44.さすが大店だ
13日目
お昼ご飯はせっかくだし食堂で取ることに。
何があるんだろう?リサーチだ。歩きながら食堂をチラ見していく。
「なあ、あれって揚げ物だよな?」
見てみると厨房でバチバチと油の音がしている。
「衣を付けてる様子はないね」
「素揚げじゃない?」
なるほど、確かにそうかも。
エビの素揚げに塩をちょっと振って食べたら美味しいよね。浜焼き風?
「あそこで食べたい!」
レイキが言う。気になるよね、私は賛成!みんなも頷いているのでお昼は決まり。
リーブラン商会に寄って商品を渡したら冒険者ギルドに行く時間になる。ついでと言っては何だけど、少しだけリーブラン商会の中も見てみたい。
「なあリーブラン商会に行くんだろ?中を見てみたい」
「私も…大店って聞いたし。今後のリサーチも兼ねて。シエルどう?」
「うん、いいと思う。単純に興味もあるし」
「そうだな、まだ少し時間もあるしそうするか」
リーブラン商会に向かった。私とレイキは昨日ぶりだ。
着いたらタツキとサナエはぽかんと見上げている。大きいよね?3階建ての建物で、1階はとても大きな入り口の店舗だ。ショウウインドウは無いけどガラス張りでお店の中が見やすくなっている。
扉を開けて入る前にライルが私たちに気が付き、扉を開けてくれる。
「ようこうそお越しくださいました。奥にご案内します」
そのまま商談室となっている個室へ案内された。なんとなく気遣うような視線がいたたまれなかった。
奥からロドリゲスさんとレイノルドが出て来る。
「ようこそお越しくださいました。…シエル、その…もう大丈夫だろうか?」
ロドリゲスさんに聞かれてしまった。そうだよね、迷惑かけたし。
「うん、急にごめんなさい。時々感情がうまく制御できなくって。レイノルドも…」
「いや我々は何も。ただあまりにもその…切なそうで心配したんだ」
「もう大丈夫。家族にはもう会えないけど、かわりにみんながいてくれるから」
痛ましいものを見る目で私を慈しむように見るロドリゲスさん。
レイノルドは何か言いかけてやめた。ライルは悲しそうに俯いている。
「あの、本当にもう大丈夫。今日は昨日の夜に渡せなかった分の商品を持ってきたの!」
湿った空気を払拭するように明るく言う。
「楽しみにしていたよ」
机の上に置いたトレイに石けん各種と今春タオルを置く。
「それは試供品で、売るのに使ったことがないのもどうかなって思って。レックス石けん。一つはお店で、一つはレイノルドが、もう一つはライルが使ってみて」
「こ、このトレイは?」
え、そっちなの?チラっとレイキを見る。
「あーそれは俺が作った」
ロドリゲスさんは驚いて
「なんと、レイキはこのようなことまで」
そうなんです!この子のジョブは凄いんです!!
(おい、なんでシエルが偉そうなんだよ!)
(私が育てたと言っても過言ではないからね)
(過言だろ!どうみても)
えへへ、照れるな…。
タツキに頭を叩かれた。何故だ。
「では確かにお預かりします。こちらがお代となります」
牛さん石けん 100×250=25000
ウタマル石けん 100×400=40000
レックス石けん 25×1200=30000
今春タオル 10×2000=20000
こちらこそありがとうございます。
「せっかくなので店を見ていかないか?珍しい調味料があるんだ」
片目を瞑って私を見るイケおじ。はい、喜んで!
いそいそと付いていこうとしてタツキに手を繋がれた。とにかく、外にいるときはタツキかレイキと手を繋ぐように言われている。そうだった、お店の中だからと安心してたよ。
タツキをぐいぐい引っ張ってイケおじに付いて行く。
「このあたりが調味料だよ」
ありがとう、ロドリゲスさん。
エオンでは手に入らない外国の調味料、主にチリソースとかコチュジャンみたいなの、鶏がらとかコンソメまであった。
日本の調味料と全く同じではないけど、似たものがあればいろいろとごまかし易くてエオンでの購入もしやすい。
そして、コーンスターチとかサフラン、ベーキングパウダーも見つけた。
凄いね!
「我が商店は外国からの仕入れもしていてね、調味料は特に力を入れているんだ」
イケおじ最高!
ってことで大人買い。満足ー!フォー!!
ぐはっ…安定のレイキだった。
そして買い物を終えて冒険者ギルドへ。
査定金額は結局、かなりの額になったんだよ。で、タフにワイバーンのお肉がものすごく高く売れたから、こんなに貰えないとお金を渡してお肉も返そうとしたら「迷惑料だから」と受け取ってくれなかった。
「俺はけっこう金持ちなんだぞ?」
だって。なんでも高級住宅街に豪邸も持ってるらしい。まぁね、ワイバーン1体で軽く1千万ガロンはいくからね。
それならと有難く貰うことにした。
冒険者ギルドでお金を受け取って(結局、1パーティーで60万ガロンぐらいの収入になった)お昼ご飯を食べに行った。
やっぱり浜焼きのお店。焼いたり上げたりして塩で食べる。新鮮だからどれもすごく美味しかったよ。
レイキが地味に涙目だった。
美味しいお昼ご飯を終えて、宿に戻る。
結局、明日にはここを出発することにした。
そしてなぜか、タフもサウナリスまで着いてくることになった。もちろん、護衛依頼は出していない。というか出せない。だってSランクだし。
タフはサウナリスに友人がいるから会いに行くついでだ、と言っていた。
それならばまぁ食事ぐらいは出すよっていったらめっちゃ喜んでたよ。それが目的なの?
で、昨日のお詫びも兼ねて今日は空かける翼のメンバーとタフ、それにリーブラン商会の3人も呼んで夕食をご馳走することにした。
だってね、ワイバーンのお肉があるし。オークのミンチ肉もあるし。
いつ使うの?今でしょ!ドヤっ。
宿に帰ったらまずは部屋にお籠り。ずっとやりたかったけど時間がなかったからね。
3時間もあれば十分だから。
私は転移したときに持っていたスーツケースを開く。そこにはハンドメイト用の素材や工具、作品がたくさん入っている。
什器なんかも持参だから、けっこう嵩張ってるんだよね。
今となってはなかなか買えないから、ある意味貴重品だ。
そこからデッドストックのボタンを取り出す。お気に入りでまとめ買いしたシルバーに黒の長方形のデザインがカッコいい一品だ。
私がしていてタツキがカッコいいと言ってくれたあの指輪。
ボタン足をカットして電動工具で真っ平にする。埃を丁寧に払って接着剤を付けて指輪の金具に載せる。
ボタンが接着しやすいように丸い土台が付いたフリーサイズの指輪だ。
7号から12号までのフリーサイズと11号から15号までのフリーサイズの2種類。
どちらもサージカルステンレスなので金属アレルギーの人でも使える。
ハンドメイド用の接着剤は完全硬化に24時間かかるものが多い。でもそれだと時間がかかり過ぎるので、そこは時間促進でサクっとね。
大き目2個と小さめ1個を作った。これには危機感知の魔力を込める。お互いに何かあれば分かるようにね!
これでカフスボタンとかも作ったんだけど、そっちは売れなかったんだよね。カフスって今の人はあまり使わないのかな。
せっかくだし、シャツの袖に穴をあけてタツキとレイキに使ってもらおう。
後はブレスレット。天然石もたくさん作品として持っていた。
その中からタツキにはゴールドルチル、レイキにはラピスラズリ、サナエにはローズクオーツのブレスレットを。
それぞれに防御の魔力を組み込む。
最後にネックレスかな、こっちはエンジェルシリカのブレスレットを切ってビーズにした。
それをステンレスのネックレスに付ける。
こっちは治癒の魔力を込めておこう。4人でお揃いだ。
できた!
ちなみに魔力を込めるのはいわゆる付与魔法の一種でやりかたは魔法通信で調べたよ。知ってれば簡単に出来るんだけど、いわゆる秘伝の技みたいでね。
表に出ないから出来る人が限られるみたい。それを調べて分かっちゃうんだから、やっぱり☆6は伊達じゃ無いんだね。
でも戦闘特化のジョブではないからやっぱり一人ではできることに限界がある。
いわゆる補助職というのかね?
ほんとみんなに改めて感謝だね!
さて、出来上がったしお披露目を兼ねて。みんな何してるかな?
昨日、夕食でこの国では珍しい魚料理が出た。鮮魚のカルパッチョから始まるコース料理。
慣れ親しんだ魚料理。うまい、凄く美味いんだが…なんだか嫌な予感がする。
俺はチラッと横に座るシエルを見る。突然、号泣スイッチ入るからなぁ。
気をつけておかないとな。
前菜の次は魚介サラダだ。タコやイカ、エビなんかもある。こういえばエビフライがどうとそか言ってたか?
さらに嫌な予感がした。しかし久しぶりの魚介類に俺もテンションが上がっていたようだ。
隣で俯いたシエルに気が付かなかった。
レイキから念話が飛んできて隣を見ればもうすでに固まって泣いているシエルがいた。
あちゃー、やっぱりか。予想はしていたが突然だからな。
そういえば息子も14才くらいの時には俗に言う反抗期で、何か言うたびに反発していたっけ。
シエルは変に物分かりが良くって周りを良く見ている。
周囲の感情には敏感なんだけどな、自分の感情に無頓着な分、突然崩れる。
本人は思春期のよくある感情の揺れだと言っている。
周りがざわざわとする前にシエルを抱えて膝に座らせた。
普通の14才と比べると多分、小柄だ。子供はどちらも男の子だったから比較はできないが。
この世界の人は全体的に欧米人のように大柄な人が多い。だからなのか、シエルが子供に見えるのだ。
その体は軽くて細い。14歳にしては平らな胸も相まって小学生ぐらいのイメージだ。
膝に座らせて抱きしめれば首元にしがみついて肩に顔を埋めた。
ぎゅうぎゅう抱き着いてくるので一瞬息が詰まった。
片手を離してもしがみついているので安定している。そのまま腰のあたりをゆるく抱えて片手で食事を続けた。
周りは当然ながら唖然としている。
シエルが急に泣き出したことも俺が抱えて平然としていることも。
「だ、だ、だ、大丈夫なのか…」
レイノルドが可哀そうなくらい狼狽えている。
「ん?まぁ時々あるんだ。気にしなくて大丈夫だ。明日にはケロッとしてる」
「そうなのか、その君たちは…遠くから来たと」
聞いていいのか迷っているような口調でイケおじのロドリゲスさんが聞く。
「あぁ、事情があって…時々こうして不安定になる」
「それは…まだ幼いのに」
俺は吹き出しそうになった。
「幼いと言うほどではないんだが、小柄で童顔だからな…俺たちがいるから大丈夫」
「そうか、その何か力になれることがあれば言ってくれ」
ライルがそう言ってくれた。
ふぅこいつは破天荒で行動が突飛だが、いつだって誰かの為に動いている。
「ありがとう、なにかあればお願いする」
それからはみんなも普通に食事を再開した。
シエルが俺にしがみついたまま寝始めたからだ。泣き落ちの達人だな、こいつは。
見た目だけなら確かに儚げだからな。
レイキもサナエも気遣うような視線を投げていたが、寝たらしいと気が付くとほっとしたように笑った。
「せっかくだから食事を楽しもうな」
「そうだな、シエルのこれはもう恒例行事みたいなもんだしな」
「そうね、明日にはきっと笑ってるわ、ふふっ」
和やかな食事が終わった。食べられなかったシエルの為に食事を包んでもらった。
なんだかんだで世話になってるな。ま、手塩にかけた馬を、治したかったからってだけであっさりと治すようなヤツだからな。
まぁ納得ではある。
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