114.水難
体を動かしたいなぁ、言った。確かに言った。でも、だからと言ってこれはないよね?
深く深くため息を吐いた、なんでこうなった…と。
私は今、借りている家の庭にいる。隣にはマンティ、チョコ、カーリス、ブルワもいる。頭の上には師匠、足元にはアイカ、肩の上にはラビ。
湖は大荒れで、漁に出ていた船は荒れ狂う波に、まるで木の葉のように翻弄されている。
湖が大荒れの原因、それは湖の中ほどにいる水龍だ。一見するとリバイアサンに似てるけど、体表の色が違う。
水龍は水色、リバイアサンは青。
大きさは同じくらいかな?約20mくらい。とても大きい。
その水龍が体を湖から出して、頭を水面に打ち付けている。その度に水が跳ねて波が起こる。時々、水柱まで。
でもなんていうか、強烈な違和感を感じた。うまく言葉には出来ないけど。
でも、しばらく続くその行動は収まる気配がない。波に翻弄される船は大丈夫だろうか?漁に出たタツキたちが心配だ。
だからと言って何が出来るかって話だ。
目の端に何かが映った、と
バッシャーンッ
一際大きな音がして、遂に水柱が円形に立ち上り…船が沈んだ。
えっ…?
タツキ、レイキ、タフ…?
何で?嫌だよ…
シャラン
これは…
シャラン
(大丈夫…)
シェリル…?
目の端に映ったのはシェリルだった。水龍の頭に立ったシェリル。あれは…魔法?実態のない水龍を操って湖に向かって行く。
シェリル、ダメ…行かないで!
それは単なる勘、でも間違いない。
『行くぞ!』
マンティが私を咥えて背中に放り投げる。アイカも乗り込んでマンティが飛んだ。
シェリルの水龍と本物の水龍が激突する。凛としたシェリルは幻の水龍を操って水龍に噛み付いた。苦しんで暴れる水龍。そして、まるでスローモーションのようにシェリルの水龍が消えた。いや、違う消した。やっぱりか…。
驚きに目を開き、でも諦めたみたいに目を瞑るシェリル。私はマンティに乗ってシェリルに向かった。
俺は横たわるシエルを見ている。不思議と体は濡れていない。ぐったりと力の抜けた体は青白く、投げ出された手が痛々しい。変な方向に折れ曲がった足からは血が流れ出していた。
どうして?
その手を握る。冷たい…。そばでは蹲るタフがいた。タツキはただ茫然としている。
サナエもしゃがみ込んでただ、横たわったシエルを見つめている。
シエルの横には同じく、横たわったマンティ。そのマンティが背中から降ろしたシェリル。
「お師匠様!」
シェリルの元にはマウイがいて、叫ぶ。
何でこんな事に…?
*****
私はこのヤールカ国の第五王子として生まれた。
代々の王は獅子族から排出される。大臣たちは種族ごとに持ち回りだが、王族だけは獅子族と決まっている。
王には7人の妃がいて、18人の子供がいる。僕は第五王子で、10番目の子供だった。
妃には序列がある。当然だが正妃が1番、そこから第2妃、第3…で第7。僕は第7妃が産んだ第一子で、第5王子。順番的にも、政治的にも力がない王子だ。
離宮も庶民よりはマシだけど、その程度。食うには困らないが、お金が有り余ってもいない。
獣人にしては多い魔力、それだけ。獅子族にしては小柄で突出して強くもない。それが俺だ。
たいした脅威ではないものの、王子というだけで敵視され易い。だから無害であるように装って生きて来た。
王族として王宮に残るのは難しいから、16才で成人したらどこかの貴族に当てがわれるわだろう。
獅子族の男子は人気があるから。
後一年で成人するという時、僕は攫われた。攫われて何か、薬を飲まされて…そこから記憶がない。
ただ、体が熱くて苦しい。暴れ回りたくなる衝動。抑えられるようなものでもなく、気持ちを落ち着けてもその衝動は圧倒的で抗うことが出来なかった。
でも、本能では分かっていた。とても危険だと。なのに、自分の体なのに自分のものじゃない。そんな曖昧な感覚で、なのに衝動だけは抑えられない。
だから心のまま暴れた。暴れたらこの衝動が収まる気がして。
苦しい、辛い、そんなやるせなさをぶつける様に。暴れて暴れて…目の前に美しい魔女が見えた。
やられる…それも仕方ないか。力を抜くと魔女が目を開き、そして落ちて行った。助けなきゃ…でもどうやって?暴れ回りたい衝動はまだ身の内にあってこのままでは潰してしまう。焦っても体は制御出来ず…。
あぁ…嫌だ!誰か、誰か助けて…。
う、ん…。体が怠い。ゆっくりと全身が覚醒するのを待って目を開ける。眩しい、な。ここは天国か地獄か。
私は死んだのだな。せめて美しい魔女が助かっていたらいいのに。
「気が付いたか?」
声を掛けられた。えっ?私に、か。顔を動かせば黒髪の青年が私の顔を覗き込んでいる。
目をパチパチする。
「聞こえてないのか?」
やっぱり私に話しかけてるのか?
「き、聞こえてる」
私の手首に指を添えて
「気分はどうだ?」
気分は、悪くない。あの暴れ回りたい衝動はきれいに消えていた。
「悪く、ない」
そうかと呟いて手が離れた。
「私は…?」
青年は一瞬、苦しそうな顔をしてすぐに無表情に戻った。
「今は休め…」
「し、しかし…。あ、あの魔女は?」
私を見ると首を振った。あ…私が殺したのか。
魔女は私に気がつくと咄嗟に自分の水龍を消した。あのままでは私が傷付くと分かったから。なら私のせいだ。
青年は毛布を整えると静かに部屋を出て行った。
しばらくは例の青年だけが部屋に来て、必要なことをしてくれた。殆ど喋らない彼はレイキと名前を教えてくれた。何も分からないまま、時間が過ぎて私は順調に回復して起き上がれるまでになった。
「外に出たいか?」
頷けば手を差し出してくれる。着替えを手伝って貰って部屋の外に出た。
廊下を進むとそこは居間で、何人か座っていた。
私を見てみんなが苦しそうな顔をする。
エルフらしき男性が私を見て
「獅子族…王族だな?」
頷く。
「何があった?」
私は自分の身に起きたことを話す。分からないことがばかりだが、起きたことなら話せる。
全て聞き終わると
「その薬は?」
首を振る。
「何が…?」
私が聞くべきか分からないけど、聞かなければと思う。
そしてエルフから語られたのは衝撃の事実だった。
なんてことだ…私は、私の為に。
ただ茫然とした。
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