98.王都にて2
そうね、やっと治癒師として歩ける。レオンのお陰よ」
「生きて帰れたら、な。まだまだ油断は出来ない」
そう話をしていたらバタバタと人がやって来た。
ここは安全帯という場所。
魔獣が来ないから、冒険者が休むのに使われる場所だ。
そこに5人駆け込んで来た。1人は担がれて。どうやら大怪我をしている。血が流れているので分かる。重症だ。
「ラシック!ラシックしっかりしろ!」
「ノエル、聖力は?」
「ダメだ、使い果たした」
「そんな…」
「ポーションは?」
「初級しか無い」
私たちが見ていることに気がつくと
「君たち、上級ポーションを持ってないか?あれば買う」
首を振る。初級しか持っていない。
「そうか…ラシック、ごめん」
項垂れる冒険者たち。
レオンが私を見て、小さな声で
「どうする?」
と聞いた。何が正解か分からない。
「彼らはしっかりしたパーティーだ」
レオンを見ると頷いた。
私は立ち上がると
「あの、私は治癒師なの」
一斉に見られた。
「治してくれるのか?」
頷く。
「条件付きで、だが」
レオンが横から口を出した。
彼らは怒った顔をした。
「足元を見やがって!」
怒る気持ちもわかる。でも
「俺たちも必死なんだ。荷物持ちとして他のパーティーに参加して置いて行かれた」
彼らは黙ってしまった。
「だから、同行させて欲しい」
どうやら驚いたみたいだ。
「そんな事ならお安い御用だ、もちろん、ラシックが治ればだがな」
私は目を瞑って心を鎮める。彼のケガを思い浮かべながら。目を開けると手を当てて、集中する。血管を縫合、周りの組織を再生そして皮膚を治す。
ゆっくりとじっくりと確実に。また戦えるように。
どれほどか経って歓声が上がった。
「ラシック!」
「やったわ」
「治ったぞ」
「良かった…良かった」
「ふっ心配かけたな」
目を開けると汗を拭う。魔力はまだ大丈夫だ、良かった。
ラシックと呼ばれた人は私を見て
「恩にきる」
首を振る。出来ることをしただけだ。
「生きてここから出してやる!」
頼もしい。
「頼むわよ」
私は笑った、そう、笑えた。
その後は彼らが持ってた食材で簡単にサンドイッチを作って感動された。嬉しかった。私でも誰かの役に立てることが。やっとこの世界に認められた、そう感じた。
その後は彼らと少し話をした。
ラシックさんたちはCランクのパーティーで前衛が2人で剣士とタンク、後衛2人は魔術師と神官、そして索敵や罠の解除のシーカー。バランスのいいパーティーだ。
神官の人はオークの群れに当たって神力を使ってしまい、その後にラシックさんがケガをした。
そこに運良く私がいたという事らしい。
その日は早めに寝て、翌日。
約束通り彼らと共に進んだ。レオンはかなり強い。どうりで足手纏いの私を連れて安全帯まで辿り着けたわけだ。
前衛が3人になり、安定したからか。順調に進む。ケガをしてもすぐに神官のノエルさんが治してガンガン進む。なんなら後衛なのに破壊力抜群のノエルさんは神官らしからぬ筋骨隆々の男性だ。
背中に背負った極太の杖で魔獣を蹴散らす。
なのに治療の腕も相当だ。凄い!私も強くなりたい。そう思った。
こうして無事にダンジョンを出られた。
ラシックさん(パーティーリーダー)は
「なぁ、あんたらフェイクの取り巻きか?」
レオンは
「取り巻きじゃ無いんだが…まぁそんな扱いかもな」
「弱みでも握られてるのか?」
「俺はダンジョンに入りたくて、そしたら声を掛けられただけだ」
ラシックさんは考えて
「なら今のパーティーを抜けるのは問題無いな」
レオンは頷く。
「あんた、ユナだったか。はどうだ?」
「私は…その宿代とか食事代を借りてて…返さないと」
ラシックさんは
「あれだけの腕があるのに?」
「使えなかったの、まともに。生死がかかってやっと…まともに使えて」
ノエルさんが大きく頷いた。
「なるほどな。金の問題だけなら返せばいいんだな」
「多分…」
彼らは目配せすると
「お前たち、俺たちのパーティーに入らないか?ユナはまだEランクだからしばらくは単独でランク上げをしてもらうが」
今度は私とレオンが驚いた。フェイクに使い潰されるよりはいいけど、レオンはともかく私でいいの?
「ユナはきっとこれから伸びる。神官とは神力と魔力で違うが、治療の基本なら教えられるぞ!」
私は驚いた。
「教えてくれるの?」
「もちろんだ!」
ノエルは笑顔で言い切った。
思わず目が潤んだ。こんな私でも、必要としてくれるのね。嬉しかった。
「俺はその話に乗った」
「わ、私も」
ラシックはニヤリと笑うと
「フェイクの件なら任せろ!」
困って他のメンバーを見れば
「任せていいぞ!別に後から恨まれるような事はしない」
「ありがとう、よろしく」
ペコリと頭を下げれば
「強い前衛と治癒師なら歓迎だ!」
揉みくちゃにされた。それがとても嬉しかった。
ラシックのパーティーはBランクのラシックとノエル、Cランクのシーカー、テッドに魔術師のマリアナ、タンクのブリックスだ。マリアナ以外は男性。
ラシック、ノエル、ブリックスはゴツくてテッドは背が高くて細身、マリアナはナイスバディのお姉さんだ。
レオンは肩幅は広いけど腰は細くていわゆる細マッチョ。
年齢はマリアナは秘密♪だそうで、他はラシックとノエルが25テッドが23でブリックスは18。
レオンも18だ。私は鑑定で19と出たからだいぶ若返っている。ブリックスとレオンはまさかの年下だった。
私は若く見えるらしく19と言ったら変な顔をされた。
「どこかいい所のお嬢か?冒険者にしちゃなんていうか、な」
首を振る。
「遠くから出て来て、何も知らないだけよ」
「あー、ありがちかな?にしては田舎くさく無いな」
「両親がね?厳しかったの」
嘘では無い。あちらの世界の話だけど。
「そうか、変に上品振るとフェイクみたいなやつに吸い取られるぞ!」
「気をつけるわ」
町に帰ると彼らが借りているタウンハウスに向かった。その後はマリアナとブリックスが付いてきてくれて、宿の清算をした。お金は借りて、だ。
荷物はブリックスが持ってくれた。もっともカバン一つだけ。
その後、ラシック(呼び捨てにしてと言われた)がどう話をつけたのか、フェイクに会っても絡まれる事はなかった。
パーティーを組んでしばらくすると、王都から北にあるレクイドという町に拠点を移すというパーティーに着いて王都を出た。
その頃には転移から2ヶ月が経とうとしていた。そして私の冒険者ランクはDに上り、正式にパーティーメンバーとなったのだった。
王都を出る時、思わず振り返った。私が追放された王宮が遠くに見えた。私はなんて自分勝手だったんだろう。
無職、星なしなんて使えないと笑って嘲って。
せめて彼らが元気でいてくれることを願った。
「ユナ、置いてくぞ!」
ノエル師匠に呼ばれた。
頼れるラシックに姉御肌のマリアナ、寡黙なテッドにやんちゃなブリックス、そして生死を共にしたレオン。
今は大切な仲間に囲まれて、私はこの世界で生きていく覚悟を決めたのだった。
振り返りながら呟く。
「さようなら、みんな…」
(さようなら、大橋由奈)
新しい旅は始まったばかり。
後少しで第2章終わります
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