36.ノースナリスへ
12日目
目が覚める。すっきり爽快だ。背中には安定のぽよん。胸元にはあーちゃんが横倒しでラビがまるんとしてる。そっと撫でて寝袋を出た。
テントから這い出るとタツキと目が合った。
「おはよう」
「あぁおはよう」
「体の感覚は若返っても習慣は抜けないね」
「なかなかなぁ、まぁ早起きは三文の得って言うしな」
「そうだね」
今日はタフが最後の夜番をしていた。私たちに気がつくと手を挙げる。
近づいて
「おはよう」
「おう、早いな」
私は馬の方に走って行く。元気そうだ、良かった。頭を擦り付けてくる。今日はちゃんと力加減をしてるから倒れない。賢い子だ。
まん丸な目で私を見る。良く頑張ったね…よしよし。
「よお、あの嬢ちゃんは何もんだ?馬たちを治しちまった。メッシがダメだと判断したんだぞ?脚だけじゃなく内臓もやられてたんだろ」
「さあな…俺にも分からん。分からんが、馬たちを治したかった。そういうことだろ」
「なんだかなぁ。言霊ってのはあるのかね?ほんと不思議だよ。もう1人の兄ちゃんもな。なんて言うか、得体がしれない。悪意は全く感じないがな。用心しろよ。あの能力はヤバい」
「分かってるさ。でもな…俺には制御出来ない」
「あーじゃじゃ馬だもんな」
「それもあるが、能力的にもな」
「お、弱気か?俺から見たらタツキには甘えてんぞ?多分な。お前にしか見せない顔だ」
「そう、なのかもな…まぁ出来る限りはするさ。守るって決めたからな」
「惚れた弱みか?」
「ん?いや、それは無い。保護者だ!」
「がははっ違いない!」
「楽しそうだね?」
「あーじゃじゃ馬は扱いが大変だって話だ」
「あの子たちは凄くお利口さんだよ?」
「そうか、ぶくくっ」
なんだ?タフは朝からテンションおかしいな。
「タツキ、朝食作ろう」
「おう」
今朝はホットケーキ!エオンでミックス買ったんだよー!メープルシロップは残念だけど封印して、代わりにバターとはちみつ。うまーい!
厚切りのパンにアイスクリーム乗せてはちみつたっぷりで食べたいなぁ。
よし、今日のデザートはそれだ!
みんなにも好評の朝食を終えて、出発。ここからは3時間ほどでノースナリスに着く。ならタフと私たちだけでもって思ったけど、途中に難所があるらしい。
森と山に挟まれたそこは魔獣の通り道。待ち伏せする野盗なんかもいて、超危険なんだって。
だから昨日は待機だったの。
で、今まさにその難所。
「ったく、なんでこうなるんだよ!」
「知るかよっ」
「ほらほら、喋ってないで体動かす!」
「ゴブリン殺!」
…サナエさん、不穏な言葉が聞こえましたが?
はぁぁ…疲れた。難所はやっぱり難所だった。よりによって魔獣と野盗に挟まれるなんて。
それで相打ちしてくれたら良かったんだけどね。分断されて、こっちはまんまと自分たちのパーティーだけにされた。
あっちにはオークジェネラル率いるオークの群れ。こっちはゴブリンの群れと野党。勘弁してよ!
フード被ってローブも着てるのに、ゴブリンはサナエにロックオンした。えっ?私は?
タツキに睨まれた。
ゴブリンはサナエが即、氷柱攻撃。野盗はね…人だし?どうしようかな、って思ってたよ。
うん、私はいらなかったね。だってさ、大きくなったらリリと姫が突撃して半分を瞬殺。いや、殺してはないよ。で、姫の後ろ脚キックとリリのジャンプキックでさらに半減。最後はラビの風魔法で…衣服をバラバラに。いやーん、な状態でね。
私たちを襲うところじゃ無くなってた。
あちらがオークの群れを倒して、タフが合流した時にはもう、ゴブリンは首から氷柱を生やして全滅。野盗は姫とリリ、ラビに蹴散らされて撃沈。
「なんだこりゃ?」
ですよねー。ボロボロの、霰もない姿の野盗を見てタフ呟く。誰得だよ…遠い目をした私だったよ。
「あー従魔がな、張り切って…ゴブリンはサナエがな」
「サナエはゴブ専なのか?」
タフ、言い方!何よ、ゴブ専って。
ぶほっ…レイキ、じゃなくてタツキが吹き出してたよ。珍しい。
ゴブ専…サナエの囁きが聞こえた気がした。
気のせい、だよね?
「全世界からゴブリンを撲滅する為に、私、戦います!」
サナエが拳を振り上げて宣言する。
ゴブ専のスイッチ入ったね?サナエさん。
「いやまぁ、無事で良かった。まさかの魔獣と野盗の挟み撃ちとはな、悪かったな」
「いいえ、全く、全然大丈夫!むしろあざっす」
サナエさん…目が怖いです。
タフも半歩下がったよ。完全に引いてるね…?
そんなこんなが有りつつ、こうして難所を超えた。
そうそう、2頭のお馬さんにはタフとメッシが乗っていた。難所の時も人馬一体で活躍してたよ!本当にお利口なお馬さんだ。
そこを超えたら後はもう平和な街道を進むだけ。ぼちぼち人も増えて来た。この人たちは周辺の村を回る行商らしい。難所は超えないから安全なんだって。
牧歌的な風景が広がる街道をゆっくりと進む。だってね、もう町の城壁が見えてるんだよ!
王都以外の町、初めての町。なんだかソワソワする。後ろに野盗がいやーんな状態で歩かされてるけどね?
タツキが頭をペシリと叩く。
「いい加減、落ち着けよ!行ったり来たりちょろちょろと」
「だってー町だよ!町、町だー!」
「あーうるさいな、もう」
いいもん、タツキの意地悪。
「町だよー」
レイキに向かって叫ぶ。
「町だな!」
レイキもテンションアゲアゲだ!
「何か美味しいものあるかな?」
「あるといいな!魚食いたい」
「私もー!」
レイキと2人でキャッキャウフフしてた。だってさー、町だよ?自分たちで選んで進んだ町だよ!
きっとレイキは私のその気持ちが分かってる。だから手を繋いで歩いて行く。多分、呆れながらだけど。人の気持ちを、敏感に感じ取るレイキだから。
本当に優しい子だ。
あ、レイキの耳が赤い。ふふふっ。
(まったく、どこのオカンだよ!)
(ここのオカンだよー)
そんなやり取りをしつつ、レイキと手を繋いで町に向かった。もうすぐそこだ!
町に入る時は少しだけ人が並んでた。最後尾に並ぶ。なんだかみんなに見られてる?
「鉄拳だ」「鉄拳がパーティー組んだのか?」
「鉄拳カッコいい」
「鉄拳様よー素敵!」
などなど。主にタフだね?だからそっと距離をおいたよ。注目されたくないから。タフを中心にドーナツ化現象が起きてるね!
門はすんなりと入れた。まぁね、ギルドカードあるし。私もサナエも、レイキもタツキも冒険者カードじゃない方を出したよ。だってレイキとタツキはゴールド、サナエと私はシルバー。冒険者カードは鉄だからさ。格がね?
それを見てタフやガルたちが何気に引いてたけどね、知らないよ?
タフは後ろを歩くいやーんな姿のボロボロな野盗を門番たちに渡していた。詳しい話はギルドでするそうだ。
そうして町に入った。
空かける翼のガルたちは、まだ依頼途中だけど経過報告と、魔獣の横断についてギルドに報告。
タフは臨時パーティーから抜けた件と橋の崩落の報告、野盗についてもだね。
私たちはオークの買取依頼ってことで、まずはみんなで冒険者ギルドに行った。お馬さんや姫と王子、リリはギルドの厩舎でお休み。
ぞろぞろと冒険者ギルドに入って行くと、また注目を浴びた。もちろん、タフだ。
だからまたサッと距離を置く。報告が終わるまでは大人しく待っておこう。
そう思ってたのに、何故こうなった?
私たちは今、ギルマスの部屋にいる。ソファに腰掛けるギルマス、その隣にタフ、タフの正面に何故かタツキとタツキのお膝抱っこで私、隣がガルだ。他のメンバーはサナエが私の横、レイキは後ろ、ジル、メッシ、グレイはガルの後ろに立っている。
「グスタフ…パーティーの件は聞いてる。はぁ…全く」
「そもそもアントニオが魔獣の横断を調べろって言ったんだろう?ついでに若手のパーティーを頼むって」
「いや、まぁそうだが」
「大変だったんだぞ…」
その後も話をしてる2人。でもまったく頭に入ってこない。だってね?
(猪木…)
「ぶほっ…ぐっ」
レイキが吹き出したよ、サナエもぽよよんだし、たタツキも震えてる。
(おい、不意打ちは止めろ!)
(だってねー、アントニオだよ?しかもさ…顎がね?)
そう、ギルマスのアントニオさんはなかなか立派な顎をお持ちだった。
「ぐっ…けほっ…」
サナエが吹いた。やっぱりね、顎に目が行くよね?
(や、やめて…シエル)
ぽよよんがさらにぽよよよーんだ。
タツキに頭を叩かれた。
(おいこら、集中出来ないだろ?)
(元気ですかー?)
「ぐっ…」
サナエが崩れ落ちた。タフが慌てて駆け寄る。
「大丈夫か、こっちに座って」
タフはギルマスの隣だ。
横から見たらどんなだろうね?
(や、やめてー)
「だ、大丈夫ですぅ…」
サナエが俯きながら言う。またタツキに頭を叩かれた。
「思ったより魔獣の横断は大規模なんだな」
いつの間にかガルが報告してる。
「マッドベアが2体出た」
「はぁ?マッドベアが2体だと?ケガは?大丈夫なのか?」
「あぁ、ケガは治癒魔法で治る程度だった」
「他にはいなかったんだな?」
「いや、コボルトとオークの群れが100ほど」
「はぁ?」
「しかも、お代わりが来て…どれくらいだったか」
「どうやって倒したんだ?」
タフもそれは初耳だったらしくガルと私たちを交互に見る。
「彼らが自分たちのことはやったので」
「どういう事だ?確かEランクで、登録したてだよな?」
「実力はそれなりに、ただ登録して日が浅く…実戦はあまりしてないかと」
「お前らは戦えるのか?」
「自分の身を守るくらいは。従魔も強い」
「何を連れてる?」
「ここには白魔うさぎと魔蜘蛛、魔犬で、後は魔鳥と魔牛」
「それはまた、しかしうさぎは戦えんだろ?気配には敏感だが?」
ぷもん!ラビが抗議の声を上げる。
「この子の風魔法でオークも首ちょんぱ出来るよ!」
「「はぁぁ?」」
アントニオ…
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