3.ジョブの真価
「無能集団で仲良しだな」
声を掛けられて思考が中断した。そこには偽賢者がいた。
(出た、偽賢者!)
「ふん、僕のようなジョブが羨ましいだろう。う、うん…君は魔法職だからな、僕が色々と教えてあげてもいいよ?」
目線は氷ちゃんの胸元だ。サイテーだなコイツ。偽賢者のくせに。
(同感だな…)
前髪君も同じく意見だ。
(氷ちゃん、こういうヤツは粘着質だからね、立派な職のあなたの足は引っ張れません、ありがとうって言って、両手を握って口元に当てて儚気に微笑んで)
私は見た!氷ちゃんの口元がひくついたのを。
「立派な職のあなたの足を引っ張れません。頑張って下さい!」
流石に握った両手を口元には当てなかったけど、手のひらを頬に当てて首を傾げた。
おぉ〜可愛い。
「そ、そうか…仕方ない。上位職だからな」
(チョロ〜偽賢者チョロ〜)
前髪君が睨んできた。しかし睨んでるのに頷いている。どっちだ?
静かになったので
(また結界したよー声出してオッケー)
「ふぅ、お前な。いい加減にしろよ!俺の腹筋を試すな」
「効率的に鍛えられるよ?」
「違うだろうが!」
「まぁ落ち着いて」
「誰のせい…はぁ、後俺の名前は前髪君じゃない」
「今は余り時間無いし、どうでもいい事は後でね!」
「どうでもって…」
「まず、どうして亜空間収納が使えると分かった?」
ダンサーさんが聞いてくる。
「鑑定のスキルで」
ダンサーさんは驚いた。
「スキルはエラー表示だったよな?」
「鑑定石の鑑定ではね」
「見えるのか?」
頷く。
「前髪君もね、鑑定を持ってる」
ダンサーさんは前髪君を見る。
「ここだけの秘密だよ?信用していいよね?」
ダンサーさんは私と前髪君を交互に見てから、しっかりと私の目を見て頷いてくれた。
氷ちゃんはずっと私の手を握っている。顔を見たらやっぱりちゃんと目を見て頷いてくれた。
「2人のジョブも、その使い方や真価も分かる。ダンサーは凄いチートだよ。氷魔法は実は凄いジョブ」
「なら何で笑われた?⭐︎4なのに」
前髪君が
「多分、過去に例が無いか…鑑定が無ければジョブの使い方が分からないか。使いこなせないから価値がないとみなされたんだと思う」
うん私も同じ意見。
「そう、なのか…」
「私、使えない職じゃないの?」
「ハッキリ言って、俺とその子は非戦闘職だ。2人はバリバリの戦闘職。一緒に行動して貰えたら助かる」
「そう、私たちだけでは弱い。闘えるけどね、やっぱり物理と魔法に特化した2人がいてくれたら心強い。前髪君は使い方次第で戦闘もチートだけど、人に知られるとマズイ。私もね…色々と」
ダンサーさんと氷ちゃんは顔を見合わせて頷く。
「こちらこそよろしく」
「うん、お願いします」
「もうすぐ休憩が終わるから、その前に。まずはこの国を出たいから、この王宮を出るよ。でもね、落ち込んでいてね?この先は念話で話しかけるから」
結界を解除した。
ちなみに何で結界が使えるのか?それは魔法通信で情報を見たから。
結界を使う方法ってね。ネットの検索みたいな感じ。
そのハウツーを見て試したら出来た。やっぱり⭐︎6ってエゲツないよ。
「あー、ではこのまま話を進める」
王様の登場。で、何やら長々と話をしている。要約すると
君たちの力が必要(一部除く)
ここで手厚く暮らせる(一部除く)
国民も期待している(一部除く)
だから力を貸して欲しい、という事だ。要はただ働きだね、これ。
ぐっ…前髪君の肩が揺れる。だってそうでしょ?住み込みでただ働きだよ。無理無理。
ようやく王様の語りが終わった。
ここからは宰相さんらしい。
「あー、こほん。この大役が務まらないと思うのならば、寛大な心を持って放逐することも出来る」
寛大なって言うながら放逐って言ったよこのオッサン。素直過ぎじゃね?腹芸どこに行ったよ。
ダンサーさんの肩が震える。それを見たオッサンはニヤニヤした。
「あの…ご迷惑は掛けられないのでぇ。出て行きます…ぐすっ」
迫真の泣きまねだ。すると氷ちゃんも唇を噛んで
「わ、私も…」
俯いた。ダンサーさんがそれに続き苦悶の表情で
「俺も…ぐっ」
最後は前髪君だ、トリは任せた!
「ぐはっ…ぐっ、お、俺、も…ごふっ…」
俯いて肩を小刻みに震わせる。
おぉ〜前髪君は演技派だね?
(誰のせいだよ!俺の腹筋が崩壊間近だ)
(俺の腹筋もヤバい、プルプルしてる)
(わ、私も…無理)
ん?そんなに笑える展開?
(((誰のせい!)))
えっ?みんな…、かな。
一斉に私を見るみんなは涙目だ。凄い演技力、私も見習わなきゃ。瞬き禁止で、我慢だ…よし、目が乾いて来た。これで涙が出る、完璧!
みんなの口元が歪んで俯いた。迫真の演技。私はまだまだだったよ。
宰相さんが
「う、おほん…まぁ君たちがそう言うのならは…致し方ないな。明日にでも、ここを出て行きたまえ」
頷いた。
「今日は部屋を用意している。案内の者に付いて行きたまえ」
軍服を着た男性に先導されて私たち4人以外は部屋を出て行った。
私たちは執事風のスーツの男性に呼ばれて付いていく。
しばらく歩いて着いたのは薄暗い廊下の突き当たり。
隣同士の部屋で男性で一部屋、女性で一部屋だった。
「食事はお待ちします。部屋からは出ないように。それから、荷物は検査をするのでお預かりします」
言われるかなーと思ったから、チラシとかゴミだけカバンに入っている。
「返して貰えるんですよね?カバン」
「勿論です、カバンは返します」
そう言って男性は去って行った。言ったな?カバンは返すって。中身は返さん、って事だね?避難させておいて良かった。
(部屋に入ったら話し合いね!)
部屋に入る。手前が居間みたいな空間で、ソファとテーブルがある。
奥にはベットが2つ並んでいる。入り口の脇にはトイレと洗面、そして浴室。
テーブルには茶器とポットには温かい紅茶が入れてあった。
「おーい、聞こえる?結界してるから声出していいよー」
「聞こえる、顔見えないと何かな」
「前髪君、壁をくり抜いて!」
「え?どうやって?」
「想像したらいけるよ、壁に手をついてこの部屋を繋げるイメージで」
「わ、分かった。やってみる」
しばらくすると壁が一部開いて部屋が繋がった。
「おぉ〜出来たねー」
「はっ?」
「えっ?」
ダンサーさんと氷ちゃんが固まっている。
「詳しい説明は後でね、前髪君、ソファを向かい合わせにして間にテーブル」
「どうやって…」
「イメージだよ、イメージ」
ソファが浮き上がって向かい合わせになった。
「おっ、さすがー。まずは座ろう」
「お前な、人使い荒い」
使える者はね?
私はポットから紅茶を注いでみんなの前に置く。
「この紅茶は…」
「おい、ダメだろ!」
「浄化したから大丈夫だよ」
そう、紅茶には睡眠剤が入っていた。もちろん、取り除いたよ。
「おわ、本当だ」
「何がどうなって…まずは説明してくれ」
前髪君と目を合わせるとお前が話せと顔で言われた。まぁそうだよね。
「えっと、まずは自己紹介ね。私凄くダサい名前で、だからこの世界仕様の名前にしたい。本名は山田幸子、山に田んぼの田、幸せな子って書く。でもここではシエルって呼んで!」
「なぜシエル?」
「オンラインゲームで使ってた名前」
「確かにな、本名はダサいな」
「でしょ?だからね、シエルでよろしく」
「俺はレイキ、柴田怜輝」
前髪君が漢字を空中に書いて教えてくれる。
「レイキ君だね」
「もう前髪君とか言うなよ!」
うん、多分?
「俺は立川秀希。タツキって読んでくれ」
「タツキ君ね」
「君じゃない、俺は52才だ」
えっ?どう見ても20台前半だよ?
※読んでくださる皆さんにお願い※
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