100.ヤールカへの旅
1台の馬車に馬が3頭。いや2頭は普通の馬じゃ無い。馬車を引く馬も普通の馬じゃ無い。額から銀色の立派なツノが生えている。魔獣だ。
しかし、御者台で御者が眠っていても馬車は真っ直ぐに進む。もはや御していない。
艶やかな体毛は黒く光り、立派な体躯も相まって堂々としている。
普通の馬も立派な鹿毛だが、貧相に見えてしまうくらい黒馬は圧倒的な存在感を醸し出す。
居眠りしている御者はまだ若者。黒髪の彼は心地良い馬車の揺れにうとうとしていた。
荷馬車には荷物が積んである。魔獣だ。オークとオークと鹿と狼と…蛇にトード(蛙)、鳥まで。
良く見れば埋もれるようにオーガすらいる。
ごちゃ混ぜの魔獣のそばには少女が犬とウサギと戯れていた。頭にはデンッと鳥が鎮座する。揺れる馬車の上で完璧なバランスで、だ。
しかも馬車の前にはライオン、馬車と並走する牛2頭、牛の後ろにダチョウ。
色々と異様な光景。
しかも、ここはハイランダー王国から西の隣国、ヤールカに向かう主要な街道。
たくさんの商人や冒険者、旅人が行き交う。だから余計に目立つ。目立つのに目立っていないという顔で進んで行く。
みんなに二度見三度見されても気にすることなく、するすると馬車は進んで行った。
そう、もちろんシエルたちの一行だ。
御者はレイキ、シエルは荷台に、そしてグスタフは黒馬に乗り、タツキも黒馬に乗る練習、バーキンも自分の馬に乗る。サナエは馬車の中だ。
私は荷馬車の荷物を見る。いや、荷物なのか…これ。マンティが張り切って捕獲してきた諸々。負けじと(何でやねん!)チョコとブルワが仕留めた諸々。
対抗して獲物を狩る姫。カオスだ。そんなに要らないのに。街道には人も多いし、不用意にカバンに収納も出来ない。
だから困っている。
サナエに凍らせてもらったから、腐ることはないけどね。やっぱり季節的には気になる。
まだ出発して半日も経たないのに。前途多難だ。
タフが居眠り中のレイキに声をかけた。
「休むぞー!」
ビクッとして起き上がる。うん、見てないよ…涎垂らしてたとかは。
(見てんじゃねーか)
だってさ、口元を拭ったのが見えたからさ。
(い、息を殴ったんだ!)
無理がありありだよ、レイキ君。
「ごふっ」
撃沈した。
ここはマイヤーからヤールカの国境の街、サーラヤに向かう街道だ。流石に出発が早かったから同じ方向に進む人は疎ら。マイヤーに進む人もそこまで多くはない。多くはないけどポツポツとはいる。
その度に三度見されるのはちょっと嫌だ。でも仕方ない。馬車だけでも目立つのに、御者は御してなくても馬車は適度は速さで進むし、ライオンに牛、ダチョウ。
荷馬車にはこんもりと小山になった魔獣。
目立たない要素がない。
しかも、タフは悔しいけどイケメンだ。黒馬に乗って銀髪をたなびかせる姿はそれだけで目を引く。
タツキもがっしりとした体で堂々としてるし、レイキはスッキリ系のイケメンだ。
バーキンも線は細いけど整った顔で、目立たない要素が無い。
私は暑い季節なのにフードを被ってるし、頭には鳥が乗ってるし。よく見たら鳥の足元にはムササビの赤ちゃんまで。
密かにため息を吐いた。目立って仕方ないぞ、と。
街道から脇に避けて馬車を止める。
荷台から飛び降りるとお水を出す。これは普通に魔法でね!
まずはお馬さんたち。茹でた野菜も添えて。首元を撫でると気持ち良さそうだ。
暑いだろうから、スライムコーティングした布で背中を拭いてあげる。気持ち良さそうだ。
タフ、タツキ、バーキンも同じように馬の体を拭く。
タツキとレイキはリリと姫、王子にもお水とお野菜。
私はマンティにお水とお肉。
それが済むと荷馬車の幌を活用したなんちゃってタープで日陰を作って、布を敷いて座る。
「暑いなぁ」
バーキンがボヤく。私たちも暑いけど、速乾素材のインナーを着てるからまだマシ。
タツキがサナエに目配せをした。
サナエが
「これ、良かったら使って」
スライムコーティングしたハンカチをバーキンに渡した。
「えっ、うわ…冷たい!」
スライムコーティングはサナエの担当だ。誰でも出来るけど、役割が少ないからと手を挙げたから任せた。
もちろん、やり方は魔法通信で調べたよ?
「これは…もしかしてスライム?」
笑顔のサナエ。バーキンへの警戒感は薄れたかな?彼は仕事柄夜が強いからね。サナエが警戒するのも分かる。
「作ってみたの」
私の周りのスライムを見るバーキン。
「何でそんな貴重なスライムばっかり集めてるの?」
断じて集めてない。
「ぶはっ」
レイキが吹き出した。
実はあの後、レイキとタフと一緒にもう一度あの隠し鉱山に行った。妖精たちが喜んでまた案内してくれたから。そこにいたスライム(前回は寝てたらしい)が仲間と一緒がいいと加わってまた増えた。
誰のスライムってマーブル以外は決まってないけど、首元にいるとつるん、ひやん、ぷるんで気持ちいい。
スライムたちもだいたい誰かしらのそばにいるからね!
でも私の周りの子は何故か個性的な子が多い謎。それを見てレイキもタフも笑いを堪えてたよ。選んだのは私じゃ無いのにね?
だから私が珍しい子を集めてるわけじゃ無いんだよ。
「たまたま、ね」
「ふーん…」
近くの子をなでなでするバーキン。
「首元にいると冷たくて気持ちいいよ」
そっと手に取って首に貼り付けた。
「うわっホントだ!」
ふっバーキンもスライムの虜だね。
休憩を終えるとまた進み始める。今度はバーキンが御者で私が鹿毛の馬、メイプルに乗った。とてもお利口さんで、私が乗る時には屈んでくれた。鬣をなでたらご機嫌でぶるるって。まん丸で大きな目も栗色のバサバサなまつ毛も可愛い。
手綱は握ってるけど、かっぽかっぽと馬車の横を進む。
視線が高くて爽快だね。
…視線が高くてよく見えるね?
マンティが空を飛んで鳥を捕獲するのとか、猪を追いかけ回して狩をするのとか。
しかもその都度こちらをチラ見するのだ。しっぽをゆらゆらさせながら。褒めるしかないよね!
「マンティ凄い!」
(くはっ…張り切って飛んでったぞ!)
いや、だってね?可愛いし。
目の端で大きな鳥さん…見えてないよ!ワイバーンの群れに突っ込んだのとか全く見えてないから!
自分の亜空間に収納して振り返ってドヤってるのも…目があったね。
サムズアップしておいたよ。
お昼休憩でタフがすすっと寄ってきた。
「シーちゃん、魚食いたい」
だろうと思ったよ。まだまだ魔魚があるし、貝とかエビもある。焼くか!
BBQだよーっと。BBAじゃ無いからね!もちろんマイヤーのギルマスでも無い!
(おいっやめろ!)
ふふっレイキの腹筋を鍛えてるんだよ、私は。割れた腹筋…良き。
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