106.金縛り
部屋のドアが開いたのが分かった。
誰?分からないのに体が動かない。体は覚醒してるのに。部屋に入った人はベットのそばにしゃがんで私を見下ろしている。
それが分かるのに、やっぱり体は動かない。金縛りだ。怖い…誰?
動く気配がする。体を硬くして(動けないけど)いると、私の顔にかかった髪の毛を優しく耳にかける。そっと髪を梳いて手が離れた。
おでこに柔らかなものが触れて
「やっと見つけたよ、私の…」
頬を撫でて部屋を出て行く気配。誰だったの…?そのまま意識は深く沈んで行った。
目が覚めると背後から抱きしめられていた。
はぁ?
その手はしなやかなのに、たくさんのタコがあった。
「おはようシエル」
ため息を吐いて
「おはようバーキン。いつ?」
「ふふっ夜中…」
部屋に鍵を付けよう。全く昨日は千客万来だな。
体を起こして伸びをする。あーちゃんのお尻を撫でりなでり。今日も良きもふもふだ。
ラビのふわふわを堪能してベットから立ち上がる。
「いつまで人のベットで寝てるの?」
振り返ればバーキンは裸だった。
「キャー!」
タツキとレイキが飛んで来た。
「「シエル!」」
ベットでヘラヘラしてるバーキンを見てタツキは毛布を剥いで(下着はかろうじて付けてた)ベットから放り出した。
レイキは私を抱きしめる。
全く、油断も隙も…。
朝食の席に座ったみんなはバーキンを睨んでいる。
「おはよー!そんなに見つめられると…」
(反省してないな…)
(いっそ潔いな)
(1番問題ありそうで、問題さそうなシエルにいく辺りがな)
(それな…)
サナエだと本気で犯罪だし、レイキはまぁアリだしタツキもギリオッケー。
全く小賢しい。
でも意外とタフは平気な顔だ。
「シーちゃんに手を出したら翌朝は君の息子は生きてないから」
にこやかに爆弾発言。
バーキンが股を押さえたのは見えてないよ?
朝食を食べ終えると(バーキンは堅パン一切れだけ)タツキがみんなに
「そろそろ出るか?」
「そうだな、俺はシェリルさんに再会したかったけど…仕方ない」
「あ…」
タツキとレイキが目を合わせた。
タフとバーキンは
「俺はいつでも」
「俺も!」
となった。
「明日、出発だ」
そう決めて各自今日は自由行動。
私はレイノルドにに頼まれていたアクセサリーを作ると決めて家に籠った。
籠ったのに…安全な筈なのに、なんでこうなった?
*****
俺は体を動かしたくて、町を出て1時間ほど離れた森で魔獣を狩って、少しのんびりしてから昼過ぎに町に戻った。森の匂いは心を落ち着かせてくれる。
明日、サーラヤを出ることに決めたから一応、冒険者ギルドのギルマスに蹴りの一つでもお見舞いしようとギルドを訪れた。
ギルマスは何故か余裕のある顔で
「離れていいのか?くくっおまえの大切なあの子。今頃どうしてるかなぁ?」
ニヤニヤと笑った。俺は力を抑えず本気で魔力を溢れ出させる。
ニヤニヤしたまま青ざめた。その顔面を殴ると腹に蹴りを入れて部屋を出た。
「あの子に手を出したら殺す!」
明確な殺意を撒き散らして。
急いで借りていた家に帰ると、管理人が倒れていた。家の鍵は空いている。中に入ると気配がしない。
シーちゃんの部屋は誰もいなくて、散乱した道具が何かを物語る。
「シーちゃん…」
キャンキャンとベッドの下から出てきたのはあーちゃんだ。俺に足に纏わりつく。何かを訴えている。あーちゃんを抱えて居間に戻る。
帰って来たタツキとレイキ、バーキンも青ざめた。サナエは家にいたのか出かけたのか分からない。分からないが、夕方になっても戻らないなら多分、シエルと同じだ。
シーちゃん…。
そこに人が尋ねて来た。
タツキがドアを開けると、そこにいたのは…。
*****
ヤバい、アイツはヤバい。
やると言ったらやるんだろう。そう思わせる暴力的な魔力を撒き散らして帰って行った。
急いで伝令を走らせる。
―死にたくなければ今すぐ人質を解放しろ―
と。これがバレたら…。いや、大丈夫だろう。
全く大丈夫じゃないと分かるのは少し先の話。
俺はバサバサという音を捉えて顔を上げる。師匠だ!
俺の頭に止まるとガァガァと鳴く。
シエルが逃したのか。翼で指し示す方向に向かえ、と。あーちゃんも師匠を追いかけて走り出す。
俺は単独で向かおうとして、シャラリという音に振り向いた。
「私も行こう」
頷いて走る。滑るように付いてくる。見てるだけなら優雅なのに、早い。
「君も、ね」
師匠の言う場所は町外れの廃墟だ。なんて分かりやすい場所に。
頷き合うとドアを蹴破った。
時間はお昼前まで遡る。
部屋で作業をしていると、ぷもん…ラビが鳴いた。あーちゃんも外を気にしていて、師匠も羽をばたつかせる。
「!」
サナエの気配が!私は窓を開けて師匠を外に出す。
くわっと鳴いて羽ばたいた。
その後は覚えていない。なんとなく眠くなって担がれたような記憶。ラビが私にしがみ付いて、あーちゃんはベットの下で唸ってた。そんな朧げな記憶。
気がつくと床に寝かされていた。頭は柔らかなものに乗っていて、その状態で様子を伺う。他にも人がいる。1人はサナエ、後2人。
私以外は起き上がっている。私はサナエの膝枕だ。柔らかな感触を楽しむ余裕はない。
誰かが部屋に入って来た。
「いい獲物だ」
「狙いはその子か?」
「あぁ」
「まだ子供じゃないか」
「そうなんだよ、ペタンコでな」
「他の奴で楽しむか」
不穏な会話が聞こえた。
その後はまぁね、よろしくしようとしてサナエにアソコや腕、足先なんかを凍らされて…。ご愁傷様。
改めてサナエのジョブは凄いと思った。
「俺に魔法は効かないぞ!」
リーダーらしき人がドヤって言ってたけどね?サナエのは魔法じゃない。ジョブ。スキルとの大きな違いは、魔力を使うけど魔法じゃないこと。
残念だったね。いやぁやっぱりタツキとサナエは戦闘特化だな、と改めて思ったよ。味方で良かった。
とそこに師匠のダダ漏れな魔力を感じた。それと共にタフの魔力とあーちゃんの匂いも。怒ですね!
ナニを凍らされて倒れている彼らに少しだけ同情した。
だってね、ドアを蹴破ったタフは彼らのナニを強制的に解凍して踵落としたから。
「ぐもっ…」
くぐもった呻き声がこだまする。サナエも
「悪いことするモノは要らないよね?」
いっそ優しい言葉に戦慄した。
シャナリ
誰かに抱き上げられた。
「私の女神…助けに、来た…」
優しく微笑むのはシェリルだ。えっとマイヤーに向かったんじゃ無いの?なんでここに?
「ふふっ夜通し走って戻って来た!」
朗らかにトンデモ発言。
その後は町の兵士に不届者を任せて家に戻った。何故かシェリルさんも一緒に。
腕の中の師匠とあーちゃんを撫でると、嬉しそうに首を上下させた。あーちゃんは頭をすりすり。お手柄だよ!
その日は片付けをして早々に寝た。翌朝出発するからね。事情聴取には応じないと決めた。どうせ握り潰されるなら時間の無駄だし。
町の兵士さんは困った顔をしたけど
「この町が俺たちを排除してるんだろ?信用できない!」
言い切って帰って貰った。その後は知らないよ。
そして、翌日。予定通りにサーラヤを出発した。
で、何故にシェリルがいるの?
「シエルは私の女神だからね?」
意味が分からない。ヤールカの旅は波乱の幕開けだ。
*読んでくださる皆さんにお願いです*
面白い、続きが読みたいと思って貰えましたらいいね、やブックマーク、↓の☆から評価をよろしくお願いします♪
評価は任意ですが…もらえるととっても嬉しいです!
モチベーションになりますのでどうぞよろしくお願いします♪




