99.待ち人来る
俺は鍛治師だ。なぜ鍛治師なのか、ジョブがそうだったから。それに尽きる。
生産系のジョブは自分のジョブをしていないととにかく体が疼く。鍛治師はその中でも特にそれが顕著だと言われている。
だから鍛治師のジョブが分かると漏れなく鍛治師に弟子入りさせられる。
ただ、結構キツイ。体力などではなく人間関係だ。
鍛治師は気性が荒く、夜に強い。そういわゆる床だ。鍛治をしていると気持ちが昂る、いや違うか…昂らせる。
だから一息つくと体が人を求める。これはもう宿命だ。しかしまだ見習いのうちはそんなこと分からない。分からないのに尻を追いかけ回される。
大抵の弟子たちは先輩にやられる。それも弟子の務め、とか言われて。
しかし幸か不幸か、俺には強力なスキルがあって撃退出来てしまった。不名誉な称号まで付いた。
嫌がらせはされつつも、腕を磨く毎日。
しかし、親方に追い回されて撃退したら工房を追い出された。
まだ半人前の15の頃だ。
それからは裏路地で細々と工房を営んでいた。
そんな時、訪ねてきたのがおじさんだ。彼を看取って、俺がここに工房を構える意味が変わった。そう、いつ来るとも分からない人を待つこと。
しかし、それは思いの外苦痛じゃなかった。
少ないながらも客も来る。表の工房で締め出されたランクの低い冒険者たちだ。
やがてランクが上がれば上客となるのに、表の工房は何も考えていない。だから商売になった。
食うに困らない程度には稼ぎもあったし、夜の相手はその都度。求めてる相手はそこら辺にいるから。
そんな生活を5年ほど続けた21の時、待ち人が来た。しかも、出会えるかも分からなかったおじさんの鍵を握る人まで。
運命だと思った。儚げな年上男性に、一見すると鋭い目付きの年下の若者。
どちらも大好物だ。さらに、彼らこそが待ち人なんて最高過ぎる。
しかも、最高級の素材まで持ち込んで僕に注文をしてくれた。おじさんが出会わせてくれた縁だと感じたんだ。
何より僕を惹きつけたのはあの銀髪の少女。
儚い見た目と違ってしっかりとこちらの意図を汲む観察力。見透かされていそうで、でもそれが心地良い。
抱きたい、と思ったけど断られた。それに彼女に手を出したら周りが黙ってないだろうし。
残念だけど…我慢だ。
もう1人の女性は多分、男性不信かな?目が合わない。いい体をしてるけど、こちらも諦めよう。
大丈夫、僕はどっちも好きだから。
ふふっ楽しみだ。
そうそう、思い出して笑ってしまった。
まさかのリバイアサンとワイバーンのオークションに、表通りの工房は参加出来なかった。
依頼者が締め出したんだって。あまりにも痛快で腹を抱えて笑ったよ!
バカにしてた俺たちに今更擦り寄ってもね?
サンシタなんて営業妨害を何度されたか。まぁ彼は俺が好きで、だから抱きたくて仕方ないんだ。
モテるのも困っちゃうよね?
俺は中途半端に独立してしまったから、正直、鍛治の腕には自信が無かった。真摯に打ち込んだ自覚はあるけど、正直、自分の立ち位置が分からなくて。
だからサンシタに妨害されても言い返せるだけの気力もなく。
食うには困らないけど、ほんの少し空虚に感じてた。それが、たった一言、シエルの
「きれい」
という一言で俺は救われた。
彼女の呟いたきれい、は剣として完成しているという意味だって分かったから。凄く嬉しかった。
彼女はその剣を買ってとても大切に撫でた。あぁ、これが鍛治師の本望なのか。
だから彼女たちのために、全力で注文をこなそうと思ったんだ。ワイバーンなんて貴重な素材、しかも完璧になめされてる逸品。腕がなるよ!
オークションでは頑張ってリバイアサンの皮と爪を手に入れた。コツコツ貯めたお金は使ってしまったけど、シエルたちの注文がはけたら結構な金額になる。
オークションの素材、その一部は世話になった工房の親方に適正価格で販売した。そしてマイヤーを出ることも告げた。
親方は最後に
「育ててやらなくて、悪かった。この素材は大切に使わせてもらう」
そう言うと、メモを渡して来た。
「どこにいくか知らんが、俺の古い知り合いたちだ。近くに行ったら寄ればいい。力になってくれる筈だ」
それは各国のそれこそ有名な工房の、有名な鍛治師の名前だ。
「親方…」
「まだそう呼んでくれるんだな…。精進しろよ!」
俺はしっかりと頭を下げて、工房を後にした。
後腐れなく、親方とちゃんと向き合えたのも、あの素材のお陰だ。公表されてないけど、誰が収めたかなんてもちろん分かる。
ふふっこれからの旅が楽しみだよ?シエル。そして、注文の品も楽しみにしてて。
途中途中で手を動かすからね!君が俺の作ったものを身に付けるのが楽しみだ。
思えば俺はシエルたちに出会って、なんとなく彼らと共にあるんだろうと思っていた。ある時、あのエルフの血を引くお兄さんがやっ来て。
注文の品はいつ出来るって聞いたから、あぁ意外と早いんだなって思ったんだ。
「まだまだかかかるよ?」
と言えば考え込んだ。だから僕は彼の頬を撫でながら
「俺が欲しい?一緒に行くならシエルに気を遣わなくて済むよ」
驚いた顔もいいな。
「いいのか?」
俺に取っては何も問題ない。むしろ連れて行って欲しいくらいだ。
「全く問題ないよ。都合がいいでしょ?まだおじさんの日記も見せてないし?」
「そうだな…俺たちは助かるな、本当にいいのか?せっかくの店なのに」
俺は肩をすくめる。
「構わないさ!どこに行こうがね」
「正直、凄く助かる。夜のこともあるし、何よりシーちゃんたちが凄く楽しみにしてるから」
くすっやっぱりシエルなんだね?
「僕としても、相手を探さなくていいのは助かるかな。シエルが嫌がらなければ」
試すように言えば
「大丈夫だ、そんなことで失うほど浅い関係じゃない」
ふーん、自信あるんだ。
「まぁ俺としてもね。だってシエルといたらきっと楽しい」
「かもな」
牽制されちゃった。あの子の1番は渡さないってか。それでもいい。僕はあの子の何気ない言葉に救われた。そんな子を助けたいって思うのは自然だと思う。
そんなやり取りがあって、迎えに来てくれたグスタフと共に東門で彼らを待つ。僕はあらかた荷物は詰めた。品物はカバンに全部入ったし、小さな炉は馬に引かせてと思ったらグスタフが収納してくれた。
「これで逃げられないぞ!」
逃げる気なんて無いけどね。
馬1頭に荷物を積んで、シエルたちを待つ。なんだろうか、とてもワクワクする。
そして待ちに待った彼らは、やっぱり期待を裏切らなかった。
なんで馬車が連結されてるの?普通の馬車の後ろに、当たり前みたいに荷馬車が付いてる。しかも少し小さ目のが。さらに引いてるのが普通じゃ無い馬。
だって黒馬だ。魔獣だよ?健脚で丈夫。しかも魔法まで使えるんだ。1頭でも貴重なのに3頭も。
大きくて毛艶も良くて。
「凄いな、買ったの?」
と聞けばシエルは明後日の方を見た。ん?タツキを見ると肩をすくめた。何だ?
グスタフを見たら
「シーちゃんが見つけて保護したんだ。みんな痩せて死にかけてたから」
えっ?こんなに艶々なのに?
「ケガしてたりお腹空かせてたり、ね。引き取ったからには美味しい食事と適度な運動で元気溌剌!」
オロナ◯ンCだよー!
(ぐはっ…久しぶりに、来た)
レイキくん、ふふっ油断大敵じゃ!
なんか楽しそうなシエルをみて馬たちもご機嫌に嘶いた。やっぱり期待を裏切らないな。
これからよろしくだよ!
第2章終わりです…
旅は続く
第3章はすぐ始まります
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