23.さぁいよいよ旅に出発
4日目
やっと旅に出ます…
サナエと部屋に戻る。
「シャワー浴びに行こう」
「…ねぇ、その嫌なら別々に」
サナエが遠慮がちに言う。気にならないよ?だって一緒に寝ててもサナエは普通だったし。
「嫌なら声かけないよーほら早く!」
サナエを手を引いて部屋を出る。戸惑いながらも、大人しくついてくるサナエ。
いつも通りにシャワーを浴びてまた部屋に戻る、そういつも通りだ。別にサナエがいやらしい目で私を見てる訳でもなく、私全くは気にならない。
私はサナエの目を見て
「サナエ、私を見て」
「…」
困ったような顔で、泣きそうに私を見るサナエ。
「笑って?」
「え…?」
目を大きく開けて固まる。
「さっきから余り笑ってないよ」
「そう?」
「うん」
サナエは俯いてしまう。私はベットに腰掛けたサナエの頭を抱きしめる。
「大丈夫、大丈夫…」
震えながら私の腰を抱きしめるぽよんじゃなくてサナエ。
「ほんとに平気?」
震える声で聞いてくる、そのサナエの髪の毛を撫でながら
「くすっ平気だよ。サナエは気遣いが出来るから、考えすぎるんだね」
「結婚する予定だった人に、周りに流されててばかりで自我が無いって言われて。確かにそうかもって…」
「あー精神的な擦り込みだね、その人のことも、言われたことも忘れたらいいよ。すぐには無理でもね!」
サナエは顔を上げて私を見ると、やっとふわりと微笑んだ。
「ありがとう…気にしないようにって思ってたけど、やっぱり傷付いてたんだ」
「気にしないようにって思ってる時点で気にしてるんだよ?こっちでの生活が楽しければ思い出せなくなってくるよ」
「そうね…そう考えると楽しみ!寝ようか?」
「そうだね、昼寝もしたけど」
顔を見合わせて笑い合う。
「その…」
「一緒に寝よう?」
「うん!」
こうしてサナエと胸にはあーちゃんとラビを抱いて眠ることにした。お昼寝したから寝れないかも、なんて思ったんだけどね。スコンと落ちた。背中もお腹も柔らかくて温かいから。
目が覚めた。胸の中のあーちゃんは横倒しでスピスピ言いながら寝ている。ラビは鼻をぷもぷもしながら寝ている。背中のサナエも規則正しく胸が上下している。背中のぽよんがね?
ん、起きたかな?
「ん、おはよぅ…シエル」
「おはよー、サナエ。そろそろ起きないと」
「ん…すぴぃ」
ありゃ…寝ぼけてるな。
「サナエ起きてー」
肩をゆすると一緒にぽよんがぽよよんだ。眼福。
「うん起きゆ」
噛んでる。可愛いね?私はサナエをベットに残してそっと起き上がる。あーちゃんはすぐさま起き上がると体をぷるぷるして伸びをする。ラビちゃんはお鼻をぷもぷもしっぽをタンタンお耳をピクピク。可愛い。
朝からもふもふとぽよんに囲まれる。幸せです!
ふあーさて、着替えるか。
顔は水魔法でサッと洗う。今日は冒険者の装い。胸当てもして短剣を腰の剣帯に指して、斜めがけのバックを掛けて準備万端。
ようやく起きてきたサナエも慌てて準備を始めた。
空間拡張カバンは少しお高いけど、普通に買えるから隠すほどでは無い。
一応、レイキに肩掛けカバンは空間を拡張して貰っている。馬車1台分くらいかな。ただ、時間停止はやり過ぎだから時間遅延にした。
(あーマイクテスト、マイクテストー起きてる?)
(起きてるぞ!)
(行けるか?)
タツキの呼びかけに背後のサナエを確認する。頷いた。
(行けるよ!)
(なら朝食食べてそのまま出よう)
((おー))
部屋を出る。隣の部屋からもタツキとレイキが出て来た。
「おはよー」
「おはよう」
2人とも準備はバッチリだ。食堂に入ると立派な筋肉の主人がすぐに朝食を持って来てくれた。
朝早いからと断ろうとしたら、準備をするから大丈夫と言われた。
温かいスープに硬いパン、ベーコンにサラダだ。人が作ってくれる食事は美味しい。
有り難く頂いた。ふう、シンプルな味付けだけど美味しいね。
みんなすぐに食べ終わった。
「行くか」
タツキがみんなを見て言う。
「「「うん」」」
立ち上がって食堂を出る。
受付で鍵を返し
「世話になった」
「気を付けてな、死ぬなよ」
「あぁ」
タツキはニヤリと笑って店主と拳を付き合わせた。
こうして宿を出て冒険者ギルドに向かう。
流石に朝早いから人は疎だ。それでもタツキは私の手を離さない。おとん気質だな。攫われても困るしね。
そして冒険者ギルドが見えて来た。
扉の前にはすでに空かける翼の面々が揃っていた。
「おう、早いな!」
ガウディが声を掛けてくる。まだ待ち合わせの10分前だ。
「そっちもな、よろしく頼むぞ」
「こちらこそ、だ。歩きながら話をするぞ」
こうして早々にギルドから出発した。
ほんの3日前にここに飛ばされて、そして私たちは4人だけで王都を出て行く。
これは新たな冒険の始まり…。まだ飲み込めない思いはあるけど、一歩をみんなと踏み出すんだ。1人ではきっと勇気が持てなかった。でも4人ならきっと大丈夫。
今は不安よりわくわくが勝っている。
おとんなタツキにおかんの私。突っ込みが上手な息子と可愛い娘。家族みたいだ。
新しい家族とする異世界旅行…楽しみだ。
タツキがぎゅっと手を握ると私の方を向く。その顔はやっぱりおとんだった。
(お前の顔もおかんだぞ)
(ふふっ)
(後ろから見てるとお前たち親子だけどな)
えっ?がびーん。役割的には夫婦なのに。
(ないな)
(無理だろ)
(妹だよ)
即返された…憮然としているうちに、門についた。南門だ。ここからは王宮が僅かに見える。
立ち止まって思わずタツキの手を握りしめた。サナエが後ろからレイキが横から私に寄り添う。
みんなで固まって王宮を眺めた。
始まりの場所…そして多分、2度と戻らない場所。
さようなら、日本の私。
私たちは待ってくれてたガウディさんたちに向かって歩き始めた。
門を出るのは簡単だった。
呆気なく、私たちは王都を後にした。言葉に出来ない様々な想いを王都に残して。
「話していいか?」
ガウディさんが寄ってきて訪ねる。
「あぁ、大丈夫だ」
「まず、全体の行程だ。当初は乗り合い馬車でと思ってたが、昨日話をした通りだ。しばらくは徒歩になる」
昨日話した通りとは、道中で商人や乗り合い馬車が魔獣に襲われる事件が多発して、今は運行休止しているのだ。
魔獣の横断かもしれない、と言う。
ある時期になると魔獣が大移動するらしい。それを魔獣の横断と呼ぶ。この時期は単発で移動する群れに当たることがある。
それが続いているので、大移動が近いのではと囁かれているそうだ。
領主も調査はしているけど、原因が掴めていない。だから乗り合い馬車が運行休止となり、予定外の徒歩になったのだ。
「ここから次のノースナリスまでが徒歩なら1週間。ノースナリスからミドルナリスまでは馬車に乗れれば3日、でミドルナリスからサウナリスまでが徒歩で5日。予定通りに進めば15日だ。ここまではいいか?」
頷く。
「ノースナリスまでは町が2つ、村がいくつか。7日のうち、半分は野営になる。ノースナリスからミドルナリスの乗り合い馬車も基本は野営だ。ミドルナリスからサウナリスは途中に1つ町があるが、それ以外は野営となる」
「思ったより野営が多いな」
タツキが聞けば
「人数も多いからな、従魔もいるし小さな村では受け入れが出来ない」
「そうか、なんだか申し訳無いな」
ガウディは豪快に笑うと
「分かってて受けてるから気にするな!でだ、食べ物とか足りるか?途中の町や村でも多少の補充は出来るが」
チラッと私をタツキが見る。
「肉とか肉はそれなりにあるよ。調味料もね、お水は魔道具があるから大丈夫」
「肉とか肉って、肉だけじゃねーか、がははっ。しかし水の魔道具ってもしかして湧き出る?」
「うん…作ってくれたの」
レイキを振り返る。そう、レイキが創造で作った魔道具。私が魔法通信でそういう魔道具があるのを見つけ、作って貰った。
お高いけど買えないほどでも無い。
もっともレイキが作ったのが日本人水準の美味しいお水だとは誰も気が付かなかった。日本人からすると当たり前だから。
「魔道具も作れるのか?確か魔術師だと」
「本職は魔道具師だ」
魔道具師はその名前の通り、魔道具を作る職人だ。レイキにピッタリだよね?ってなって。もちろん、戦うことも出来るから対外的には魔術師だ。だってお水が湧き出る魔道具が作れるとかチートっぽいしね。
「そりゃまた…」
「ここだけの話で頼む」
「あ、あぁもちろんだ。なら水は大丈夫だな。食事は携帯食か?」
「作れる場所なら作る予定だよ、これが空間拡張カバンでね。食材や食料が入ってる」
「携帯用の魔道コンロもあるんだ」
「それも兄さんか?」
「レイキだ」
「レイキか、すげーな。あ、俺たちの事はそれぞれガル、グレイ、ジル、メッシと呼んでくれ」
「分かった」
冒険者はお互いをなるべく短く呼ぶんだって。緊急の時に長い名前を言ってる余裕が無いからとか。確かに魔獣の群れに当たってやたらと長い名前言うのはね?この話を聞いて納得した。
「魔獣の場合、お前たちの護衛はグレイとメッシだ。俺とジルは討伐に行く。いいな、で、野盗とかに襲われたら全員で囲む。タツキたちの陣形は?」
「俺が先頭、後ろにシエルでその後ろにサナエとレイキだ。各従魔は死角に展開する」
ガルが姫と王子、リリを見る。もっとも小さなサイズになってるから戦闘能力としては加味して無いだろう。強いんだけどね…。
「なるほどな、確かに死角は無さそうだ」
「それにその子は探索が得意だよ!」
肩の上のラビを見ながら言う。
「そうだな、もっとも俺らだってしっかりと索敵出来るぞ」
まぁ知らないとそうだよね?いいさいいさ、その内に分かるし。私のラビちゃんは凄いんだよー!
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