96.ヤールカに向けて
長生き魔法使い…が完結しましたので、投稿時間を12時30分に戻します
目が覚める。タフはもう起きたみたいだ。部屋にタフがいない。伸びをしてあーちゃんを匂いを嗅いでラビのもふもふを堪能。頭の上の鳥さん、師匠はそっとお尻を撫でる。ふかふかだ。
ムササビの子供は師匠がお腹に抱えている。どうやら子育てスイッチが入ったみたいだ。お任せするよ?
起きて服を着替える。腰にはバーキンの店で買ったガチの剣を差して。荷物はポーチ(と繋がった亜空間)に入れてるからね、忘れ物は。大丈夫だ。
居間に入るとタツキが起きていた。
「おはよう」
「おはよう、タフは先に出たぞ?門で待ってるって」
「おはよう、分かった」
想定内だ。
「朝ごはん作るから手伝って」
「おう!」
今日はサンドイッチだ。お昼用にも沢山作ろう。
お魚もお肉もお野菜もたんとある。
いろんなサンドを作って、スープも保温瓶に(こちらのものをレイキがカスタマイズ)詰める。バーキンにはまだ言えない事があるからね。
サナエが起きて来た。バーキンの店で買った胸当てがキツそうだ。私の目線に気が付いて肩を窄める。
私は背後に回って少し調整した。
「どう?」
「ありがとう、丁度いい」
レイキも起きてきたから朝食を食べて出発だ。
「レイキ、髪の毛跳ねてる…」
「諦めた」
トライしたんだね、ご愁傷様。
部屋を見渡して忘れ物がないか確認。タツキが
「行くか!」
頷くと部屋を出た。もっとマイヤーにいたかった気もするけど、仕方ない。
宿で採算をして馬房に寄り、従魔と馬車を引き取って西門に向かう。そこからヤールカの国境までは約3日。
いよいよこの国ともお別れだ。
西門を出たところにタフと、そしてバーキンがいた。馬1頭に荷物を括り付けて。それでもかなり荷物は少ない。きっと彼もおじさんから空間拡張カバンを受け取ったんだろう。もっとも亜空間に繋がっているかは不明だ。
「おはよう、みんな!」
スッキリとした笑顔でバーキンが挨拶をしてきた。
「おはよう」
「「「おはよう」」」
「本当に良かったのか?」
「もちろん!そばにいた方が楽しそうだしね」
路地裏の工房にはさほど思い入れがなかったのか。
「おじさんを訪ねてくる人を待ってたから」
なるほど。それなら納得かも。
「ヤールカに知り合いがいて、出来ればそこにしばらく留まりたい」
「どの辺?」
「帝国に近い場所だ。迂回する湖の北東だね」
「ヤールカの鍛治の町だな」
タフが応える。ならばいいのかな。
「それなら無論だ」
「出発ー」
気の抜けたバーキンの言葉でゆるゆると進み始める。
馬車1台に馬2頭、ダチョウに牛2頭、犬にウサギに蜘蛛、マンティコア、そして水鳥とヒナ沢山。
スライムも沢山。
大所帯だ。
いつの間にか人も2人増えて6人。賑やかになったもんだ。ヤールカではどんな出会いが待ってるんだろうな。
楽しみしかない!言い切ろう。だってまだ旅は始まったばかりなんだから。
まずは目指せヤールカ!
*****
シエルたちがマイヤーを出発する少し前…
サウナリスからミドルナリスを経てノースナリスに帰り着いたレイノルドとライル。
サウナリスで特産となるだろうアイス、そして貝殻を使ったアクセサリーに唇がぷるぷるになるクリーム。
それらを携えてノースナリスの本店に帰還したのだ。
徐々に暑さが厳しくなる頃、アイスはノースナリスで大人気となった。リーブラン商会が食材を提供していたレストランでと考えたが、諸々を考えてレイノルドがノースナリスの支店として小さな店を任された。
その名も「小さなリーブランのお店」(シエル命名)
そこはカラフルな店構えで、女性が好むアクセサリー、ハンカチ(シエルが卸したふわふわの高い方)、石けん(レックス)、そして唇クリームに手クリームだ。
そこは持ち帰りのアイスもオープンテラスを作って提供した。外から見えれば人が集まる作戦だ。
そして、これが大当たり。
一躍、小さなリーブランのお店の名が王都にまで轟いた。
「ライル、やっぱシエルは凄いな」
「あぁ、まさかな。アクセサリーが3日で完売とは」
「マイヤーで追加納品をしてもらって良かった」
「何やら慌ててマイヤーを経ったみたいで…」
「あれかな…」
「…分からんな。当て嵌まらないとも思うし」
「我々は何も知らない」
「もちろん!」
「もしそうだったとしても、全力で守る」
「あぁ」
あれ、とは各町のギルドや領主そして主要な商会宛に届いた王宮からの文書だ。機密となっており、内容は
―黒髪に黒目の4人組(1人は銀髪)を見かけたら要連絡―
だった。たったそれだけ。何をしたとも書いていない。きな臭い。その姿はシエルたち4人にそのままは当てはまらない。髪の色が違う。でも、何となく彼らかなとも思う。だとしたら、彼らは王宮から尋ねられるような何かがあるのか?
この内容を見てまず気がつくの可能性があるのは王都の冒険者、商業、農業ギルドだろう。次はノースナリス、ミドルナリスの各ギルド。
ただ、名前も性別も不明でシエルたちとは人数と2人の髪の色しか合っていない。違うだろう。
念の為、ミドルナリスとノースナリスには探りを入れた。商業、農業ギルドは
「心当たりはございません」
と答えた。冒険者ギルドは「空掛ける翼」のリーダーがそれとなく聞いてくれた。
「知らねーな」
だそうだ。
もしかして、という気持ちもあるが今のところはみんながシエルたちではないと感じている。しかも今の王宮は信用出来ないともっぱらの噂だ。
魔獣の横断の時にも国軍は動いてくれなかった。あれほど長引くと影響が大きいと、冒険者ギルドも商業ギルドも進言したのに、返事すら無かったと聞いた。
我々に取ってより大切なのは何か、余りにも明確だった。
シエル、元気にしてるだろうか?
あとどれくらいか、我々も帝国への進出も視野に入れている。また会えるよな?
あの儚げな顔に細い体が目に浮かぶ。ライルを見ればやはり物思いにふけっている。
余りにも強烈な印象を残して潔く去っていったシエル。
君に似合う男になるよ!
そう心に誓ったレイノルドだった。
*****
私は王都の冒険者ギルドに勤めている。
少し前、ギルマスに呼ばれた。そこで聞かれたのは
「黒髪に黒目の冒険者、うち1人は銀髪らしいが登録してないか?2週間前以降で」
思い当たる人物はいない。
「いや、いないが」
「だよな、急に王宮から機密で至急って文書が来てな」
と何やら紙を放り投げて来た。手に取って読むと
―国にとって重要な人物を探している。黒髪黒目、うち1人は銀髪の4人組に心当たりがあれば、申し出るように―
色々と言いたい。何故重要な人物が行方不明なんだ、とか。何故髪の色や目の色を知ってて名前を知らないのか、とか。
「何だ、これ」
「だろ?」
「あぁ意味不明だ」
「だよなー、だいたいよぉこちらの要求は全無視なのに自分らの要求だけ一方的に言うんだぜ?勝手だろ。今の王宮は信用出来んしな」
「本当にな。魔獣の横断とかインクリスとかな」
「あぁ、軍を派遣してくれは無視だろ、で王宮の奴がゴリ押しして入れたクズな」
あれは酷かった。
リーブラン商会にお勧めと言って紹介したCランクパーティーは魔獣から逃げて他の冒険者にトレインで魔獣を押し付けた。そもそもがその前に2人ケガするとかな。
お陰で依頼者は馬を負傷させ積荷を運べなくなる所だった。魔獣の横断で物資が不足する中で、だ。
結局、魔獣を押し付けられた冒険者が護衛の依頼人を野営地に置いて積荷を次の町まで人力で運んだのだ。
護衛の依頼をだした冒険者はまだEランクで女性が2人もいるパーティーだった。
たまたま知り合ったAランクの冒険者1人に彼らを任せて物資を運んだ商会の人間とBランクの冒険者パーティーは気が気じゃなかっただろう。
あぁ、あの子は元気にしてるだろうか?
野営地で護衛のパーティーの戻りを待っていたのは彼女、シエルたち蒼の氷柱だ。
あの儚い銀髪の少女、不思議な声や惹きつけられる容姿。なのにインクリスをやり込める姿は爽快で。
私に手を振ってくれた姿が忘れられない。
ん?そう言えば彼らは黒髪黒目の子がいたか。でも1人だけだ。他は茶髪と灰色の髪だったな。それに登録したのも1ヶ月以上前だ。
人違いだな。もし、彼らだとして…時期が違うし色も違う。名前だってごく普通だし、銀髪は確かに珍しいがな。同郷らしいし、と頭の隅に追いやった。
ギルマスは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「リーブランの本店から厳重な抗議があったぞ。あれは参った。で、紹介者の…なんだ」
「ブダペスト伯爵」
「そうそれ、ブタな…」
省略し過ぎだろと思ったが確かに豚みたいな顔だし体型だ。
「そのブタに投げておいた。あなたのお勧めさんがやらかしましたよってな」
今度は私が苦笑する。
「人死が出てたらあの女もブタ伯爵もな、商会を敵に回すとな。生きていけないからな」
「確かにな。商会は横のつながりがな。商業ギルドも絡むからな」
「あちらも命拾いしたな」
そんな会話がされていた。
会話の主はシエルに優しくしてくれた鋭い目付きのお兄さん、ことジアンだった。
王都からサウナリスまで3週間弱
サウナリスに5日滞在
サウナリスからマイヤーまで2週間
マイヤーに7日滞在
マイヤー出発は転移からおよそ1ヶ月半くらい
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