30.野営は続く
7日目
今日も歩くぞ!おーっと1人でえいえいおーをしていた私。
今日の空は曇り。雨でも降りそうな暗い空だ。
「一雨来そうだな…」
「あぁ急ごう」
気持ち早歩きで進む。私たちメンバーは体を風魔法で軽くしてるから、速度を出せる。私たちを気遣いながら空掛ける翼も急足だ。
空がゴロゴロと鳴り出した。雷が落ちるな…。
と思った瞬間、ピカンと光ると
バリバリバリ、ドッゴーン!
目の前に落ちた。
落ちる前。咄嗟に全員をカバーする吸収魔法結界を張った。これは私とレイキの合作だ。私が魔力を貯めて放出するのに合わせてレイキが吸収の魔法を発動する。私が放出した魔力を吸収の魔法へと変換するようにレイキが創造するのだ。
私の咄嗟の呼びかけに、即座に応えてくれたレイキ。彼との魔法の相性はかなりいいみたいで、だからこそ出来た。
吸収した雷は電力エネルギーとして蓄電池に貯めたよ?ほんと、エマゾンには何でも売ってるよね。有り難い。
「森まで走るぞ!」
ガルが叫ぶ。私はあーちゃんを抱えて走り出した。みんなも続く。姫と王子は小さなままだけど、そこは魔獣。めっちゃ早い。リリも鶏サイズだけどダチョウ。俊足だ。少し遅れたサナエをガルが後ろから抱き上げる。サナエは大人しく運ばれて行く。
私は力を押さえてるからやっぱり遅れ気味。だからタツキが途中から抱えて走ってくれた。でもさ、小脇に荷物みたいに抱えるのは酷く無い?ガルはサナエを腕に抱いてるのに…。
そんなことを考えている内に、全員が森に駆け込んだ。大雨が降っていてローブが雨を弾く。
雷はまだバリバリしてるから大きな木の近くは危険だ。
下草に覆われた辺りでみんなが固まる。雨はざぁざあと降っている。まるで修行僧みたいに雨に打たれる私たち。もっとも雨を弾くローブに私の結界を纏わせてるから、顔も髪も手も…全く濡れないよ!
ん?どこからか人の声が…する。目を凝らすとやはりこの森を目指して何人かが走って来るのが見えた。誰かを抱えてる…?
「…急げ!」
「雨をしのげる所に」
「早く!」
「何で、いやぁぁ」
何だか切羽詰まってる感じ?
そして私たちが待避した場所までかけて来た。
「どうした?」
ガルが声をかける。
「雷の直撃が!」
抱えられた人はまったく動かない。死んでるの…?
(仮死状態…しばらく戻らなければ、死ぬ)
えっ…どうすれば。呼び戻す?名前、名前を呼んで、それから?
とにかく名前だ。
ガルが
「し、師匠?」
崩れ落ちて、倒れた人のそばににじりよる。ガルのお師匠さん?
「師匠…嘘だろ、おい、師匠!目を覚ませ、おい!」
「ガル、名前を呼んで!」
「師匠…」
ダメだ聞いてない。後ろの彼らを振り返って聞く。
「この人の名前は?」
「本名は知らない、鉄拳って呼ばれてて。俺らもそう呼んでた」
なんてこと…名前、あ、鑑定…は。
(シエル、グスタフだ!)
(レイキありがとう)
私はガルの横からその人に向かって心の中で叫んだ。
(グスタフ、戻って来て!グスタフ!)
((グスタフ、戻れ!))
(グスタフさん、帰って来て!)
状況を理解してるのはレイキだけ。それでもタツキもサナエも必死に呼びかけてくれる。
(グスターフ、戻って来てー!)
私たちの心の叫びが届いたのか、その人の手が僅かに動いた。そして瞼が震えるとゆっくりと目を開いた。何度か瞬きをしてガルに目を止めると笑いながら
「また泣いてるのか?ガル坊」
…ガル坊?
「し、師匠ー良かった、良かった…ぐすっ師匠ー」
雨はまだ降り続いているし、雷もなってる…どうしようか、ガルが使い物にならなくなった。
「泣いてる場合か?ガル。状況は?」
お師匠さんは掠れる声でガルに聞く、凄いな。感心しているとふと目があった。その目を細めると口元がありがとうと動いた。
私はしっかりと頷く。
「ぐすっまだ雨はかなり強くて、ぐすっ雷も。動くのは危険で…ぐすっ」
「どうしたらいいんだ?」
「しばらくは待機で」
「そうだな」
仮死状態だと治癒魔法は使えないと魔法通信が言っている。体を治すことも難しいようだ。感電した後だからね。私は剣を抜くと土に突き立てた。グスタフさんは迷わずその刃に触れる。
刃が光って、土に帯電した電気が流れて行く。
そう、アースの役割だ。引き下げ導線なんて無いからね、代わりに剣で電気を伝えて土に逃した。これで触れても大丈夫。
私はその手をそっと握る。出来ることはあまり無いけど、ゆっくりと魔力を流す。
グスタフさんは目を細めて私を見て軽く手を握ってくれた。どうやら何をしているのか分かってるみたいだ。
しばらくしてからガルの手を借りて体を起こす。まだ雨は止まない。でも雷は遠ざかったようだ。
時間はまだ10時くらい。進むのを諦めるには早過ぎる。どうするんだろう。
「これならなんとか動けるな。お前たちはノースナリスに向かってるのか?」
ガルに向かってグスタフさんが聞く。
「あぁ」
「俺たちは王都に向かってるんだが」
ガルは他のメンバーを見る。
「パーティーか?」
「俺は臨時だ。護衛を兼ねてる」
ガルは遠慮なく彼らを値踏みする。見たところはDランクか?
「師匠と彼らだけでこの先進むのは危険だ」
グスタフさんは驚いて
「そんなにか?」
ガルは頷いた。
「大規模な魔獣の横断に当たった。かなり危険だ」
「なぁ、それなら一緒にノースナリスまで行こうぜ!」
「人は多い方がいい」
と彼らが言って来た。
「ダメだ」
意外なことに、グスタフさんが止めた。臨時とはいえパーティーメンバーだよね?
「見たところ、依頼人と護衛だ。任務中に俺たちが寄生するのはルール違反だ」
「んだよ、そもそも鉄拳が雷に打たれたからだろ!」
「それは私を庇って…」
「でもよぉ」
えっと、彼らのことは私たちに関係ないよね?そもそもガルたちは私たちの護衛だ。
私はガルを見る。しかし目を逸らされた。師匠が心配なのは分かるけど。
「俺はすぐに動けない。お前たち、悪いがここまでだ。俺がいたら守るどころか足手まといだ」
「チッ仕方ねーな。しばらく動けないんだな?」
「あぁ、済まない」
「なら俺たちは戻るぞ!あんたたちも付いてきてくれたら嬉しいがな」
「それはない、護衛任務中だ」
ガルがそう言った。
…ガル、すぐに進まないって決めてる時点でどうなの?護衛任務って断ったけど、対象は私たちだよ。
でも、師匠を置いてく気が無いよね。はぁぁ、マジか…。
「鉄拳、じゃあな!」
彼らはアッサリとグスタフさんを置いて去って行った。
タツキは厳しい口調で
「おい、すぐに行かないのか?護衛対象は俺たちだろ!」
ガルを問い詰める。
ガルは申し訳なさそうに
「それはその、済まない。でも俺の師匠なんだ。生命の恩人なんだ、捨て置けない」
「済まないね、依頼主に断りもなく…はぁぁ」
グレイがため息を吐く。でも止めなかったよね?
「どうするんだ?このままこの近くで野営か?場所も悪いし流石にそれは」
「申し訳無い!ペナルティは覚悟の上だ。どうか、師匠を一緒に」
私はタツキを見る。
(グスタフさんも人が悪いね)
(あぁ、もう体は全快なのにな…)
私とレイキの呟きを聞いてタツキとサナエが肩をビクっと震わせた。
(どういう事だ?)
(さぁな、あの子たちとは進まないと判断したんだろう)
(それは無責任だろ)
(パーティーを臨時で組んだなら護衛任務では無かったんでしょ)
(そんなもんか?)
(詳しいことは分からないけど)
「ガル、悪いな。お前を悪者にしてしまった…そちらのみんな、申し訳ない」
グスタフさんは頭を下げた。
「説明を」
タツキが言う。
グスタフさんは話し始めた。要約すると、王都に行こうと冒険者ギルドで何か依頼がないか探していた。
ちょうど王都に向かうパーティーがいて、臨時で組んで欲しいと頼まれたこと。了承したものの、予想以上に素人で戻るに戻れず困っていたこと(提案しても却下されたらしい)
そこで雷が鳴ってるのに剣を片手に歩いてた女の子に雷が落ちかけ、庇って被弾したと。
それからは私たちが見てた通り。
「戻るにしても他のパーティーに寄生するような発言は看過出来ない。だから離れるいい機会だと思ってな。臨時の場合、負傷などで抜けるのは問題無いんだ。護衛を兼ねていても、任務では無いからな」
との事。
「その、師匠のことは俺が責任を持って…だから頼む!」
「契約違反だよ、それ」
ガルがハッと顔を上げる。もちろん分かってるんだろうけど。
「そもそも依頼主を無視して決めるって何?護衛の意味を理解してるの?ねぇ、誰の護衛?何で勝手に決めたの?」
こういう決め事を蔑ろにするのはダメだ。人道的な意味であったとしても。
「それは…本当に申し訳ない」
「謝って済む話じゃ無いよね?本来は。舐めてるの?」
「ふぅ、シエルその辺にしてやれ」
「契約事項を守れないのは許せない。だって私たちに聞く前に決めてた。それが一番許せない」
そう、結果が同じでも…過程は大切だ。
「それは…」
「申し訳ない」
「俺らが一方的に悪い」
「いくらでも謝るから、どうか」
誤ったって、結局この事態は変わらない。憮然とする私とオロオロするレイキとサナエ。
後はタツキに丸投げ。役割分担は大切だよね。これ以上、遅れるのも困るし。
「はぁ、今後は決して勝手に決めないこと、いいか?依頼主は俺たちだ、忘れるな!」
「肝に命じる」
「ペナルティにはしない。が、次は無いぞ」
空掛ける翼の面々は深く頭を下げた。
「で、どうするんだ?これから」
応えたのはグスタフさんだ。
「あーその、本当に申し訳ない。改めて俺はグスタフだ。Aランクの冒険者だ。よろしくな。もう少しすれば雨が小降りになる。少しここで待機だ」
「タツキだ。隣がシエル、後がレイキとサナエだ」
「よろしく頼む」
私はタツキの背中に隠れていた。
グスタフさんはガルに向き直って
「ガルにも迷惑をかけた」
「師匠、俺が勝手にしただけだ…」
こうして少しギクシャクした時間を森の中で過ごした。
連載中の「異世界転移 残りものでも充分です〜」
第3章に入ってます…よろしければそちらもお読み下さい
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