俺はスマホの中に入れてあった写真を見ていたよ。子供が赤ちゃんのころからの写真。懐かしくってな…。出張から戻ったら飲みに行こうって言ってたんだ」
それぞれの思い出を感じる時間だったんだね。
「で、お前は何をしてたんだ?」
私はそれぞれ色の違う箱、マルシェで使うギフト用に持ってた箱を取り出す。
みんなに一つずつ渡す。
「前にタツキが私の指輪がカッコいいって言ってくれて、お揃いとかいいなって。だからお揃いのを作ったの。開けてみて!」
みんなは驚きながら箱を開ける。
「「「!!」」」
サナエが箱から指輪を出すと、しみじみと見てから私にそれを渡す。
「どこ?」
「シエルと一緒で」
私は左手の人差し指だから、サナエの左手を取って指輪を嵌める。元々フリーサイズだけど、そこは魔法で自動調整にした。
おぉ、細くて長い指に良く似合う。
サナエは左手を眺めてからそっと右手で包み込んだ。
「ありがとう、すごく嬉しい」
「お揃いだよ!」
レイキも私に指輪を渡してくる。
「どこ?」
「左手の薬指」
「いいの?」
頷くので、左手を取って指輪を嵌める。ゴツゴツとした男性の、でも細くてしなやかな指だ。
うん、似合うね!
「シエル、ありがとう…」
照れて笑っている、可愛い。
タツキも私に指輪を渡してくる。
「どこ?」
「左手の中指」
薬指には結婚指輪があるもんね。
タツキの左手を取って指輪を嵌める。いつも私と繋ぐ大きな手。大きくて節だってるけど、長くて綺麗な指だ。指輪はとても似合う。
「ありがとう」
おっ、デレてる?珍しい。ニヤニヤしたら頭を叩かれた。何故だ?
「なぁ、これ…何を載せてる?」
やっぱりレイキは分かるよね?
「危機感知」
「ぶほっ…はぁ?」
「ラビよりは劣るけど、お互いに何か有れば分かる」
「はぁ…ほんとお前は簡単に…」
「でも、嬉しいよね!ねぇ、これも付けて!」
サナエがこんどはネックレスを渡して来た。その髪の毛を避けて前から抱きしめるようにネックレスを付ける。最後に軽く石に触る。
よし!
レイキとタツキにも同じようにネックレスを付ける。
「なぁ、光ったよな?」
「光ったな」
「こっちは何?」
「治癒だよ!」
「「はぁ?」」
「あると便利でしょ?悪い所とかケガを自然に治すよ」
「…まぁシエルだし」
「シエルだからな」
「シエルだもんね…」
「これはブレスレットだよね?可愛い色」
「サナエのはローズクォーツ、タツキがゴールドルチル、レイキがラピスラズリだよ」
「おい、これは何を組み込んだ?」
「さすがレイキ!防御だよー。敵が来たら凍る仕組み!バキバキに凍らせちゃう!」
「…まぁシエルだからな」
「ありがとう、大切にするね!」
「おう、ありがとな!」
「嬉しいぞ!」
良かった。私自身は指輪とブレスレットは元からしてるし、ネックレスだけは私もお揃いのを作った。
ふふふっ。
さて、夕食の仕込みでもするかな?
「夕食の仕込み、手伝ってー」
「「おう」」
「うん!」
あーサナエさん、張り切ってるところ悪いんだけど、盛り付けだけでね?
ほら、お野菜切るとスプラッタだし?お肉切ると何故かミンチだし?果物切るとジュースになるからね?
代わりレイキとタツキは色々もよろしくだよ?
メニューはオークのミンチ肉を使ったハンバーグ、ワイバーンステーキ、お魚のフリッターにフライドポテトだ。
サフランライスもね!ワイバーンステーキは香辛料につけてタンドリーチキン風に。
ミンチ肉は堅パンを砕いて(この過程でサナエが活躍)パン粉にし、卵とこねこね。しっかり粘りが出るまでこねて整形する。ここはみんなで好きな形に。わたしは俵型。丸々とした俵型が好きだから。
レイキは器用に星型。サナエはなんだろ?不思議な形でタツキは四角だ。
下拵えが出来たら一旦、手を止める。後はみんなが集まってからだ。焼いたり揚げる工程はタツキとレイキにも手伝ってもらう。
簡単コンロは3台体制だよ!
「そろそろ集まったかな?」
「うん、どうかな?揚げ始める?」
「魔力感知出来るか?」
ラビを見るとぷもん、もん…と鳴いた。
ボチボチらしい。
「全員ではないけど集まってるみたい。よし!揚げ始めよう。来たら確認してから、サナエが開けてね」
「分かった」
タツキとレイキとコンロに火をつけて油を温める。サラダはすでにテーブルに出してある。飲み物は宿に頼んで運んで貰った。
揚げ始めて少し経つと扉がノックされた。魔力感知。うん、ガルたちパーティーとタフにロドリゲスさんとレイノルド、ライル。揃ってるね!
「サナエ、開けて!」
「分かった」
扉を開けるとガルたちが雪崩れ込んでくる。
「うわぁ、この匂いがもうヤベー。ぜったい美味いやつだ!」
「はぁ、やっとシエルの料理が食べられる!」
「待ってたぞー!」
「ご飯…」
「私たちまでご相伴に預かるよ!しかしいい匂いだ」
「座って待っててー!最後の仕上げしてるから」
「おお、タツキもレイキも料理が出来るのだな!」
「俺たちはオマケだ。味付けとか献立はシエルだ」
「手伝いだけだ…」
ふふふっ、謙遜してるけど…期待してるんだよ?
「おい、まだか…もうツライ」
「匂いだけって、拷問だ!」
「出来たのから食べたい…」
子供なの?ねぇ、みんなは。
しっかり火を通さないとダメなんだよ?
うん、どんどん揚げ物は上がっていく。タツキとレイキは揚げ物とステーキ担当。1番難しいハンバーグが私。焼き上がったらそこに塩とバターとバジルを投入してソース作り。よし、出来た。
ほかほかのハンバーグだ。
各自のお皿に分けて盛る。残りは大皿だドンッ。
「出来たよー、じゃあ手を合わせてーいただきます!」
「いただきます!」
「いただきます?」
「…」
リーブラン商会の3人は?な顔をしてたけど手を合わせてごにょごにょ言ってくれた。食べよう。
まずはフライドポテト。はふっ…うん…あふっ…おいひぃ…はふっ…ごくん。あーヤバい。コーラ飲みたい!
後でエオンで買って飲もう。
次はハンバーグ。ふーふーパクンッ…!美味しい。肉汁が口の中に溢れる。お肉の味がしっかりしてて、でも臭みがなくて美味しい。ヤバい、もっと確保しとこ。
さっきとったのは俵型、せっかくだし星形と四角と不思議な形のハンバーグも確保した。
オークの肉は牛肉と豚肉を足して2で割った感じの味だから、まさにハンバーグには打ってつけ。
しかも回収したときからミンチ。手間が省けて良かった。
つなぎなしでガツンと肉肉しくとも思ったけど、割れちゃうかなって思って少な目にパン粉を入れた。
だから結構肉感がしっかりとして美味しい。
みんなも「うまい」「ヤバ」「それは俺のだ」「確保だ」「取り過ぎ」
などわいわいと食べている。
そしてけっこうたくさん作ったはずなのに、きれいさっぱり…あの柔らかいパンも出したら肉汁をパンでさらって。
お皿の上にはパンくずすら落ちていなかったよ。
「うまかった、あのステーキ!外はカリっとして中はジューシーで」
「何の肉なんだ?」
「ワイバーンだよ!」
「…はっ?」
タフと我らがパーティー以外はフリーズした。
「ワ、ワイバーン?の肉…?はぁ」
「やべ、俺めっちゃ食べた」
「おい、いくらだよ…」
「100gで3000ガロンだね!だいたい1枚で200gだから6000ガロン」
「ひえっ…俺、10枚は食べた…6万ガロン」
「マジか…ワイバーンの肉って…」
蒼くなる面々。
「大丈夫だよ、タフが取ってきてくれたものだし。元はタダだからね!まだまだ残ってるし」
「グスタフさん!ゴチになります!」
「ん、俺料理できないからな。シエルに渡しとけば美味い料理になって出てくるから。気にするな!いつでも狩れるしな」
(((それはグスタフさんだけっす…)))
「あ、その…あと不思議な形をしたお肉の塊。あれも凄く美味しかった」
「あれな…丸っこいのと星と四角だよな、もういっこ変な形のがあったけど、崩れたのか?」
「あれはぁ、雲の形なのぉ…」
にこにことサナエが答える。
「雲…」
(((どうみても崩壊したようにしか…あれを敢えて作ったのか?)))
うふふっと笑うサナエに誰も突っ込めず。
「あ、あのホクホクした芋?あれも美味かった。熱々で」
「「「どれも美味しかった!!!」」」
フライドポテトは最強のB級グルメさ。
良かった、喜んで貰えて。
「シエル、本当にどの料理も美味しくって…今すぐ嫁に来て欲しいくらいだ」
ロドリゲスさんが言う。あーはい、社交辞令ね。
「まだまだですよ…私なんて」
「そんなことは…本当に成人したらすぐにでもお嫁に行ける」
レイノルドが言う。
「うふっお嫁に行く気ないし…」
「いやいや、もったいない。ぜひレストランを開いて欲しい」
ライルもうまいなぁ、もちろん、目立ちたくないからね!しないよ、そんなこと。
客商売って面倒だし。
「家庭料理の域を出ないから無理だよ」
残念そうな3人だった。
(シエルってほんと変なとこで鈍感だよな?)
(何でだろうね?社交辞令とか思ってそう)
(マジか?あれってけっこうガチだろ?なんなら成人したらレイノルドの嫁にって本気で思ってそうだ)
(だな、レストラン開けそうだもんな…)
(シエルは全く、だよね?レイノルドさんの目線とか)
(あれな…マジで恋する5秒前みたいな目で見られてんのに)
((全く分かってないな…))
そんな念話が繰り広げられてるとは知らないシエルだった。
「その、ところでパーティーの皆さんでお揃いの指輪だね?素敵なデザインだ」
「僕も気になってて。シエルの細い指に似合ってるって。そうしたら皆も付けてて」
「デザインも素敵だし、とてもお似合いだ」
リーブラン商会の皆はさすがに口がうまい。でもこれは売らないよ。
私たちだけの物だからね。
「私が作ってお揃いにしたの。パーティーの証にね」
「いやはや、シエルは凄いな。あと20才若ければ…悔やまれる」
ロドリゲスさんが20才若いならアリかも?
まぁ誰とも恋愛も結婚もする気はないけど。
「そろそろお暇しよう。明日も早いんだろ?」
「そうだな、6時にはここを出る。乗合馬車は結局、王都から来ないからここからミドルナリスにも出てなくてな。また歩きだ」
ガルが答える。
「徒歩なら5日はかかるな…気を付けて。まぁBランクパーティーとSランク冒険者がいれば大丈夫だろうが」
「そいつらも自分たちのことは自分たちで出来るからな。こんなに楽で美味しい依頼は初めてだ」
「では失礼する。旅を無事を願っている」
「「おやすみなさい!」
扉が閉まる。みんな片づけをして帰ってくれたから、あとはシャワーを浴びて寝るだけだ。
こっちは湯船がないからなぁ。お風呂に入りたい…。
疲れたので、シャワーをサッと浴びて。サナエを見ると
「今日は1人で寝てみる」
というので自分の部屋にラビとあーちゃんと入って行く。
ベットにぽすりとダイブ。ラビとあーちゃんとのもふもふまふまふタイムだ!
全身撫でまわして匂いを嗅ぐ。
耳の中も頭も胸もお股もお尻もね!ふんふん、良きお尻ですねぇ…柔らかい。
堪能したので寝ることに
毛布をかけてラビとあーちゃんを胸に抱えて目を瞑る。
無事にミドルナリスに着けますように!
※読んでくださる皆さんにお願い※
ハンバーグは俵型が好きだ!と思った方…
また面白い、続きが読みたいと思って貰えましたらいいね、やブックマーク、↓の☆から評価ををよろしくお願いします♪




