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星なし転移者と仲間たち〜逃亡中〜  作者: 綾瀬 律
マイヤーに向けて

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97.王都にて

ユナ視点

 王宮から治癒院へ、そして治癒院も追放されて困ってたところで出会ったイケメン。

 その出会いは恋の予感、そう思っていた。


 本当の地獄が始まるとも知らずに。


 王宮ではそれなりにいい部屋で、使用人も付いていて贅沢な生活をしていた。食事もそれなりのものが出て。

 訓練だって厳しくは無かった。

 でも私だけ魔法が上手く使えなかった。形にならないジョブ、それだけじゃなく生活魔法という簡単な魔法すら覚束なかった。


 賢者のキモ男に媚を売って教えてもらおうとしたのに、私と体を舐めるように見るだけで教えてくれなかった。

「対価がないとな?」

 流石にキモ男に体を許す気にはならず、うだうだしている間に王子は婚約者を決めた。

 何で?僕のレディって言ったのに。

 王子の隣には眩い金髪の優しそうな少女。侯爵家の次女で水魔法の使い手。


 治療系のジョブは最上位が聖女、次いで神官。治癒魔法と水魔法だ。水魔法は体の特に病気を治すのに優れているが、特級クラスの使い手になるとケガも治せる。

 骨折なんかは無理だけど、骨の周りの組織は治療出来るから私みたいに使えない治癒魔法よりは遥かに上だ。

 そして、王子の婚約者はその水魔法の特級だ。


 ジョブにも熟練度に応じてランクがある。

 初級はジョブが発動すること、中級はそれなりに使えること、上級はかなり、そして特級は完璧に使いこなせる。

 私以外のみんなは中級以上使えていた。そんな中での王子の婚約だった。そして、それを機に私は王宮から王都の治癒院に出された。

 ただ、王子になんで私以外の人と婚約したの?と聞いて隣にいた婚約者を睨んだだけなのに。

「私の大切な婚約者を害する碌にジョブも使えない女は王宮から追放する」


 そう言い捨てて。

 少ない荷物だけ持たされて、ほんの僅かなお金と共に。

 あちらから持って来た荷物は預けたまま帰って来なかった。涙が出た。

 紹介された治癒院は粗野な冒険者を相手にしていた。いやらしい目付きで見られたり、口の悪い汚い冒険者の傷を洗わされたり。

「今夜どうだ?いくらでやれる?」

 そんな言葉を投げられてついキレた。

「ふざけないで!そんな安い女じゃないわ」

 と傷口を爪で引っ掻いた。


 そして院長に

「何度も言った通り、彼らは粗野だがケガ人だ。我々治癒院のお得意様なんだ。それをケガした人を傷付けるなんて…」

「だって酷いことを言われたから…」

「反省する気はないんだな」

「私は悪くないわ!」

 そうか、と呟くと

「出てけ」

 私は驚いて

「王宮の紹介なのよ?そんなこと許されるの!」

「気に食わなければ放逐してくれていい、そう書いてあった。そもそも雇う義務はないとも」


 そんな、知らなかった。

 院長は雇わなくてもいい私を雇ってくれてたの?王宮の紹介がある私を疎ましく思って、小言を言ってると思っていたのに。

「雇う義理は無かった。ただ、本気でやるつもりがあるのなら…そう思っていたんだ。全く期待外れだったな。ジョブばかり自慢して使えない奴より、ジョブがなくても気立てが良くて働き者の方がいい」

 扉を閉める前に院長が言った言葉だ。

 私は閉まった扉を呆然と見ていた。


 そして、出会ったイケメン。

 彼は冒険者だった。羽振が良さそうだし、彼について行こう。

 宿を紹介してくれてご飯もご馳走してくれた。

「仕事、ないんだろ?冒険者になりなよ。そしたら一緒にダンジョンに行こう」

 ダンジョン、冒険者。治癒師だから戦闘力はないけど大丈夫かしら?

「私は戦えないわ」

 彼はにっこり笑うと

「ケガを治してくれたらいいよ」


 私は殆ど治癒が出来ないと言えなかった。もう捨てられたく無かったから。

 本当に捨てられたくなければ、真実を伝えるべきだったのに。私はやっぱり間違った。そして、地獄を見ることになる。


 冒険者登録をしてパーティーを組んだ。

 彼らとはランクが違うから組めない。だからCランクがいるDランクのパーティーだ。メンバーは5人。

 私以外は3人が前衛で1人は魔術師なので後衛、もちろん私も後衛。

 イケメンの彼、フェイクはBランクでパーティーもBランク。ダンジョンはCランクパーティーからしか入れないので、私たちは荷物持ちとして同行した。


 荷物持ちはダンジョンに入れるけど実績が入らない。名前の通り重い荷物を持って、ひたすら雑用をする。それだけならまだしも、魔獣の囮にされたりもする。

 ケガも絶えない。

「早く治さないと置いてくよ!」

 朗らかに言われる。

 パーティー仲間からも

「早く治せよ」

 と言われるけど、やっぱりほんの少ししか治らない。


「チッ、ポーションの無駄遣いだ」

 悪態をつかれる。心も体もボロボロで、休みたいとフェイクに訴えると

「宿代も食事代も貸してるんだから、困るよ」

 と言われた。

「奢りじゃなかったの?」

 ニヤリと笑うと

「奢るなんて言ってないだろ」

 言い返す気力もなかった。


 そして遂に仲間が一人大ケガをした。私を庇ってオークの爪でざっくりと胸からお腹まで。

 そのオークはケガした仲間がなんとか討伐したが、フェイクは私たち2人を

「足手纏いだな、ここまでご苦労だったな」

 と言って去って行った。

「待って!置いてかないで」

「コイツのケガをお前が治せばいいだろ?出来ないなら2人で仲良く死ぬしかないなぁ」

 と笑いながら去って行った。

 同じパーティーの3人は引きずられるように振り返りながらもやっぱり去って行った。


「お前も、行け」

 庇ってくれた仲間が言う。私は首を振った。私が不用意に動いたから、私のせいだ。

「ここに残る」

「足手、纏いだ…」

 苦しそうに呟く。こんな時なのに、私のことを。なのに、私は彼のケガすら治せない。悔しい。私に力があれば…彼を救えるのに。

 泣きながら覚悟を決めた。ずっと出来なかった。きっと失敗する。でも、全力で彼を治したい。目を瞑って心を落ち着ける。彼を死なせたくない。


 私は血が止まらないそのケガに手を添えて

「治れ…」

 ケガを治して…そうまずは血を止める。そして筋肉や腱を治す。最後に皮膚を治して…どうか、彼を。どうか…。全身全霊全魔力を使って、どうか…お願い。


 どれくらいそうしていたか…。

「オークが来たぞ!立て」

 力強い声が聞こえた。目を開けると目の前に手を差し出す仲間がいた。ケガは治ったの?!

「ありがとな、治ったぞ」

 私は涙を拭って彼の手を取った。

「魔力は大丈夫か?」

「なんとか」

 少しふらつくけど枯渇したと言うほどではない。

「ならあと少し付き合え」

「望むところよ」


 それでも3匹のオークを1人では厳しくて、なんとか倒したもののまた大怪我をした。だからまた治癒をする。そして今度こそ意識が途絶えた。

 私は死ぬのね…ふふっバカだったわ、私。最後にやっと使えたのに…ふふっ。でも悪くないわ。


 目を覚ました。ここは天国?

 にしては暗いわ。少し頭が重いけど、体は大丈夫そうね。ゆっくりと起き上がる。

 神様とか居ないのかしら?

「目が覚めたか?」

 えっ?声を方を見る。黒髪に黒い目の人、この人は同じパーティー仲間の?

「レオンだ。ケガを治してくれてありがとな」

 あ、そうだ。私、意識が飛んで。

 彼を見れば所々血が滲んでいる。慌てて手を当てて治す。良かった、血が止まって傷が塞がった。


 レオンは驚いて

「もう治癒魔法が使えるのか?」

 ん?使えてるよ。魔力はもう満タンぐらいだし。

「うん。使えるね。魔力も大丈夫」

「そうか…」

 考え込んでしまった。

「あの、私はユナ。助けてくれてありがとう。お礼を言うのは私の方。それと、ごめんなさい。迷惑を掛けて」

 レオンはまた驚いて

「使えない治癒魔法使い、じゃなかったのか?」

「酷い…。まぁ、使えてなかったけどね」


「ちゃんと悪い所が分かったなら、まぁ助けた甲斐もあるな」

 と言った。言い方は素っ気ないけど、自分がケガをしても使えない私を助けてくれた。本当の優しさに触れた気がする。私は、本当に自分のことばっかりだ。

 可哀想な私。そんな自分に酔っていて、本気でジョブを使おうとしなかった。使えない筈よね。

 だってジョブはただのステイタス、お飾りだって思ってたから。

 今日、やっと分かった。足りなかったのは真剣な想い。治したいという気持ち。全く足りてなかった。


「そうね、やっと治癒師として歩ける。レオンのお陰よ」

「生きて帰れたら、な。まだまだ油断は出来ない」

 そう話をしていたらバタバタと人がやって来た。

 ここは安全帯という場所。

 魔獣が来ないから、冒険者が休むのに使われる場所だ。

 そこに5人駆け込んで来た。1人は担がれて。どうやら大怪我をしている。血が流れているので分かる。重症だ。





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