14.ボタン鍋にひれ伏せろ
ふー、そろそろ夕食の時間だね。
実はね、時計も買った。こっちにもいわゆるアナログ時計は売ってるらしいから、お安めのアナログ電波時計をね。
電波来てないけど、使えるらしいよ?魔法通信で調べた。
サナエと微笑み合って手を繋いで部屋を出て、男性陣の部屋をノックする。
すぐにタツキが開けてくれる。
「誰かぐらい確認したら?」
あんまりアッサリと開けるから聞いたら
「気配で分かるから大丈夫だ」
「えっいつの間に?」
「魔力感知が出来るようになったみたいだ」
「えー凄い!」
「それなら大丈夫だね、お待たせ。材料持ってきたよ」
「ボタン鍋なんて出来るのか?材料も調理道具も足りなさそうだけど」
「じゃじゃーん、見て驚け!鍋の素だー」
タツキとレイキが固まった。
「お前、こんなもんまで買い込んでいたのか?」
「ふふっ違うよ、シエルは転移前に買ったんじゃないの」
「転移前に買ったんじゃな…はぁ?お前、それを買えるのか?」
「そうだよ」
会心のどや顔だ。
「その話は食べ終わったらするから、まずは作るよ!」
自分たちの部屋で材料はすでに土鍋に放り込んである。煮込んで鍋つゆを投入するだけ、
なんてお手軽!
土鍋からはすでにいい匂いが立ち上っている。
「匂いは大丈夫か?」
「抜かりはないぜよ」
もちろん結界で匂いを閉じ込めている。完璧だ!
「ふふふっどう?ひれ伏していいのだよ、君たち」
「ははぁ…」
「シエル様〜」
乗りがいいね?ふふっ、でもほんと楽しいよ。
ぐつぐついうお鍋に誰かの喉がゴクリとする。そそるよね?この匂い。
「まだだよ?今から葛切りとお餅を入れるからね!」
「うおーー!」
「シエルでかした!」
テンションアゲアゲだよ。
みんなでお鍋を無言で見つめる。お鍋さんからはいい匂いとぐつぐつという音。そろそろかな?
蓋を上げる。もわんと湯気が立つ。おぉ〜良きでは?
お玉で軽く混ぜる。よし、いいだろう。
手元のトンスイにお肉、野菜、お餅に葛切りをバランス良く入れる。
4つ入れ終わるとみんなに配った。
「では」
「「「「いただきます!」」」」
しばし無言だ。
はふっ、美味しい。あぁ故郷の味だ。美味しいね、本当に美味しいよ…ぐすっ。もう帰れない日本。
平和な国だったな。アーちゃん元気にしてるかな?
お兄ちゃん、いなくなってごめんね。
どうしようもない気持ちが溢れてくる。慌てて涙を拭おうと顔を上げるとみんな泣いていた。
そうだよね、戻らなくてもいい。そう思ったとしても、戻れないのはやっぱり悲しくて。簡単には受け入れられない。
お鍋で身体が温まったから余計に泣ける。今はまだいいよね?泣いても。泣きながら食べて、食べながら泣いた。きっとみんなも同じだ。
泣いてるのにお鍋はちゃんと減ってく。美味しいもんね。
「美味いな、初めてのボタン鍋だ」
「私も初めて」
「俺も」
「実は私も」
そして真っ赤な目で顔を見合わせて、誰からともなく笑った。まだ涙はとまらないけど、まだいいよね。泣けるうちにたくさん泣こう。少なくともそれを笑う人はいないんだから。
具がなくなったのでシメのうどんを投入。卵とじにする。うどんも美味しく胃に収まって、ご馳走様でした。
「美味しかった、シエル」
「うん凄く美味しかったよ」
「あぁ、さすがだな」
「良かったよ、まぁ味付けは鍋の素だけどね」
「また食べたいな」
「頼むぞ」
「任された!」
余韻に浸ってから片付ける。汚れを丸めて空気の膜に包んでそっと窓からお外へ。
鍋や食器は洗浄できれいにする。そして亜空間に収納。楽ちんだね。
食後のお茶を入れる。
ふーふーこくん、あー染みるね。緑茶美味しい。
まったりとお茶を飲んでいると
「なぁ、鍋の素とか土鍋とかどうしたんだ?」
「ふふふっ、これ見て!」
自分のスマホを差し出す。
「おい、これ…」
「エマゾンじゃないか!」
「こっちもあるよー」
スマホを操作して画面を見せる。
「エオンだ…」
「「マジかよ…」」
そこでサナエがタオルや寝袋などを取り出す。
「はい、共用のお金から買ったの。結構使っちゃったから、また集めるね」
「寝袋だ、椅子に毛布にタオルも!助かる」
「これなら買わなくて良かったな」
「私たちは美容系のものや下着も買ったの。だから2人も買い物するならどうぞ?私のスマホでしか買えないから」
そう、サナエのスマホを私が操作したら買えるかって試したけどダメだった。
「お金は写真を取るとチャージされるよ」
レイキがすぐにお金を取り出して私のスマホのカメラで撮影した。
「おぉ、チャージされた!」
そこからレイキがしばらくスマホを離さなかった。まぁ仕方ないね。
タツキもソワソワしながらレイキを見ている。
「何を買ったんだ?」
「美容品とシャンプーやボディソープ、歯ブラシと歯磨き、後は下着やインナーにパンツやアウターだね」
「みんなが必要で、こだわりは無さそうな物はまとめて買ったよ」
「いや、マジでシエルさまさまだな」
「そんなの偶然だよ、こうやって楽しめる仲間がいなかったら、調べることすらしなかったかも」
「お前はそういうヤツだよな」
タツキが笑ってありがとな、とまた言った。
「おぉ〜」
亜空間から買った商品を取り出してダンボールの中を見て感動しているレイキ。
「シエル、お前がいて良かった」
私は何も言わずに微笑んだ。良かった、だってレイキの目には涙が出て浮かんでいたから。そっとその背中をさする。レイキは俯いたまま泣いた。
受け止められないよね?色々とさ。まだ若かったし。
タツキはレイキから受け取った私のスマホを凄い勢いで検索している。
お、とかこれは、とか言いながらも楽しそうだ。少しでもみんなが笑顔になれたら嬉しいな。
選び終わったのか満足そうに私にスマホを返す。
そして亜空間からいそいそとダンボールを出して開けて、固まって泣いた。
その頭をわしわしと撫でる。大人しく撫でられてるタツキは可愛い。
「だから聞こえてんだよ!」
ふふふっと笑うとタツキも泣きながら笑った。そう、笑わなきゃ。どんなに寂しくて悲しくてもね。だって私たちはこの世界で生きて行かなきゃならないから。
「ねぇ、爪切りと耳かき、こだわりある?」
「唐突だな」
「私はドイツの刃物で有名なアレがいいんだけど」
「あーアレな、いいぞ」
「ハサミも欲しいな」
「そうだね、刃物なら何でもあるから1人一つ買おう」
爪切りと耳かきとハサミを4つずつカートへ。
後は
「共通の薬も買いたいわ。風邪薬と鎮痛剤と胃腸薬くらい?」
サナエが聞く。
「そうだな、薬はな。消毒薬は欲しい」
「ガラス瓶に詰め替えだな」
この世界にプラスチックとか無さそうだからね。バレないようにしないと。
薬を入れて、消毒薬は各自一つでガラス瓶もカートへ。
「あ、ティッシュとトイレットペーパーも!」
「それなー」
それぞれカートへ追加。
「他に何かある?」
「野営道具は先に買ってくれてたよな」
「うん、そうだね!あ、従魔の首輪がいる」
「「「あ…」」」
「姫たちのとこ行ってくる!」
「私も!」
「俺もリリのとこ!」
「私はここで待ってるねー」
サナエはルーが肩にいるからお留守番。
それぞれの子たちのサイズを測って戻った。
「サナエは要らないから各自で買う?」
「共用のお財布から買うよ。私はみんなの子たちに助けられる場面も多いと思うの。だから、ね」
「サナエがいいならそうさせて貰おう」
タツキの一言で決まった。
「こんなもんでいい?」
「食材は?」
「んーしばらくは野営だし、明日市場で仕入れてかな?目新しい物はダメだし」
「それもそうか、なら俺は大丈夫だ」
「俺も」
「私も」
「お金を追加で、2000ガロン欲しい」
それぞれから貰ったお金をカメラでチャージして購入。亜空間からダンボールを出して配布した。
「今日はこんなもん?」
「あぁ、盛りだくさんで疲れた」
「シャワー浴びて早めに寝よう」
「明日は?」
「市場で野営用食料の買い出しと薬草採取だな」
「少しでもお金を稼ぎたいよね」
「そうだな、減る一方だ」
「ねぇ、商業ギルドに登録して何か売れないかな?」
「例えば?」
「ハンカチタオル」
「あー売れるか?」
「売れないかな?冒険者とかに」
「魔法通信で調べたら?」
そうか、それがあった。異世界のグッズでバレずに高く売れる商品は?
(お勧めは
・ビーフジャーキー
・金平糖
・石けん
・液体歯磨き
・ボディクリーム
・包帯)
「調べたらビーフジャーキー、金平糖、石けん、液体歯磨き、ボディクリーム、包帯だって」
「ビーフジャーキーか」
「金平糖ね」
「石けんは定番だな」
「液体歯磨きとボディクリームか」
「俺はビーフジャーキーと石けんがいいと思う」
「うん、あまり手広くやると大変だし勘繰られてもな」
「そうよね、ビーフジャーキーと石けんなら自分たちも使えるし、さり気なく宣伝になるわ」
「売るにはやっぱり商業ギルドの登録がいるみたい」
「シエルだけ登録したら?」
「その方がいいならそうするよ」
「なら明日は商業ギルドに行こう」
「ねぇ、レイキ。牛乳は農業ギルドで買取もしてもらえるって。タツキのダチョウの卵も貴重だし、ある程度溜まったら売れるんじゃない?」
「なら俺とレイキは農業ギルドに登録するか」
「じゃあ私はルーの織った布とか糸を販売するかもしれないし、商業ギルドに登録するよ」
ドイツの…ヘン◯ルスとかゾーリン◯ンとか、ですね…人は2人の方が良きです(マークの人)
※読んでくださる皆さんにお願い※
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