27.襲撃の後
まだ5日目
あ、タツキも震えていた。そうだよね、いくら多少の練習はしてても、平和な国で育った私たち。
しかもここはゲームでは無い現実。死ねばもう終わりだ。分かっている様で、やっぱり分かってなかったんだ。
あの時は必死で、だから気が付かなかった。凄く凄く怖かったんだ。命の危険がある、それを目の前にして。
自分だけじゃなく、他の人も目の前で死ぬかもしれないって。それを体感して、今頃になって恐怖で身がすくんでる。
キツイなぁ。あーちゃんが見上げて来る。目が合うと緩くしっぽを振った。あーちゃんの頭に顔を埋めて深呼吸した。
「お疲れ様、ここで少し休もう」
ガルの言葉にタツキは私を抱えたまま、尻餅を着くようにドサリと座った。
サナエが私のそばに崩れるように座り、レイキはサナエの反対側にドサリと胡座をかく。
どちらも無意識なんだろう、サナエは私の背中に、レイキは私の頭に手を乗せる。タツキは私をギュッと抱きしめた。
リリはちゃっかりタツキの膝に乗り、姫と王子はレイキの膝と背中に寄り添い、ルーはサナエの首元に寄り添う。
あーちゃんは私を見上げて口元を舐め、ラビは頬にすりすり。可愛い。あーちゃんの匂いを嗅ぐ。深呼吸だ、落ち着く匂い。ゆっくりと力を抜いてタツキにもたれかかった。
タツキは背中をトントンしてくれる。こんな時でもタツキはおとんだ。
そのまま少し放心してると
「良く頑張ったな!」
ガルが声を掛けて来る。見上げれば所所に血が付いている。傷は無さそうだからメッシが治療済なんだろう。
「あぁ、なんとかな…」
タツキが応える。
「お前らが本当のEランクなら今頃はお前らも俺らもここにはいない」
みんながガルを見る。
「それだけヤバかった」
「マッドベア2匹の相手なんて護衛対象を庇いながらは無理だ。あの時、後ろを気にするなと言ってくれただろ!あれがなければ正直、突破されてる」
ジルが続ける。
「俺らだけでマッドベア2匹の相手も難しい。が、守りを捨てられるなら話は別だ。助かったよ、タツキ」
タツキは首を振る。
「正面が突破されたら結局は俺らもヤラレる」
「分かってても言えないもんさ!」
グレイが言った。
「前に護衛した貴族はガルに俺専属で護衛しろ、とか言ってしがみ付いて…大変だった」
メッシが言う。それは酷いな…。
「だからさ、それにタツキ…お前の剣はなんて言うか、流れるような踊るような剣捌きだな」
「お嬢ちゃんの剣もなかなか様になってたぞ」
グレイとシルバが口々に言う。
「そうか…」
「えへへっ」
褒められると嬉しい。
「後衛の2人も、魔法の威力がね…」
「バランスが悪いかと思ったがちゃんと戦えるな!いいパーティーだ!」
メッシとガルが続ける。
みんないい人だね、こうやって気持ちまでケアしてくれて。
(そうだな…それに引き換え、いつまで俺にガチでもたれてるんだよ、お前は!)
(えっ?楽ちんだなって思って。人間座布団)
あれ?タツキの顔が赤い。
(お前な…それって有名なAV女優の代表作の名前だ)
えぇー知らないよ、そんなの。
(どんなストーリー?)
ちょっと気になる、かな。
(聞くな、こら!アダルティな内容に決まってんだろ!)
アダルティって何?初めて聞いたけど。でもこれ以上はやめとくよ。サナエが震えててぽよんがぽよよんだからね。
(だからお前は!)
さーせん。目の前にあったのでつい、ね。こんな普通の掛け合いに、何故か泣きたいくらいホッとした。
「少しは落ち着いたか?」
「おう、悪かったな」
「いや、当たり前だ。むしろ良くここまでもったよ」
「そうさ、ほら。水でも飲んだら?」
その言葉に私はタツキから降りるとポーチから茶器を取り出す。急須にお茶っぱとお湯を入れて湯呑みに注いで、みんなに配る。
ふぅぅ、落ち着くね。冷めるまでふうふうしてから飲む。コクン、はぁぁ生き返る。比喩でもなんでもなく、ね。美味しい。
「ふぅぅ沁みるな」
「あぁ生き返る」
「美味しい…」
「「「「生きてるんだ」な」ね」」
言葉がモロ被りしてみんなで顔を見合わせて笑った。
良かった、笑える。
なぜかタツキにおでこを突かれ、レイキに頭を叩かれ、サナエに肩を叩かれた。
「「「お疲れさん!」」」
「お疲れ?」
何故叩かれたのかな?
それぞれの従魔も甘えん坊タイムだ。でも良く考えたら、この子たちが小さなままでいた。それってきっと、私たちの力なら大丈夫って思ったからだよね?
なんか従魔の方がしっかりしてるよ…。
「それな…でも少しずつだよな」
「急にさ、俺Tーーーとかって戦闘狂にはなれない」
レイキ、それな…。
「そうよね、動物すら殺めたことなかったんだし」
「なんか焦ってたのかな?早く馴染まなきゃって」
「かもな…」
みんなポツリとこぼす。
ズズズーッゴクン、はぁーお茶うまぁ。
「ぶはっ…ばばくせー」
むっ、レイキめっ。まぁばばあは否定しないよ。
「いいのだよ…気持ちはみんなと縁側で寛いでるんだから」
「ふふふっ」
「はははっ」
みんな目に涙を溜めて、ひとしきり笑った。もう、大丈夫。みんながいれば。
頷き合って、前を向く。
「おう、少しは落ち着いたか?」
「あぁ、すまないな」
「気にするな!ヘボい奴らならもうへばってる。少し休んだら進むぞ」
「分かった」
思い思いに従魔と戯れて体をほぐす。よし、両手で顔を叩く。気合いだ、気合いだ、気合いだー!ムンッ。
あれ?腕の筋肉が無い…ぷよぷよしてる。
「ぐはっ…だからシエル、やめてくれ」
レイキが撃沈した。なぜだ?サナエとタツキは可哀想な子を見る目でよしよししてくれる。なぜ?
「進むぞ!」
ガルの声掛けでまた進み始めた。歩きながらガルが話しかけて来る。
「さっきみたいなのを想定してなくてな、要は共闘する予定じゃ無かったんだ。通常、護衛任務中に討伐した魔獣は販売価格を折半するんだ。そのつもりだったが、それではこちらが貰いすぎになる。だからおよその討伐数、俺らの方の半分を渡すので構わないか?お前たちが仕留めた分は丸々そっちでいい」
少し考えてからタツキが応える。
「それだとこちらがもらい過ぎだ。特にマッドベアはそっちがパーティーで倒した。権利は放棄するさ。他の魔獣は全部の半分を渡す」
「マッドベアは有り難いが…もらい過ぎだろ」
私はタツキにお任せだ。あ、でもそれなら
「ガル、オークのお肉が欲しい。だからそれを抜きでマッドベアはそっち、で残りは半分でどう?」
ゴブリンとコボルトは討伐証明の耳だけ取っている(魔石とコボルトの皮はこっそり取り出した)
オークは魔石と皮と爪と牙だ。お金になるのは主にオーク。肉を貰えるなら残りを半分でも充分だ。
「あ、あぁ…それなら」
決まりだ。肉だ、32体+増援した分のオーク肉だ。
夢は広がる。トンカツ、生姜焼き、しゃぶしゃぶ、すき焼き…美味しいお肉をありがとう。なーむ。
タツキに頭を叩かれた。なぜだ?
休憩から2時間歩いてお昼休憩。予定より3時間は遅れてしまった。
空かける翼の面々はさすがで、全くペースが落ちない。私たちは気持ちペースが遅くなった。精神的なものだと思う。
ひとまずお昼ご飯だ。朝作っていたサンドイッチに顆粒のコンソメ(エオンで購入)に乾燥玉ねぎ(レイキ作)と塩コショウを入れてお湯を注ぐ。
各自に配って
「いただきます!」
「「「いただきます!」」」
パクリッもぐもぐ。うん、レタスのシャキシャキトトマトの酸味、ベーコンの塩味がいいね!チーズもまろやかで味がソフトになる。美味いー!
「ぐふっ…げほげほっ」
(おい、食べてる時に不意打ちするな!)
レイキに怒られた、解せぬ。
「いや、ほんとに美味いな…」
「あぁ嬉しい誤算だ」
「もう携帯食とか食えないかも」
「それはヤバい」
翼の面々にも好評だ。ふう。遠くを見る。知らない景色、知らない場所。思えば遠くへ来たもんだ…。そんな歌なかった?
(だな…さり気なく歌詞を入れ込むなよ)
(へへっ同年代がいると分かってくれて嬉しい)
(それな)
食後は紅茶だ。私は姫ミルクに砂糖も入れてロイヤルミルクティー風にした。いつもはストレートなんだけど、体がね、甘味を求めてたんだよね…。
みんなも同じ感じで甘いミルクティーを堪能した。
時間も押してるから、と慌ただしく出発。それ以降はたまに単発で出て来る魔獣を狩るだけで進んだ。
そろそろ陽が傾いて来た。
ガルが近づいて来て
「予定してた野営場までは無理だ。見晴らしがいいこ
こらで野営する」
「分かった」
野営場とは街道沿いにあるキャンプ場みたいな場所で、結界石が埋め込まれていて比較的安全だ。他のパーティーや商隊と一緒にならば、情報交換や仕入れが出来たりする。
今日はあの魔獣の横断以降、誰ともすれ違わなかった。
定期馬車が運行中止になったので、護衛を雇えなかった人や、お金がなくて雇えない人は馬車の運行再開を待っているのだろう。
こうしてその日は平原で野営の準備をすることになった。
人間座布団…もちろんそんな作品は有りません、多分…
どんな作品が少し気になる、かも笑
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