117.ラビラ・レイ
俺たちは旅をしている。
湖沿いに北を目指す。
湖の周りには町が点在する。南は栄えているからか、1日移動すれば町がある。しかし、北は1週間ほど進まないと次の町は無い。
湖沿いの町は名前の語尾にレイが付く。
諸々あったシビルレイを出発したのは、到着から実に1ヶ月と半分も過ぎてからだった。この世界に来てから期せずして1番長く滞在することになった。
原因はもちろん水龍だ。呪いによって操られた水龍により、大きな被害が出た。
人も亡くなり、最盛期の漁も出来なくなった。ただ、波が収まった翌日、岸には大量の貝が打ち上げられていて、その年の収穫量は確保出来た。
しかし、保管が追いつかない。すでに季節は初夏。そこで、サナエが冒険者ギルドに氷の提供を申し出た。それを漁師からの依頼として貰い、サナエが大活躍した。
そして、水龍の代替わりを見守ったようなタイミングで、シエルは約1ヶ月の眠りから目覚めた。
俺はあの時のことを思い出した。
シエルが目覚めた後、頭を抱きしめられて…目が覚めると温かい。ハッとして腕の中を見ればシエルだ。うわぁ、アレか。泣きながら寝たのか、俺は。
恥ずかしい。でもその温もりを手放したくなくて、また目を瞑った。唇にふにゅりをした感触。シエルが寝ぼけて顔を寄せていた。おい、寝ぼけてキスするか?
その後、目が覚めたシエルが俺とキスした状態に気が付き…目を開いて真っ赤になった。タフとは散々してるのにな?
「ご、ご、ご、ごめん…なさぃ」
最後は消えそうな声で謝った。
「ふはっ、くすくすっ。俺は役得だから」
シエルはまだ赤い顔のまま
「もう、大人を揶揄わないで!」
側から見たらシエルこそ子供だろうに。憮然としている。
「何があった?」
シエルは困ったように笑うと
「それが、覚えてないの…」
まぁ意識がなかったんだし当たり前か。
「ねぇ、目の色って?」
そうなんだ、光の加減かと思ったがどうやら違う。虹彩の縁が僅かに青い。そう言えば
「何でかな?何か水龍がらみ、とか」
「水龍といえば、な」
俺は幻のような水龍が空高く昇ったことを伝えた。シエルは驚いて口に手を当てると
「スイレン!」
そして何かを考え込んだ。
「レイキ、私…」
ドアがノックされタフとシェリル、タツキにサナエも入って来た。
「「シエル!」」
タツキとサナエは目覚めたと聞いたものの、また眠ってしまったシエルとは話が出来ていなかった。
「ただいま?」
「お帰り、シエル」
「もう…シエルってば。でもお帰り」
「ふふっお待たせ?」
サナエはシエルに抱き付き、タツキは頭を撫でている。
「ねぇ、貝はどうなったの?」
「ぐふっ」
(おい、目が覚めて聞くのがそれなのか?)
(だって…ホタテ美味しかったから)
分からなくは無いが、やっぱりシエルは少しズレてる。
「大丈夫、沢山確保したよ!」
「波が収まった翌日、大量に打ち上がってたんだ」
サナエが大きな胸を張り
「私が凍らせたの!感謝されて…とても安く買えたのよ!」
「あれは凄かったな。えらく感謝されて…」
「やっぱりサナエは凄いね!単なる魔法じゃ無いから」
「ふふっ役に立てて良かったわ」
「みんな無事で良かったよ」
「それはレイキがな…」
俺はただ、服に空気を含ませただけだ。
「沈まなかったことが生きることに繋がった。俺の乗ってた船の漁師も1人亡くなったし」
「俺のもだ。レイキのお陰だ!」
「役に立てて良かったよ。でもタツキなら大丈夫だっただろ?」
「渦に巻き込まれたら無理だな。浮上出来たからそこ、だ」
「レイキ、お手柄だったんだね!」
何故か心がポカポカした。
俺は起き上がった。シエルは流石に長く寝てたから、まだ起き上がるのは無理だった。
そこにドアがバンッと開いて
「シエル…」
目覚めたシエルをあたらめて見て、シェリルは口に手を当てて涙を流した。ゆっくり近付いてくると、シエルの頬に手を添えておでこを合わせた。
そして抱きしめてそのまましばらく動かなかった。
シェリルを助けたのはマンティだが、間違いなくそれはシエルの想い。だからだろう。シェリルにとってはシエルは命の恩人だ。その想いはより確かになったみたいだ。まぁ、自分より遥かに若い女の子に助けられたんだからな。
そんなこんなで、シエルは目覚めたが…すぐには起き上がれず。出発はシエルが目覚めてから1週間後となった。
そして、次の町ラビラ・レイへ向けて旅をしている。シエルにはタフとシェリルがベッタリだ。どちらかが必ず抱きしめている。シエルは少しウザそうにしているが、本調子では無いのか諦め顔だ。
あの時、何かを言いかけたシエル。それから話を聞く暇もなかった。なんせ、過保護な2人が四六時中シエルから離れないから。
流石にお風呂だけはサナエに任せていたが、シェリルがその気でシエルを抱き上げたらタフに
「嫁入り前の子と風呂に入るのは許さん!」
となった。シエルもタツキもサナエもキョトンとしている。
「何で?」
シエルが聞く。
「魔女と結婚する気か?」
逆に聞かれていた。
「同性婚…?」
やっぱりか…最初は俺も騙されたからな。
シェリルはシエルの手を握ると自分の股に手を当てた。ぎゅむっと小さな手がナニを掴んだ。
「…」
フリーズしたな、まぁな。実力行使に出るとは。
「分かった?私の女神…。いつでも受け入れるよ」
シエルは目を泳がせて
「でも、その…タフと…」
マジか。それは知らなかった。
「ふふっ、それはそれ。シエルは別だよ」
「えっと、お風呂はサナエと入る」
シェリルは妖艶に流し目をした。シエルは全く揺らがず、いや寧ろ混乱していた。その手をナニから離して目を彷徨わせて。
とまぁそんな感じでシエルと2人になる機会がない。何かを思い出しただろうシエルに話を聞きたいんだが。そして勘だが、それをタフやシェリルに話すつもりは無さそうだ。
そうそう、あの王子は結局俺たちが借りていた家を出た後も、そこに留まった。静養のためだとか。
タフとシェリルの判断で、彼はシエルと会わせなかった。俺もそれがいいと思う。きっと会ったら惹かれてしまうだろうから。
彼は最後にシェリルに何かを託した。それが何か俺たちは知らない。知らなくていいだろう。この国は通り過ぎるだけだから。
こうして、シビル・レイから1週間かけてラビラ・レイに到着した。
次からシエル視点に戻ります
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