115.水難2
私はマンティに乗って湖に落ちていくシェリルに向かって行った。その手を掴んで抱きしめる。大丈夫、間に合った。
でも水龍はまだ暴れていて、シェリルを掴んだ直後にマンティごと跳ね飛ばされた。モロにぶつかられたから。
その際に体がバラバラになるんじゃ無いかと思うくらいの衝撃が来た。腕と足が痛い。
アイカとシェリルを折れたと思われる腕で抱えて、マンティがなんとか水龍の近くから飛んで離れた。
あれは、呪い。
(あの呪いを解きたい!)
(解呪の魔法を…呪文は****)
魔法通信さん、ナイスアシスト!反動がかなり来るけど、仕方ない。ポーチから杖を出す。
(そのものの想いを返す…解呪!)
杖の先から魔法が放たれた。同時に庭にいたチョコたちからも雷魔法が放たれた。どちらも過たずに水龍に当たり…崩れ落ちる様に湖に沈む。助けなきゃ!
マンティはその意を汲んで私ごと湖に突っ込んだ。水難…過去に例を見ない酷さだよね?
体は不思議な事に濡れてないんだけど、全身が痛いよ…。地上に戻ったところで意識が途切れた。
勘弁してよもう…!でも少しだけダイビングをしている気分で楽しんだのは内緒だよ。
目を覚ます。あれ?ここはどこ…私は何を。
目を開けると優しく淡い光が溢れた空間であると分かる。借りていた部屋じゃ無い。ここは?
シャラン
『ん?やっと目が覚めたか。やれやれ、寝坊助だな』
えっと…?
首を向けると目に入ったのは水色。髪の毛?流れる様にふわりと広がる美しく長い髪。白い肌に大きな目。美人さんだな。
『聞こえぬか?』
「…聞こえる」
上から顔を覗き込んで来る。
『人は脆弱だからな、心配した。まずは礼を言おう』
「人、じゃないの?」
『明らかに違うであろう?』
分からない。ただ、人間離れした美しさではあるけど。
「礼って?」
『助けて貰ったからな。呪いだ』
あっそうか。
「水龍?」
『やっとか』
くつくつと笑う。
だってね?人の姿をしてるから。
それから水龍であるスイレンにもてなされた。浦島太郎とかにならないよね?
「ねぇ、外と時間の流れが違うとかない?」
ふっと笑うスイレン。
『よく分かったな』
えぇ…せっかく若返ったのに?
『はっはっは…逆だ!ここの時間の流れは外より早い。10日いても、帰れば1日しか経っておらん』
ホッとした。
「スイレン、なんであんな事に?」
『呪いか?』
「うん」
『分からぬな』
ガクッとな。
「スイレンの体に同化してたよね。あの呪われた人が」
『そうであるな。自我はあるのに体を乗っ取られた様な感じでな』
「ふーん」
『獅子族の若者であった』
スイレンは物憂げな顔をする。怒ってないの?
ふっと笑うと
『仕方あるまい。魔女に討伐されなくて済んだしな』
あ、そうだ。今更だけど、なんで私だけここにいるの?記憶は確か、体の痛みとともに地上に戻った所まである。
マンティがその獅子族の若者を咥えて、水流に逆らって離脱した。水龍に当たった時、私は怪我をして…。それでもアイカやマンティが結界を張ってくれてたから死ななかった。モロに受けたら即死必死だった筈。
ラビは若者を助けに行くマンティを優先的に治療して。プリーストスライムたちはシェリルを治療した。
私は骨折してたけど、それだけだったから。
それで、どうして私だけここに?
『ここにあるのは精神体だ、本体はちゃんと地上におる』
へっ?精神体…?幽体離脱中なの、私は。
『そうだな、今は』
「戻れる?」
がっはっはと笑うスイレン。笑い事じゃ無いよ。
『戻れるから安心せい』
「何で私をここに呼んだの?」
お礼をするだけとは思えない。
『鋭いな、さすがは52才か』
何で…?マジマジとスイレンを見る。
『私は霊獣なのだ。精神年齢が分かる』
「霊獣?聖獣とは違うの?」
『聖獣は種族で決まる。霊獣は元はただの生き物だ』
「スイレンは長生き?」
『そうであるぞ!』
納得かも。人型はまだ10代後半にしか見えないけど。
「で?呼んだ理由…」
スイレンはゆっくり近付いてくると…私を抱えて。
その後のことはなんていうか、起きたことは分かるのに実感がない。精神体だからか、理由は不明だ。
ただ、スイレンの希望は叶えられて…私はスイレンの腕の中で目を瞑った。
こんな事になるなんて…ね。
*****
あの日、ギルドの依頼を受けて漁の手伝いで湖に出ていた。空は晴れていて、湖は穏やかで。
その後にあんなことが起こるなんで想像もしなかった。
それは突然だった。
急に波が高くなり、水柱が立ったと思ったらそこにいたのは龍だった。大きく揺れる船に必死にしがみ付く。
タツキとタフは別の船だ。
それなりに大きな漁船はしかし、波に翻弄されて揺れている。
さらに、水龍はその頭を水面に打ち付ける。何度も、何度も。このままでは転覆する!必死にしがみ付くが、そろそろ限界か?
そんな時、もう一体の水龍が岸から現れた。あれは…魔法?水龍の背中に凛と立つのはシェリルだ。
それが魔女の力。
水龍はぶつかり合う。そして、シェリルの水龍が相手に噛みつこうとしたまさにその時、シェリルの水龍が消えた。違うな、消した。
その少し前に目の端でマンティとシエルを捉えた。
湖に落ちていくシェリルをマンティに乗ったシエルが掴まえた直後、水龍に体当たりをされていた。
そこで乗っていた船はついに沈んだ。
俺は服に空気を溜め込んでいたから、ゆっくりと浮上した。近くにいた漁師を腕にかかえて。俺のジョブはこういう時に有効だ。自分の服を即席の救命胴衣にしたんだ。ギリギリ見える範囲にいたタツキとタフにも同じことをしたから、湖に沈むことはない。
シエルはどうなった?顔が湖から出ると、特大の水柱が立っていた。シエル…?水柱が立ったならその周りは大きな渦で、湖の下に向かう。まさか…?
俺は湖の上で茫然とその様子を見ていた。
俺が掴んだ漁師が今度はその逞しい体に俺を背負い、ぐんぐんと岸に向かって泳いで…やがて船着場にたどり着いた。その頃には湖はかなり穏やかになっていた。
タツキは自力で他の漁師と泳いできた。タフは他の漁師に背負われて、やはり岸に辿り着いた。
地上に上がったところで
「あっ…」
誰かが指差す。そこには背中にシエルとシェリルを乗せて、口に知らない誰かを咥えたマンティが飛んでいた。
翼は傷付いていたが、確かにこちらに向かって飛んで来て…地上に降り立つと背中からシエルたちを、口に咥えた若者を話す離すと力尽きて横たわった。
俺は横たわるシエルを見ている。不思議と体は濡れていない。ぐったりと力の抜けた体は青白く、投げ出された手が痛々しい。変な方向に折れ曲がった足からは血が流れ出していた。
どうして?
その手を握る。冷たい…。そばでは蹲るタフがいた。タツキはただ茫然としている。
サナエもしゃがみ込んでただ、横たわったシエルを見つめている。
シエルの横には同じく、横たわったマンティ。
「お師匠様!」
シェリルの元にはマウイがいて、叫ぶ。
何でこんな事に…?
その後はやはり年の功か、タフとタツキがシエルとシェリル、知らない若者を借りている家に運び込んだ。マンティは自力で立ち上がった。家に着く頃にはシエルとシェリルのケガは治っていた。マンティのケガもそこまで酷くなかったのか、ラビやスライムたちが治療したのだろう。
だからケガは大丈夫。なのに、シエルは目を覚まさなかった。念の為、神官にも見て貰ったが、ケガは治っているし体は大丈夫と言われた。
シェリルは翌日には目を覚ましたのに、シエルは目を覚まさない。ただ、青白い顔で眠っている。
俺はあの若者の世話を買って出た。彼が原因だと分かるから。許せない気持ちで、責めるつもりで。なのに、彼は悪い人に見えなかった。揺らぐ気持ちに混乱している。
ようやく、彼が体を起こせる様になりみんなと会うことになった。
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