108.次の町へ2
見渡す限りの草原を進む馬車。例の荷馬車と馬車を連結したアレだ。
そしてもう一台、普通の荷馬車。御者台には若者。
裾の長い軽やかな衣に腰には青いサッシュ、頭から透ける薄衣を被っている。その布の先端には等間隔に小さな石が付いている。
ムスリムの女性が被るヒジャブみたいだ。
浅黒い艶やかな肌に黒い髪、青い目。砂漠の民って見た目の少年。長いまつ毛が印象的なエキゾチックイケメンだ。
どことなくシェリルに似ている面差し。
彼らは獣人ではない。多種多様な民族がいるヤールカ。彼らは遊牧民であるパオ。そういう名前の種族らしい。
特徴的な服装と見た目。あちらの世界だと中東の国を思い出す。
何故彼らが一緒なのか、今もって謎だ。
「私はシエルと共にあろう!」
謎の宣言をされた。意味が分からない。シェリルはその魅力的な目でレイキを流し見した。
興味は私とレイキ、次いでタツキとサナエ、そしてバーキンかな。
タフのことは知っているのか、あまり興味を示さない。見てるだけなら眼福だし、静かな人だからあまり問題もないけどね。
お昼になったからいつものように街道から外れて馬車を止める。
サーラヤから次の町へは立派な街道が整備されている。そこを行きかうのは商人と冒険者。観光の人はほぼいない。異様な馬車に不思議なメンバー。やっぱり二度見三度見される。
ここまでの私はタフとチョコに相乗りしていた。
タツキはブルワに、サナエは御者台に、バーキンは鹿毛の馬、メープルに乗っていた。
私たちの馬車を引くのはカーリスだ。レイキは荷馬車に寝転んでいて、馬車が止まると降りてきた。
シェリルは荷馬車に膝を立てて遠くを見ている。ただ遠くを見ているだけなのに絵になる不思議。
タフに抱えられてチョコから降りる。
さて、シェリルを見る。お昼ご飯はどうするか。
私を見るとへにょりと笑った。相変わらずのギャップ萌えだ。まだお昼は食べてないけどご馳走様。
思わず拝めば
(くはっ、おい…やめろ)
レイキは安定の吹き出しだ。
「お昼ご飯はいつもどうしてるんだい?」
シェリルが私たちを見ながら聞く。
「時間に余裕があれば作るし、急ぐときは行動食だ」
タツキが答える。目が輝いてるね、まぁシェリルは美人だから。
なんとなくみんなの分を作る感じかな。
パオ族はヤールカでも南の方に住んでいる遊牧民族。獣人ではないけど、暑さに強い馬を引いて羊やヤギと共に移動しながら生活をしている。
だから身軽で、動物との相性がいい。
たくさんいる私たちの従魔ともすっかり仲良しだ。あーちゃんはごはんの用意をする私から離れてシェリルにしっぽを振る。
変わり身の早さは流石だ。シェリルもあーちゃんを抱き上げてその体を撫でている。
悔しいけど絵になる。シェリルは背が高いから。だいたいレイキと同じくらい。羨ましい。
「シーちゃん。お魚食べたい」
タフのリクエスト。もっともマンティは圧倒的に肉派だから肉料理も作るんだけどね。
面倒なので、洗った大きな葉っぱに白身魚の切り身をドンと乗せて塩とオリーブオイルにバジル、しょうが。塩と胡椒を少々。
それを丁寧に包んで細長い葉っぱで結んで蒸し焼きにする。
かまどはレイキが張り切って(シェリルにいいところを見せたくて)作った。網を載せて葉っぱに包んだ魚を載せる。
同じ要領でお肉とお野菜、きのことタケノコ(マイヤーで買った)も網に乗せる。
調味料は少しずつ変えてみたよ!
いい匂いが漂ってくるとマンティがお座りで私のそばに。しっぽふりふりのあーちゃんを抱えてシェリルにマウイ(弟子の少年)まで網の上をガン見だ。
そろそろかな?
試しにお魚の葉っぱを開けてみる。うん、いい感じ。そばで口を開けているマンティの口に放り込む。
『美味い!』
「好きなの取って食べてね!」
テーブルの上には各種調味料。オリーブオイルと塩、ガーリックソルト、柑橘系の果物の皮を乾燥させたもの、などなど。
ソースとお醤油(似たものがリーブラン商会で売っていた)もあるよ!
あーちゃんやリリ、姫たちには葉っぱを外してお皿へ。
こんもりと盛ってね。さて、私も食べよう。まずはお魚。うーん、ふんわりだ。水分が逃げないからプリプリでふわふわ。
お次は野菜。ほくっ美味しい!野菜って蒸すと甘くなるよね。お塩と胡椒だけでとてつも無く美味しい。
筍…サクッとな。シャキシャキだ。止まらないな。
ふぅ、食べた!
向かいで黙々と食べていたシェリルとマウイ。細い体からは想像出来ないくらいパクパク食べてた。
食べ終わると優雅にナプキン(自前)で口元を拭うと素早く私の前にやって来て
「美味しかった!シエルあの魚は…」
捲し立てられた。静かだった筈が、怒涛の賛辞。止まることを知らない。早口でとうとうといかに食事が美味しく素晴らしいかを話し続けた。
ちなみに今は馬車の荷台。食べ終わって馬車に乗っても、まだ私の隣で喋っているシェリル。マウイに目を向けたら首を振られた。
なんだろう、踏んではいけない虎の尾をピンヒールで踏み抜いた気分。タツキはシェリルのそばで微笑ましそうに見てるけど…止めて?
レイキは御者台で笑いを堪えてるし、珍しくサナエもドン引きだ。
黙ってたら傾国の美女なのにね?萌えないギャップだ。余りの勢いに流石に疲れてタツキに寄りかかって目を瞑った。
まだ喋ってるシェリル。
よし、これはお経だと思えばいい。有り難い教えだ!多分、きっと。
(ぐはっ…それは無い)
(有り難い…か?)
サナエの呟きが疑問系。おわた、色々とおわた。
おやすみなさい…。
ちょうど馬車が止まる少し前に目を覚ました。完全に寝てた。タツキの膝に頭を乗せて。
見上げればおとんなタツキの顔だ。
「疲れたか?」
頷く。主に精神がね。
穏やかに私を見つめる美女。静かだったのに…食事が絡むと残念なのか?
遠い目をしてしまったのは仕方ないと思う。
本日は野営なり。
この街道は主要なんだけど、北回りは南回りより人が少ない。
だから町も点在するだけで少な目。必然的に野営が多くなる。そうすると、お風呂の問題が出てくる。私たちはレイキ作のお風呂がある。あるけど、お披露目するのはちょっと問題。
野営地はノースナリスに向かう際にも使った野営場。
結界石があるので、魔獣はある程度弾ける。でも見張りは必要。
到着したのは夕方4時。まだ陽は沈んでいないから、サッサとテントを建てる。かまどもレイキに作ってもらう。
「タフ、お風呂とかどうしたらいいの?シェリルも一緒に入れば大丈夫?やめた方がいい?」
「一緒に入るのはダメだな」
やっぱりか。ん?一緒じゃなきゃいいのか?
「えっと…お風呂は解禁しても良き?」
「それは良きだ!一緒に入るのは絶対にダメだぞ?安全面もあるからサナエとならいい」
別に構わないのにね?
(レイキーお風呂オッケーだって!)
(分かった)
テーブルや椅子をだして座ると、緑茶を淹れて飲む。お湯?魔法でちゃちゃっとね。タフとバーキンも近くにテーブルを出して座っている。飲み物はあげないよ?自分たちだけでお茶を飲んで、サーラヤで買ったクッキーを摘む。凄く甘いから緑茶が美味しい。
シェリルとマウリも隣にテーブルを出してマウリが甲斐甲斐しく世話をする。彼らは紅茶。摘むのは落雁みたいなお菓子。ポリポリと音がする。
仕草はきれいなんだけど、ポロポロこぼしてる。
もしかして、いやもしかしなくても…生活力マイナスなのかな。
(ごふっ…)
(マイナス…)
レイキの吹き出しとサナエの呟きも常備だね!
マウリは座らずにお世話をしている。若いなぁ。のほほんと眺めていたら目があった。と思ったら逸らされた。
あれ、嫌われてる?
フイと顔を背ける。フード被ってるしね…私のことは見えてない筈。頭に鳥が乗ってる時点で引かれても仕方ない。
夕飯どうしようかなぁ。
あんな簡単な昼食で感動されたら…困るよね。
「食事は各自だから大丈夫」
タフが言ってくれた。まぁね、ハラルみたいな食べられないものがあるかもだし?それが良さそうだ。
うーん…どうしよう。
時間もあるし、チラッとタフを見る。期待してるな。ならばやるかね。
今の所は他に人もいないし。もう少し休んだら下拵えだ。
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