28.旅の夜は穏やかに
5日目
各自、野営の準備を始めた。私たちは2人用のテントを張る。今日は1人で寝れる気がしない。
テントは簡単に張り終わって、夕食の準備だ。この辺りは見晴らしがいいから調理しても大丈夫だと言われた。
でも正直、あまり食欲が無い。何を作ろうかな…、あぁアレにしよう。でもエオンで買い物しないと。
先にシャワー浴びるか、なんか汗で気持ち悪い。一応、洗浄はしたんだけどね。気分的なもんかな。
「あの、グレイ。体を拭きたいの」
「あぁそうだな。じゃあ少し離れた所に布で仕切るから、そこで体を拭けばいい。あたしが見張るよ!後は、タツキも来な」
「おう」
ということで少し離れた所にタープのように布を目隠しにして張る。サナエとその中に入ってすぐにすぽぽーんと脱いだ。そしてぬるま湯で体を洗浄する。アウトドア用品店で買った水無シャンプーやボディソープで体を洗ってまた洗浄する。ふーサッパリ。サナエもぽよよんしながら洗い終わって服を着た。野営だから普通の冒険者の服だ。
布から出て
「終わったー」
と言えば交代でグレイが入る。タツキを残してサナエとテントに戻り、レイキが交代で向かった。こうして順番に体を拭くのだ。
さて、作るかな。
サナエには人参とジャガイモを風魔法で切って貰う。お野菜バラバラ事件が起きないといいな。
私はオーク肉を大きめのサイコロ状に切って塩コショウをする。表面にはフォークで穴を開けてスジ切り。
玉ねぎは私がくし形にカット。こちらの野菜でブロッコリーとカリフラワーを足して2で割ったようなのがあったので(その名もカリコリー)房と茎ををカット、塩茹でにした。
そこでレイキとタツキが戻って来てので手伝って貰う。
レイキとサナエにはトルティーヤ風のパンを材料から捏ねて焼いてもらう。タツキには寸胴にオリーブオイルを引いてまずは肉の表面をしっかりと焼いてもらう。
体を拭く時にちゃっかりデミグラスソースをエオンで買った。これが無いとね!
赤ワインは市場で売ってたから買ってある。雑味が酷いから入れる前にレイキに雑味を飛ばして貰うよ。
肉の表面が焼けたらカリコリー以外の野菜を投入してしばらく炒める。力仕事はタツキに任せた。なんせ人数が多いからね!
全体に火が通ったらお水を投入。しばらくそのまま火を通す。
沸騰したらデミグラスソースとレイキが雑味を飛ばした赤ワイン、ローレルに塩コショウをして蓋をする。ここからは魔法で時短だ!
鍋の中に圧力をかける、そう、圧力鍋風だ。これで20分ほど煮込めばお肉はとろとろ、お野菜はほろほろのビーフシチューならぬオークシチューの出来上がり。
沸騰した時にタツキにアクをしっかりと取って貰った。ここ重要、この一手間が美味しくなる秘訣だ。
そろそろ20分かなぁ?気配を感じて振り向けば、そこには翼の面々がガチで涎を啜りながら見ていた。
怖いっ、私は何も見えなかった。
隣ではパンが焼け、サラダも出来上がっていた。
「シエル、ま、まだか…ぐーきゅるるぅ」
「いい匂い…我慢できない…ぎゅる」
「は、早く食わせてくれ…ぐるぅ」
「もうダメ…腹減った、きゅるるぅ」
えっとお腹鳴ってるね?
お鍋の蓋を開けると、ふわぁっといい匂いが周りに拡散する。
「ぐわぁ」「匂いテロ」「もう無理」「助けて」
はぁぁ何故そうなる?と振り向こうとしたら両脇と後ろからもぐーぎゅるきゅると聞こえた。
呆れながらお玉で掻き回す。お肉も大丈夫だね!
よし、出来た。
「ヤローども、飯だー!」
お玉を振り上げる私
「「「「おーーー!」」」」
野太い声がこだました。みんなノリがいいね?
よそったそばから食べようとして、私に睨まれて俯く。子供なの?みんなの分が揃うまで待ちなさい、ステイよステイ!
よし、行き渡ったね。では手を合わせて
「いただきます!」
「「「いただきます!」」」
バクバクッ、ガツガツッ…
「んめー」「美味いな」「肉柔らか!」
「もぐもぐ、んまんま」
なんか、食べることは生きることだなーって思ったよ。私は作り手あるあるで作って満足しちゃった。食欲が無いけど、なんとか一皿分は食べ切った。この先を考えるととにかく無理やりにでも食べないと。
体が資本だからね!
寸胴に溢れるほど作ったオークシチュー、完売です。いや良く食べたね?私以外はお代わりしてた。まぁ食べられるのはいい事だ。
「「「ご馳走様ー」」」
「マジでシエル天才」
「美味い飯をありがとな」
「生きてて良かった」
片付けは翼の面々がやってくれた。
ここは野営場じゃ無いから夜通し見張りだ。翼のみんなが2人ずつ交代で不寝番だ。
こちらは依頼主なのでね、寝させて貰うよ。
何か来ればラビが反応するだろうし、ルーも糸の結界を張ってくれるだろうし、私も結界を張るからね。
寝る前に男性陣のテントにおじゃまする。ほら、スイーツとかはあちらの前で食べられないから。
「ふーお疲れ」
「お疲れー」
「お疲れ様」
「疲れたね」
「なぁタツキ、ミルク餡の饅頭(とおり◯ん)食いたい」
「おぉ、出すわ」
「私はお茶入れるねー」
「シエル、コーヒー飲みたい」
「コーヒーも入れるわ!それならチョコレートもだすよ!」
アルファベットのチョコだ。シンプルだけどそれがいい。
それぞれ好きな飲み物とオヤツをつまむ。
「あんなことになるとはな…」
「怖かったよ」
「最後はお前が蹂躙してたがな」
「サナエも大概エグかったし、レイキもね。あれ、何したの?」
「ん?お前が言っただろ、心臓に石を生やすとかさ。それをな」
「出来るんだ?やっぱり」
「さすが⭐︎6だな。俺は剣を振るうことしか出来ない」
「タツキが前衛にいてくれるから出来るんだよ」
「サナエは何してたんだ?」
「血液を凍結させたの」
「それもまたエグいな」
「サナエ、マッドベアの攻撃魔法も凍らせてたよね?」
「シエルは気が付いてたの?」
「私のジョブは魔法の流れが良く見えるんだよ」
「そっか…危ない時だけね」
「まぁなんだ、ほんとにみんな良くやったよ」
「翼の人たちも必死に食い止めてくれたし」
「そうだな、捨て身のつもりだったし」
「それにシエル、お前も結界を展開してたよな?」
「うん、弾くって感じだとバレそうだったから軌道を少し変えるような結界ね、硬いんじゃなくて柔らかいの。ほらサナエを見てて思い付いた」
サナエはキョトンとしてから意味が分かったのか胸元を手で隠す。顔は真っ赤だ。
「お前なぁそのセクハラ発言やめろよ」
やっぱり顔を赤くしているレイキ。私は見た!レイキの目線がサナエの…
「だからやめろって…」
さーせん。かわいかったからつい、ね。
ふーそろそろ寝るか?
「寝るか?」
「そうだね、明日も早いし」
「おやすみ」
「「おやすみ」」
男性陣のテントを出て自分たちのテントに入る。
寝袋はサナエのと繋げてある。もぞもぞと潜り込んでサナエとくっついて目を瞑った。眠い…。
その頃、女性陣が帰ったテントの中で。
「なぁタツキ、その…」
言いにくそうにレイキが口ごもる。チラチラと寝袋を見ている。あぁ、なるほど。
「いいぞ?今日は大変だったからな。人肌があった方が良く眠れるだろう」
「タツキは、嫌じゃないのか?」
「別に俺に相手をしてくれって訳じゃ無いだろう?」
「ち、違う!ただ少しその…キツくて」
「なら大丈夫だ、きっとサナエとシエルも一緒に寝てるだろう」
俺は寝袋を連結して中に入った。隣にレイキが潜り込む。軽くその頭を撫でてから目を瞑った。
あぁ、確かにな。隣に誰かの体温があるのは安心だ。
俺はすぐに眠りに落ちて行った。まだ小さな息子たちと寄り添って寝た頃を思い出しながら。
俺は隣に座っているジルに小さな声で話掛けた。
「なぁ、今日のあれ…マッドベア。俺たちの実力だと思うか?」
「あれな、ヤバいって時にベアの魔法が発動してなかった」
「やっぱりか…どう思う?」
「…彼らしかいない」
「だよな、アイツらはほとんどケガをしてなかった」
「血はついてたが、僅かだしな。致命傷は全く負ってない」
「何にしろ助かった。見かけ通りのEランクでは無いな」
「そうだな、でも戦闘にも野営にも慣れてないし」
「分からんが、まぁ美味い飯も食えるし手がかからない。この依頼は当たりだな」
「そうだな、あまり考えるのはよそう」
「あぁ」
そんな会話がされている事など知らずに、私はサナエの温もりに包まれてスヤスヤと眠ったのだった。もちろん腕の中にはあーちゃんとラビのもふもふコンビだよ?幸せのもふもふだね。
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