112.シェリルの独り言
私はサーラヤからマイヤーに向けて荷物を運んでいた。宿場町ではお馴染みの宿に泊まり、広場で店を広げた。旅人や普段店に来ない客層の掘り起こしの為だ。
私はそれなりに目立つから、気に入って上客になってくれたらいいな、なんて思って。
魔女としての仕事は順調で、でも少し退屈。変なおっさんとか厚化粧のおばさんに絡まれるのも面倒だし。
魔法書が売れたら嬉しいけど、なかなか難しい。高いものだからね。
魔法書は魔女の秘伝で、自分で作っている。
小さな頃から魔法が得意で、必然的に魔女になったけど。魔女と呼ばれるのはあまり好きじゃ無い。だってね?なんか変な感じだから。
「シェリルはきれいだから…色々気を付けて」
母様に言われた言葉。力をつけないと自分を守れないから、必要に駆られて魔女になった。
そうすれば襲われることもないからね。
広場で店を開くと人が足を止める。もっとも品物より私自身に興味があるみたいだ。そんな時、魔法書を見つめる子がいた。私自身より売り物を見る子は珍しい。子供なら尚更だ。
魔法書だと言えば目を輝かせる。でも、値段を聞いて諦めた気配。値段が高いと言う人は顔を顰める。でもフードに隠れて顔は見えないけど、多分、諦めたのはそのお金をここで払うこと。
見えない筈なのに、その感情は良く分かる。
だからまたサーラヤに戻ると伝えたら驚いていた。
名前を聞いても答えたのは後ろの男。保護者か?凄く気になる。
翌朝、日課の散歩に行けばその子が川に入っていた。なびく風にフードを外す彼女はとてもきれいな銀髪だった。ふわりと広がる髪の毛は陽の光でキラキラと輝く。その横顔は儚くて、遠くを見つめる姿は陽の光に溶けてしまいそうだった。思わず
「きれい…」
そう呟いて彼女のそばに行くと跪いてその手を取った。
「私の女神…」
手の甲に口付ける。なんて小さな手。
見つめあってその細い腕に私の腕輪を嵌めた。唇に指を当て名前を聞く。
「シエル」
不思議な声は心地よくて、また聴きたくなる。
「シェリル」
と言えば知ってるとばかりにシェリルさんと呼ばれた。それではダメ。
「シェリル」
重ねて言えば
「シェリル」
耳心地良い声で…。守護の契約は成立したよ。私の力で君を守ろう。
守護の契約は私にとっても代償が大きい。だから高額だし、そもそも頼まれたってやらない。私の魔力を捧げる行為だから。でも、シエルになら…そう思った。
それは魔女の勘。この子は守らなくてはならない子。何より私が人に興味を持つ。それは珍しい。
この顔のせいで人との関わりは煩わしさしかない。マウリは末の弟。じゃなきゃ一緒に暮らせない。
シエルは私を、私自身を見ている。顔のきれいさとか仕草、体じゃなく。私自身に価値を見出している。そばにはエルフの血を引く保護者がいて。その彼も儚げないい男だ。それでも彼の容姿に揺らがない。
面白い。早くまた会いたくて、だから急いでマイヤーに向かい爆速で帰って来た。馬の体力が許す範囲で。
そしたら守護の魔力が私を呼んだ。探しに行くと、すでに色々とね?もう1人の女の子も面白い。
保護者が男らを捕えてる間にシエルを抱き上げる。良かった、傷つけはしないけど心配だから。
彼女を攫ったのは冒険者ギルドの奴らだ。あそこのギルマスは人間嫌いだから。バカな奴だ。
そして私はそのまま彼女と旅をすることにした。サーラヤの店はたたんで。
私の客は各地にいるから、店を構えてなくても大丈夫。
彼女との旅は本当に楽しい。連結した馬車にライオンのふりをしたマンティコア。特殊な個体の黒馬に結界を張る蜘蛛と鳥。
御さないで進む馬車。面白すぎる。
お昼ご飯はシエルが簡単そうに作った魚や野菜、お肉の蒸し物。私は自慢じゃないけど料理は全く出来ない。
蒸した魚はぷりりとしていて、口に入れたらホロリと溶けた。味付けは素朴なのに素材自体の味が際立つ。
あまりの美味しさについ、本性が出てしまった。
私は本来、とても話し好きだ。ただ、イメージが大事だからと普段は無口なフリをしている。
なのに、ついね?あまりの美味しさにシエルに向かって捲し立ててしまった。
嫌われちゃったかなって思ったけど、全くそんな事はなく。そう言えば笑うとイメージが崩れるからと無表情になるクセがついていた。でも無意識に笑ってしまった。
シエルは驚いていたけど、それは好意的な感じ。
やっぱり私を私として見てくれる。気持ちがとても高揚した。
旅の中で雨に降られ、魔法で土壁を作ったらシエルが一生懸命褒めてくれた。凄く嬉しかった。だって大好きって言ってくれたから。
その気持ちは人としてのもので、それがまた心地良かった。恋人とかそういう相手として見られるより価値がある。そう思ったから。
背中を流してあげるって言ったら保護者に即全否定されたよ。ほんの少し、私の気持ちを晒しただけなんだけどな。どうしよう、本気で好きになってしまいそうだ。
シビル・レイに付いてからは少しのんびりしていた。お金には困ってないからね。やっぱり部屋にこもってたシエルが出て来て
「これ…腕輪のお礼」
そんなつもりは無かったけど、その気持ちが嬉しい。恥ずかしそうに渡してくれた可愛い袋。リボンを解いて中身を取り出すと、手触りが良くてひんやりする布?
えっ、これは…スカーフ。
パオ族の伝統的な衣装で、頭から被る薄衣だ。先端には小さな魔石を配置する魔力布。頭を守る。
シエルが作ってくれたスカーフは淡い紫で、先端には透明な飾り。凄くきれいだ。しかも冷たい魔力布。
お礼を言って抱きしめる。ありがとう、とかきれいとかそんな言葉しか出てこない。私の為に作られたそれは、シエルの想いが魔力としてこもっていた。
単なる飾りではなく、私のお守り。あぁ、なんて嬉しいんだろう。
私は魔力布を作る側で、渡した人がどんな気持ちだったのか知らなかった。こんな気持ちだったのか。なんて嬉しいのだろう。
しかも先端の飾りは魔魚の鱗。パオ族に取っては宝物だ。それにシエルの魔力がこもっている。嬉しくて使えない、そう言えば使って?と言われた。
どうしよう?ほんの出来心だったのに…深みにハマりそうだ。
さらに、スカーフ留めまで。鎖がシャランとしてとても上品だ。ピアスまである。しかも長さ違い。とってもオシャレだ。私の耳に触れるシエルの手が心地良い。
また抱きしめて頬を撫でるとそこにキスをした。柔らかな頬にすべすべの白いお肌。たまらなく可愛い。
膝に抱き上げると腕に抱いてソファに横になった。少し眠って…可愛い子。
まつ毛が揺れて目を瞑ったシエルは、やがて寝息を立て始めた。すぐ寝ちゃうくらい集中して作ったんだね。
繊細な加工は細やかで、丁寧な仕事ぶり。一つ一つ、鱗を加工して。その小さな手から作り出されたんだね。
頭にキスをして、そっとその唇に触れた。ごく軽く、重ねるだけの淡いキスをする。
そうしないと色々止まらなくなりそうだから。無防備な姿はかえって自制に繋がる。嫌われたくないからね。耳元で鱗がシャラリと音を立てた。
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