22.サナエの覚悟
まだ3日目夜
そろそろ本当に出発したい…
「私ね、結婚する予定だったの。半年後に」
「そう言えば王様に言ってたよね」
「うん、でも無くなったの」
「なくなった?相手が?」
「ううん、結婚が。相手はピンピンしてる」
「どういう…」
「当て馬だったの。本命は私の同期。その子は会社の専務に見初められて結婚してて。私の相手はその彼氏だったの。ほんとに最近知ったの。で、私と結婚して同期の子ともよろしくするつもりだったって」
「ひでーな」
「最低」「クズだな」
「そう。しかも私の事は優柔不断で体だけが取り柄だって」
「はぁ?最低ー最悪」
「ねーな、同じ男として許せん」
「あり得ない」
「だから専務さんに浮気の事実を伝えて、私も相手の有責で結婚を白紙にしたの。それが2ヶ月前。私の幼馴染が慰めてくれて…その幼馴染は同性愛者でね。私に好意を持ってたって。全然気が付かなくて。それでその…想いを打ち明けられて、私ももう男性は嫌だなって。で、結ばれて。凄く良かったの…その子はほんと優しくて。それから私はその、男性はダメで」
「サナエ、それ以上は言わなくていい」
「そうだぞ、無理するな」
タツキとレイキが止める。
サナエは軽く笑うと首を振る。
「言わせて欲しいの。私はこれからも女性しか好きになれないかもしれない。だから一緒にいるシエルがその…」
サナエの手が震えている。私はその手を握ると
「私は何も、サナエの趣味趣向に思うところは何も無いよ。だってサナエはサナエだから」
私を涙目で見てサナエは微笑んだ。
「嫌、じゃ無い?」
「全然。温かいし柔らかいし…」
「ふふっ、もう。でもありがとう」
「サナエが好きになるのが女か男かは別に気にならないぞ。俺の下の息子が付き合っていたのは男性ばかりだったしな」
「俺の姉貴も男に酷いことをされて男性不信になってた。その後、優しい男性と出会ってな、レスだけど結婚して幸せになってる。幸せは人それぞれだ」
「なんか急に重い話でごめんね。でも旅に出る前に話しておきたかったの」
「そうか、サナエなりの、この世界で生きる覚悟だな」
タツキがしみじみと言う。
「俺は前に話した通りで特に不満もなく、過ごしていてんだ。でもやっぱり何か、先行きへの漠然とした不安はあったんだろうな。正直、みんなと会って俺のスキルが役に立つと分かって本当に嬉しい。ワクワクしてるんだ、年甲斐もなくな」
サナエが頷いている。
「新しい出会いがあるかもしれないし?若返ったからな…お前たちに手は出さないから安心しろよ」
タツキがおどけて言う。
「心配してない」
「うんタツキはそういうことしないよ」
「お前ら、信頼してくれるのは嬉しいが。俺はまだ20代なんだぞ?少しは危機感を持ってくれ。特にサナエ、男好きのする体つきだからな」
サナエは目をパチパチさせると笑った。
「くすっ大丈夫よ、タツキは」
男性不信のサナエがタツキとレイキが大丈夫なら、きっと2人は安パイなんだろう、うんうん。
「だからシエル、お前は…言い方があんだろ?安パイってなんだよ、ったく」
そう言いながらも嫌そうじゃないんだから、お人好しだな。
「安パイな、それ昔の彼女に言われた。キープくんって呼ばれてたんだよ。縛らないしどちらかと言えば放置だから、都合が良かったんだろ」
「どちらから告ったの?」
「あっちから。面倒だと思ったけど、その頃は大学生だったからな。ヤレればいいかぐらいに思って付き合ってたんだよ。たまに会ってヤッてイベントには恋人らしい事をして。手がかからないし俺にとっても都合が良かったんだ。彼女は俺の友達と俺のこと笑っててな、下手だとかさ。ヤッてる時は凄くいいとか言ってた癖によ。で、別れた。それから俺もちょっと恋愛は無理ってなって」
「でもまだ若いからその、どう処理してたんだ?」
「テキトーに気が合ったのとしたり、自己処理してる間にあんまり反応しなくなった」
レイキは淡々と答える。
「そうか、悪かったな。変なこと聞いて」
「いや、言うつもりだったからな。サナエもシエルも安心しろなってさ。無反応とかではないんだが、少なくともお前たちを見て何かを感じたりはしてない」
「まだ若いからな。先は分からんな」
とタツキが呟いた。
「レイキはその不信になってからは独り?」
「あぁ」
「タツキじゃないけどこっちで素敵な出会いがあるかもね!」
「それならもうお前たちに会ってる。今の所、人生で一番の出会いだ」
スッキリとした顔でニヤリと笑うレイキ。曇りのない笑顔だ。
「だからこっちで目一杯楽しもうってな」
「あぁ、そうだな」
「私は結婚して25年経って離婚した。良くある熟年離婚だね。相手は仕事で知り合った若い子とよろしくやってるよ。私は自分の趣味に邁進してたんだけどね…飛ばされて。やっぱり残念だった。仕事も責任のある立場で、若手の育成なんかもしてたから。中途半端で来ちゃって。一番の心残りはあーちゃんだったの。だからこっちで会えて良かった」
「そうか、いい人はいなかったのか?」
「52だよ?いないよ、そんなおばちゃんを見初める人なんて。そもそも人嫌いだし」
「趣味って何?お料理とか?」
「あぁ、ハンドメイドでアクセサリーとかジャンクジャーナル系のレトロな作品とか作ってたの。マルシェとかで販売もしてたんだよ?」
「え?凄い!見たかったなぁ」
「あるよ?だって私はそのハンドメイドマルシェの帰りに飛ばされたから。作品も道具もパーツもそこそこ持ってる」
「後で見せて!」
「うん」
「シエルのそのピアス?カッコいいなって思ってたんだ」
「耳の軟骨のこれはイヤーカフ。耳たぶのがピアス」
「指輪もカッコいいよな、それ」
レイキは目の付け所がシャープだね?
「これはね、ボタンをリメイクして指輪にしてるの」
「なぁ、パーティーでお揃いの指輪とか欲しくないか?」
「いいな、それ」
「なら私が作るよ!」
「お願い」
「私はこっちに来て、時々感情が暴走しちゃうの。どうも年齢に引きずられてるみたいで。感覚では52なのに感情は14で、そのギャップに慣れてないみたい。だから急に泣いたりしちゃうかも。先に謝っておくよ、ごめんね」
「シエル…俺はお前がいてくれて本当に良かった。⭐︎無しだと思っていたらショック過ぎてこんな風に穏やかではいられなかった。何度でも言うぞ、ありがとな」
「レイキ…私も演技派で笑上戸のレイキに助けられてるよ!」
ふふふっと笑い合う。
「みんなとならこれからも、笑い合えると思うの。だから話した。軽蔑されても仕方ないって思ってたけど、受け入れてくれてありがとう」
サナエがさっぱりとした顔で言えば
「同郷の仲間だ。それはずっと変わらない。改めて、明日からよろしくな!」
タツキがまとめる。
「「「よろしく!」」」
こうして召喚された王都を出る前日の夜は更けて行った。
「そうそう、こっちに来て魔力に変換する事で排泄しなくて良くなったのが凄く便利だよねー」
「「「はっ?」」」
んと、あれれ?
「あれ?気が付いてなかった?だって姫とか王子、ラビだってうんちしてないでしょ?」
あっと言う顔。気が付いてなかったの?動物を飼うときに1番気を使うのが排泄の処理なのに。
ラビにもあーちゃんにも聞いたよ。おしっこ大丈夫って。
「飼い主失格です!」
みんなにビシッと言う。しょんぼりする男性陣。考えてご覧、牛だよ?そこら中に出してるでしょ?普通。
あの小屋が綺麗なのに疑問を持とうよ…!
サナエの衝撃的な告白から各自の事情を簡単に話した。俺はなぜか女より男にモテる。なんか抱きたくなるらしい。マッチョに特に人気だ。俺自身はノーマルだから抱かれた事は無いが。
枯れたとまでは言わないものの、元から性欲は強くなかったからなんとかなってた。
流石に身体が若返ったからか、前よりは制御が大変だ。サナエのなかなかボリュームのある胸が視界で揺れるとドキドキする。
それはもう本能だから仕方ない。押し倒したいとか、ヤリたいとかは思わないから安心だぞ。
シエルは、色々とぺたんこで全くそそらない。しかも見かけと違って中身がおかんだしな。
そんな風に召喚された場所を出ると言う緊張感と、覚悟の話をしていたのに。最後は生き物を飼う覚悟がなってない、とシエルに説教されて終わった。確かに姫とか王子の排泄に気が回らなかったのはそうなんだが。
何故こうなった…?
最後はレイキ視点
※読んでくださる皆さんにお願い※
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