19.中堅冒険者は弱いのか
3日目昼
後書にタツキのイメージイラスト載せてます
「お嬢ちゃん、ソイツらを中堅の基準にして欲しくないぞ」
少し前から扉の前で成り行きを見ていたお兄さんだ。強そう。強面だけど強そう。筋肉ましまし、めっちゃ好みです。
「お兄さん、そうなの?でも私たちの依頼は中堅冒険者で女性がいるパーティーだよ。それでインクリスに紹介されたのが彼ら。弱かったよ。女性もここにはいないみたいだし」
首を傾げる。なるべく可愛いく見えるようにね。もっともフードを被ってるから顔はほとんど見えていない筈。
「あーおい、ここのギルドは依頼者の希望を無視して、さらにこんなに弱くて下品なヤツらをこんなに小さな子がいるパーティーに紹介するのか?」
少しだけ声を張り上げたお兄さん。
インクリスは真っ青だ。
「会えば分かるって言われたよ。お勧めだって。私たちにはこの程度がお勧めって事なんだね…」
「ち、違…」
「インクリス、退がれ。申し訳無いな。どうやら依頼内容をきちんと把握できない職員がいたようだ」
いつもの目つきの鋭いお兄さん、ジアンさんが出てきた。
インクリスは真っ青なまま震えながら部屋から出て行った。
「ふう、申し訳無いな。ガウディ、ソイツラをつまみ出してくれるか?」
「おうよ」
お兄さんともう1人のやっぱりゴツいお兄さんが肩に2人と3人をそれぞれ軽々と抱えて扉を開けて、放り投げていた。
凄い!力持ちなの?カッコいい…。
そしていつの間にかジアンさんが私の隣にいて、頭を撫でられた。
「貴族のコネで入った職員で色々と問題がな…あの弱いパーティーも貴族の子弟なんだ。全く使えないのに偉そうに…」
最後の言葉は小さくて私だから聞き取れる程度の囁きだった。
「放り出したぞ、ジアン!」
「助かったよ、ガル」
「でだ、お嬢ちゃん。依頼にぴったりのパーティーがあるんだが、どうだ?」
「どこに?」
ドヤ顔で自分を指すお兄さん、カッコいい。
「お兄さん、女性は?」
「あたしだよ!」
横から声が掛かる。そこには背の高い、斧を背中に背負ったお姉さんがいた。
うわぁ、カッコいい。体にフィットするシャツにズボン、ブーツ。長い髪を一括りにしていて、その色は燃えるような赤。日焼けした顔に鋭くて大きな目と鼻と口。ボンキュボンを地で行くグラマーさんだ。
ポカンと口を開けてふらふらと寄って行こうとした私をタツキが止める。
「おいこら、しっかりしろ!」
あ、思わずトリップしてたよ。いや、カッコいい。
「あはは、気に入ってくれたのかい?グレイスだよ、小さなお嬢ちゃん」
「グレイスしゃん…」
思わず噛んだ。
「ぶふっ…」
レイキか、チラッとな。フンだ!カッコいいは正義なんだ。
(このパーティーがいい!)
(だからお前は、メンバーとランクぐらい聞けよ!)
タツキに怒られた。確かにそうだね。少し冷静になる。
「あー良かったら食堂で話してくれないか?」
周りを見回す。注目されてる…これは恥ずかしい。
「ありがとうジアンさん」
ジアンさんは優しい目で私を見て窓口に戻って行った。
「あー、食堂で話をするのでいいか?従魔も入れるぞ」
「お願いするよ」
代表してタツキが応えてくれた。
ギルドの入り口から見て左手奥にギルド併設の食堂がある。初めてだ。ワクワクするね!タツキを見上げるとふわんと笑った。楽しみなんだね。
ぞろぞろと移動する。奥のテーブル席に腰掛けた。四角いテーブルでどちらも4人だからそれぞれ2人ずつ腰掛ける。
周りに人がたくさんいるから私もサナエもフードを取らない。
「注文は?」
顔に傷のあるおじさんが聞きに来る。
「昼飯食べて行くか?安くてそこそこだ。定食なら500ガロン。軽食なら300ガロン。お嬢ちゃんたち2人は軽食がお勧めだ」
「俺も軽食にする」
レイキだ。こちらは軽食3と定食1、あちらは定食4で大盛りだ。飲み物はお水だけ頼む。こっちでは水もお金がかかる。1杯30ガロンだ。
「まずは自己紹介だな。俺は空かける翼のリーダーでガウディ。剣士だ」
あの強面のガタイがいいお兄だ。茶髪に青目の目も口も大きな人。
「俺はシルバ、剣士だ」
この人はさっき例のヤツラを放り出してくれた人。ガッチリしてて金髪に青目のイケメンさんだ。
「私がグレイス、斧師だよ!」
で、カッコいいお姉さん。赤い髪に茶目だ。
「俺がメッシーニ。魔術師、治癒とか付与全般」
細身の色白な人だ。金髪に緑目の儚気なイケメンさん。
「4人パーティーで、パーティーはBランク、俺がA、シルバとグレイスがB、メッシーニがCだ」
バランスのいいパーティーだね。前衛寄りの布陣だ。
「こっちは蒼の氷柱で俺がリーダーのタツキ、剣士だ」
レイキを見る。
「俺が魔術師でレイキ」
サナエを見る。
「私も魔術師でサナエ」
「私がシエルで剣士!」
「「「「…」」」」
あれ?みんなの時は頷いてたのに、私の時はシーンって何で?
「お嬢ちゃんが剣士か?」
「うん、タツキの後だよ!うちはタツキの戦力が高いからね」
(私は魔法の使用が禁止だしさ…ボソリ)
「バランスは大丈夫か?魔術師2人はかなり偏ってるが?」
「今の所、問題はないし、従魔も優秀なんだ」
チラッと私の肩を見る。ラビは鼻をぷもぷも、しっぽをタンタンしてる。可愛い。見られていることに気がついたラビが後ろ脚で立ってガウディを見る。お鼻がさらにぷもぷもお耳がピクピクしてるよ?
しばらく匂いをかいで、安心したのかまた丸まった。
「白うさぎは気配に敏感だから、確かに危機察知は安心だな」ガウディ
「こっちの鶏は強いのかい?」グレイス
「牛は戦えるのか?」シルバ
「強く見えない…」メッシーニ
まぁね、一見するとただの小さな牛と鶏だからね?でも、そもそも過剰戦力だし。
「まぁ俺たちの指示をちゃんと聴けるのなら問題ない、で、どうだ?」
顔を見合わせる。
「あの、なんでこの依頼を受けようと思ったの?お兄さんたちは強いでしょ?」
動機は大事だ。
「あーその説明をしないとな。実はな、この王都から拠点を移すつもりでな。近々、ここを出ようと思ってたんだ。それなら護衛依頼を受けながら移動するかってなってな。貴族や商人の護衛はな、性に合わん。だからまだ初心者の冒険者たちが護衛依頼を出したと聞いてな。冒険者はな…過信して護衛を付けないで移動するヤツらが多いんだ」
「それをさ、そこそこ高いお金を出して護衛を頼むって言うじゃないか。聞けば女の子2人がいるって。ならあたしの出番さ!ってね」
(ねぇ、凄いいいと思う)
(感覚的には有りだな)
(シエル、大丈夫そうか?)
(護衛を頼みたい王都の中堅冒険者パーティー5選!に入ってたよ。「空をかける翼」は)
(決めるか?早くここを出たいし)
(いつ出られるかを聞こうよ)
(そうだな、確かに重要だ!)
「いつ出発出来る?」
「今日でも大丈夫だ!」
タツキがみんなを見る。私はしっかりと頷く。
「ならぜひお願いしたい。出発は明日の朝で」
「よしきた!任されたぞ?」
「あぁ頼む」
ガウディとタツキが握手を交わした。するとそこで見計らったようにご飯が運ばれて来た。
軽食はパンとスープ、サラダにお魚かお肉が少しだ。私はもちろんお魚。サナエとレイキはお肉だ。
定食はパンにサラダにスープ、そしてお肉がドンッだ。凄い量、大盛りなんてタワーだよ。食べるの?これを?
ガツガツバクバク。なぜかみんなほぼ同時に食べ終わった。謎だ、どこに入ったんだ?あのタワーは。
「野営の準備は大丈夫か?必要なものは分かってるか?携帯食は多めに持てよ。あとは水だな。補充出来るとは限らないからな」
「準備は終わってる。必要なもの調べたから大丈夫なはずだ。水は確かにな、分かった」
「なら明日は朝の6時にギルドの前で集合だ。よろしくな!」
「「よろしく!」」
こうして無事に護衛が決まった。良かった。
それぞれ会計をして食堂を出るとジアンさんに声を掛けられた。
「少しいいか?さっきはうちの職員が失礼したな。処分されるから、それで許してくれるか?」
「構わないぞ!依頼が決まったからな」
「空をかける翼だな、良かった。バランスのいいパーティーだ、力もある。短い間だったが、他でも頑張れよ!体には気をつけてな」
「ありがとな」
「ありがとう、ジアンさんも元気でね!」
あぁと呟いて頭を撫でてくれた。私はその手を握ってブンブン振った。ジアンさんは少しだけ驚いて、でもふんわりと笑ってくれた。
無事に護衛が決まって、ここを出る事が出来る。それなら明日からの旅に向けて食材の買い出し。
エオンで買えるんだけどね、空かける翼のみんなに見せて大丈夫な食材とダメな食材が分からないとマズイからリサーチも兼ねて。
公園の近くに市場があるので、そこを目指す。
食料、食材、衣類に布や糸など、色々と売っている。
魔獣の皮とか素材も売ってたよ。値段を見ながらそぞろ歩く。
あ、この辺りだな。
まずは調味料。塩は買う。砂糖も少し高いけど買おう。入れ物は陶器の壺だった。エオンで買って次からは詰め替えたらいいね。コショウとか唐辛子も売ってた。バジルが欲しかったけどやっぱり無い。探すかね?
塩は岩塩で、一塊拳大で1000ガロン。高いな。砂糖は手のひらサイズの壺入りで2000ガロン。高い!やっぱり次からはエオンで買って詰め替えて使おう。
次は食材。お肉は猪もオークもあるから間に合ってる。魚は…売ってないな。残念。野菜は買おう。
ジャガイモに人参、玉ねぎにキャベツ、レタスや大根もあった。お、蕪発見。あーやっぱり芋はジャガイモだけか。里芋とか山芋は山で探そう。
チーズ発見。それは欲しい。カマンベール風のチーズとハード系のチーズが売ってたので、買う。
これは両手に乗るくらいで2000ガロン。安いんじゃ無い?
ベーコンやハムも売ってる!これも買いだね。
一塊で1000ガロン。安いね。あとは味かな。鑑定で見る限りは美味しいみたい。
そして、パン。硬めのボソボソしたパンは喉を通らないから柔らかいパンが欲しい。でもやっぱり無い。
「柔らかいパンが無いね?」




