120.鍛治の町再び
ウルグ・レイはヤールカにおける鍛治の町、別名ローゼン。鍛治師にとってはローゼンの方が知られている名前だ。
湖と反対側に鉱山があって、そこで取れる良質な鉱物を使っている。
昔々、鉱山があることに気が付いた人がここに町を築いたのが始まりだとか。
ウルグはその鉱山の名前。元々の町の名前がローゼンだ。
湖沿いは鍛治の町へ来る人たち用の宿泊施設。で、鉱山側に工房が並ぶ。
私たちは商業ギルドで1棟貸しの別荘を借りた。
私たち蒼の氷柱4人、タフ、バーキン、シェリルとマウイ、そしてスイ。総勢9名。
大所帯だ。馬車は2台に馬が3頭、黒馬が3頭にダチョウ、牛2頭、うさぎ、犬、鳥と雛(産毛は抜けた)、スライムたくさん。そしてマンティにムササビの赤ちゃん。
馬たちと姫、王子とリリは厩舎。マンティは家の中だ。
10部屋あるけど、私とタフにスイは同じ部屋で寝ている。自分の部屋はあるんだけどね、寝る時はタフとスイと一緒。
スイはあれから少ししか経ってないのに、背が伸びた。そして抜かされた。地味に悔しい。
(ぐはっ…)
(ドングリの背比べ…)
レイキの吹き出しとサナエのつぶやき。最早セットなのか?セット販売なのか!?
ここウルグ・レイは帝国の国境まで5日。ここからは湖を離れて北を目指す。そして帝国の国家の町、ビアンカに着く。帝国のどこに向かうのか、まで決めずに帝国へ!と考えて旅をして来た。
マイヤーを経ったのは転移から1ヶ月半くらい。そこから3日でヤールカに入り、すでに2ヶ月近い。と言うことは転移から3ヶ月過ぎた。
まだ春だったのに、今はもう夏本番。まだまだ暑い。そしてここは鍛治の町。工房街は熱気で溢れている。
ウルグ・レイに到着した翌日、タフに付き添われてみんなで商業ギルドに向かった。久しぶりの納品だ。マイヤーで稼いだからお金にはかなり余裕がある。しかもシビルレイでの騒動で王宮からも見舞金が出た。
シェリルには1千万ガロン、私には500万ガロン。漁師たち船に乗ってた人には100万ガロン。
大金だ。それでも、湖はヤールカにとって貴重な資源。その守り龍は崇められていて、その龍を救ったシェリルは魔女としての名前を不動のものにした。
私は王子を助けたとして、密かにお金を貰った。公に出来ないし、私も目立ちたくなかったから。
マンティはちゃんと隠蔽をしていたらしく、私の姿もほとんどの人に見えていなかった。ただ、地上に降りたマンティが王子を咥えているのは目撃されていて、私がそのマンティの背中にいたのも。マンティは私の従魔。なので私がお金を貰った。
だからね、お金には困っていないんだ。でも、レイノルドに頼まれてる追加のアクセサリーもあるしね。
心配したタフとシェリルが外に出してくれなくて、だから作業は捗った。真っ先に作ったのはタフとお揃いの髪の毛を結ぶリボン。
ルーの糸を貰ってタフと私の名前を刺繍した。
先端にはもちろん、真珠。薄紫でお揃いのリボンは銀色の髪の毛に映える。
入れ物はもちろん、ホタテの貝殻。表面を削って艶々にしたよ!
それを渡したらタフは固まってから目を潤ませてそのリボンを渡して来た。背中を向けて。
だから髪の毛をまとめてリボンで結んだ。私は左肩で一つにまとめてリボンで留めている。
「お揃いだよ!」
「そう、だな…シエル」
ふわりと抱きしめられた。
で、ホタテの貝殻を使って入れ物にしたお揃いのアクセサリーも作った。そう、指輪。ワイヤーがあったからそれを使って細工をして。フリーサイズになるように。
もちろん、真珠を使ったよ!小さなのがあったからね。
タフに見せたら
「お揃いか?」
と言うので頷いた。まずは自分が使わないとね。ワイヤリングはそこまでやりこんでないから。
タフが私の小指に付けてくれる。うん、繊細なワイヤーだけど強度があるからしっかりしてる。
タフに渡されたから
「どこ?」
と聞けば右手の小指を出された。そこに嵌める。ゴツゴツとした、でも細くて長い指に繊細な指輪はビックリするくらい似合った。
小指を絡めて
「お揃いだな…」
「うん!」
なんだかこそばゆい。でもふんわりと胸が温かくなった。タフが私を呼び捨てにした。なんだか本物の家族になったみたいだ。
と話が逸れた。お金に余裕はあるけど、新作をレイノルドに卸さないとだし。
商業ギルドに入ると受付のお姉さんがニッコリと笑い
「こんにちは。納品ですね!」
と返事も聞かずに奥へと進む。
「どうぞ!」
個室に案内されて入ると扉が閉まる。
その後
「ギルマスー!来た、来ましたよー!!石けんが。早く買いたいー!!」
丸聞こえですが?
「ぐほっ…」
「た、楽しみだったのね、石けん」
「みたいだな、くすっ元気な事で」
「…」
しばらくしてドアが開く。澄ました顔のお姉さん。後ろからスマートな男性。目が細長くて瞳孔が縦だ。なんだろ、どこかで見たような。
「初めまして、ウルグ・レイの商業ギルドでマスターをしておりますロアと申します」
「サナエよ」
「タツキだ」
「レイキ」
「石けん…」
「ぐはっ…おい!」
レイキはリアルで吹き出した。
(不意打ちはやめろ)
ロアさんは目を開いてお姉さんを見る。言ってたもんね、石けんが来たって。
(ごふっ…確かに)
お姉さんは真っ赤になって俯いた。なんだろう、エアーしっぽがボンってなった。
「ふふっ、これは失礼しました。ネネは猫獣人です。あ、私はカメレオン」
あ、それだ。縦長の瞳孔と鋭い目。なるほど納得。
お姉さんのエアーしっぽは合っていたようだ。
(おい、しっぽボンとか言うな)
(エアーしっぽ…)
ふふふっだって見えたから。
「納品に来たの、色々」
そしてサナエはビーフジャーキー、私は石けん各種とタオルハンカチ、そして温泉タオルだ。
「これは、その…ネネが言ってた通りで石けんはみんな楽しみにしてたんです」
それはラウラ・レイでも言われたなぁ。獣人はとてもきれい好きが多くて、石けんの需要は高いって。
用意したのは牛さん石けんが100、ウタマル石けんが100、レックス石けんが50だ。
ビーフジャーキーは30袋、ハンカチタオルは無地が50、今春は封印で温泉タオルが50だ。
「どれくらいが希望なの?」
「あればあるだけ、ですが…少なくとも500、出来れば1000は欲しいです」
んーレックス石けんは高いけどいいのかな?
「その、香り付きは高いけど」
「それは獣人特有の理由です。違う種族で婚姻可能なので、体臭には気をつけるんですよ」
へー?
「捕食者と非捕食者とかの組み合わせもありますし」
ライオンとうさぎとかかな。後は猫と鳥とか。ネネさんが師匠にロックオンしてるもんね。
タツキを見ると
(牛さん石けんとウタマル石けんは500を確約、レックスはにごしておけばいいだろう)
サナエが頷くと
「香り付き以外は500用意できるわ。香り付きは出来る範囲で」
「もちろんでございます!」
目を細めてサナエを見るロアさん。笑顔だけ見たら胡散草い。でも悪意はなさそうだし、顔付きの問題かな。
(ぐふっ…)
(悪人顔)
言ってないよ!そんな事。どちらかと言うと悪ガキって感じかな。
「ふわふわは大丈夫かしら?」
「えっと出来ればこちらも追加を希望します!」
悩んで明言は避けた。数の確約はできないけど、追加はすると伝えて。
「リーブラン商会への荷物を納めたいの」
「はい、承っております。サーラヤには店舗を構えておりまして…シビル・レイにも新しく店舗を出すと聞いております」
あーホタテの貝殻と真珠だな。さすがレイノルド。送った荷物はもう届いたんだろうか?それとも情報だけか。にしても素早い。商機は逃さないってね。
新商品も納品した。ホタテ貝に入れた指輪とリボンだ。ロアさんに見せたら間違いなく売れます、と言われた。
ちなみに、買取のお金は商業ギルドの口座に入っている。リップバームとハンドクリームは共通で使うお金としてサナエに。アクセサリーは私が作ってるから私に。
そちらのお金もそれなりに貯まっている。レイノルド様々だ。ちなみにホタテ貝と真珠を使った作品のお金はタフの口座に入れて貰う。ごねられたけど、ね?
後3話で終わります…
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