102.ヤールカへの旅3
まぁね、青に赤を足せば紫だしね。
って事で水の魔法を魔石に使う。色よー変われーっと。
おぉ、いい感じ。
魔法通信さんが頷くのが見えたよ!多分。
(ぐほっ)
レイキは吹き出しながらも同じように水の魔法を使う。
すると、あら不思議。
魔石の色が紫から青紫へ。完アンド璧!
2人でハイタッチだ。
「いやいやいや、何してんの!」
ん?
「魔石の色を…」
「色を?」
「変えた?」
「「だから何で出来る!」」
「出来たから!」
ふふんと無い胸を張れば、バーキンもタフまで撃沈した。なんで?
レイキと首を傾げながら
「いい色だねー」
「なー」
とご満悦だった。
「夕食の準備をするまで外に出るよ!」
レイキと手を繋いで玄関に向かうと後ろからタフが付いてきた。
「着いてくるの?」
「はぁシーちゃんの監視だよ!何するかわからないから」
心配ないのにね?
「マンティもいるし?」
「だから余計に!」
まいっか。
実は宿場町では広場で簡易な持ち寄り市場が開かれる。宿を紹介してくれた門番さんが言ってた。
だから楽しみでね。
ヤールカからの商人も泊まってるって聞いたし。
町外れのコテージから歩いて15分くらいで広場についた。結構たくさん出てるなぁ。
2人で歩いてると私の頭の上の鳥が気になるのか、ここでも二度見されてる。
私のか弱いメンタルはボロボロだよ…!
(か弱いの意味知ってるか?)
真面目に聞かないでくれる?レイキ君。
そんな中、2人の目が同じものに吸い寄せられた。きれい…これは本?日記…?
足を止めて見ていたら、シャナリと衣ずれの音をさせて私たちを見上げるお姉さん。
顔を見たら驚いた。レイキすら固まっている。長い服は腰で別の布で締められていて、頭から布を被っている。
その中から見える目は切れ長でまつ毛が長くて。薄い水色の目が魅力的だ。
艶やかな黒髪は肩から滑り落ちて、服からのぞく腕が艶かしい。
その腕に嵌った腕輪がシャナリと音を立てた。
細くて高い鼻に薄い唇。足元はサンダルで細い足首にはアンクレット。
少し浅黒い肌は滑らかで目を引く美人さんだ。フードの奥の私と目が合うとふにゃりと笑った。
あかん、これはあかんやつや。
魅力的過ぎる。痺れたように動けなかった。
「それ、気に入ってくれた?」
想像よりも低い声が聞こえる。心地良い音は周りのざわめきの中でもハッキリと聞こえた。
反射的に頷く。
(レイキ、あれは本なのか聞いて!)
改めてタフとバーキンになるべく喋らないようにと言われたからね。
レイキ!手を強く握ると我に返った。頬が赤い。
「それは、本…なのか?」
長いまつ毛を下に向けてその本を手に取る。
「これは魔法書さ」
魔法書?
顔を上げて私とレイキを見ると
「魔法の使い方の指南書、だね」
なるほど。私には要らないかな。それとも、こちらの常識を知る上では必要なのかな。
タフを振り返る。
「見てもいいか?」
「もちろん」
妖艶に笑って本を差し出す。腕輪がシャナリと音を立てた。
タフは本を捲る。
「!」
「!」
私はレイキの手を強く握る。買わなきゃ。タフを見れば
(せめて値段くらい聞け)
確かに。
「いくらだ?」
「100万ガロン…」
高い、のか。買えるけど、ここでそのお金を出すのは無理だ。仕方ない、諦めよう。
しょんぼりして本を返した。
「私はこれからマイヤーに行って、またサーラヤに戻る。シェリル商会のシェリルって聞けば店の場所は分かるはずだよ」
なんで今は買わないって分かったんだろ。
「ふふっ、腹芸を覚えな。わかりやす過ぎる。でも嫌いじゃないよ、君のことは」
フード被ってて顔はほとんど見えなくて頭に鳥を乗せてても?
「そうだね、フードに隠れてうさぎやスライムがいても…ね」
色々と見えてるらしい。多分、魔力だ。私は抑えてるけどラビや師匠はダダ漏れだからな。
「名前、聞かせて…?」
「グスタフだ」
代わりにタフが答えてくれた。シェリルさんは肩をすくめる。聞きたかったのは多分、私の名前。
店の前を去る時に振り返って手を振った。へにゃりと笑って振りかえしてくれた。ヤバいな、ギャップが凄い。
隣で恋に落ちたレイキを見てしまったよ。
「タフは大丈夫なの?」
「ん?俺はシーちゃん一筋!」
誤魔化された。まぁ不思議な人だし信用できない以上はね、警戒してるんだろう。そう考えるとタフには窮屈な思いをさせてるなぁ。
結局、その日は小さな魔石を幾つか買って帰った。
夕食は手抜きでオークのしゃぶしゃぶ。お鍋は普通の土鍋。こっちに土鍋がないから普通じゃないけど、私たち的には普通のだ。
バーキンが感動してたよ。
ゴマペーストはマイヤーでたくさん買ってたから、ゴマだれを作って食べた。
白菜もあるし、きのことか青菜、ネギを入れたらいい感じに仕上がった。
ご馳走様でした。
明日も朝が早いので、寝ることにした。
目立つから少しでも早く出て目立たないように、だって。ふわぁ、眠い。あーちゃんまふまふしておやすみなさい。
翌朝、早く目が覚めた。タフとは部屋を分けた(部屋が沢山あった)からもぞもぞして起き上がる。
居間に行くとやっぱりタツキは起きていた。
「おはよう」
「おはよう」
「マンティを走らせに散歩!」
手を出せば握ってくれる。
「リリと姫に王子も連れて行くか」
「うん」
嬉しいのか、あーちゃんはしっぽブンブンで玄関で待機中。珍しく鳥さんも羽を広げてる。
外に出る。朝は気持ちいい気候だ。
外の馬房にいたマンティたちを出して歩く。行き先は…マンティが決める。嬉しそうに走り出しては振り返って戻って来る。
そのまま町の外に出ると、しばらく歩いて川に着いた。なるほど、だから師匠が興奮してるのか。
私の手にムササビの赤ちゃんを託して飛んで行った。
水浴びしてる。優雅に泳いで潜って、あ…魚を捕まえた。
おとんなタツキと手を繋いでその光景を見ていた。
「賑やかになったな」
「ねー」
沈黙が落ちる。私たちはずっとこのままでいられる訳じゃないけど、今は今を、目一杯楽しもう。
「タツキ、川に足だけでも入ろうよ!」
「いいな」
靴を脱いでズボンの裾を捲って川に入る。冷たい!
でもそれが心地良い。
流れる水、はしゃぐみんな。明るい日差しにフードを外す。胸いっぱいに空気を吸い込んだ。
「きれい…」
振り返るとシェリルさんがいた。気配は感じてたけどね、我慢出来なかった。
近くに来ると私の手を取って、跪く。そして手の甲に柔らかいものが触れた。
「なんて美しい、私の女神…」
何て?
見上げてくるその目は優しく、魅惑的。でも同性に請われてもね?嬉しいけど。
シャナリを音をさせて手首の腕輪を一つ、私の手首に嵌めた。唇にしーっというように指を当てるとあら不思議。ぴったりになった。
どうしよう。鑑定では守護の腕輪って出た。
「君を守護する腕輪、だよ」
「ありがとう…」
もう取れない気がするから貰っとこ。悪い感じはしないし。
「名前は?」
「シエル」
「シエル…私はシェリル」
知ってるよ?
「?シェリルさん?」
「シェリル」
呼び捨てるまで続く奴かな。
「…シェリル」
腕輪が光った。
唇が、弧を描いて…腕輪にキスを落とす。
立ち上がりながら耳元で
「捕まえた…よ」
私の頬を撫でると服の裾を翻して去って行った。なんだったのかな?
後ろ姿を見送ると
「シエル、彼女は?」
「サーラヤの商人だって。シェリルさん」
「そうか…」
タツキも惚れた感じかね。まぁ魅力的だし分かるかな。意外と背が高くてほっそりとした背中に揺れる髪の毛と頭から被った布。
シャナリ
と気持ちの良い音を残して、去って行った。
『ん?サーラヤの魔女か!良い腕輪だ』
マンティは知ってるの。
『まぁな、ある意味有名だ』
うん、聞かないでおこう。
こうして朝の散歩は終わった。
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