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陰陽師と葬儀屋  作者: 樋口快晴
鈴の付喪神と葬儀屋
6/11

6話

 「妖力を持った鈴の付喪神(つくもがみ)?」


 夕飯を食べ終えた私は、早速湖夏(こなつ)さんに新しい仕事の相談をしていた。


 「あのね、言っておくけれど私も全能じゃないのだから、相手によっては(みさき)を守り切れないことだってあるのよ」


 「うん。だから、これは出来ればの話」


 「それに、最悪の事態を想定しておくのは必要な事だから」


 「……そうね、分かったわ」


 「納得してくれたのなら、神葬儀式(しんそうぎしき)の段取りを決めていこう」


 神葬儀式を行うにあたって、今回の儀式において最も重要なのは前の保管者の存在。もし、鈴の方が何か想いを残しているのなら、それを晴らすのが最重要項目である。未練を残したまま見送るなんて、葬儀屋としてあってはならないことだからだ。それに、一番の難問だった前の保管者の特定も陰陽連(おんみょうれん)の協力によって済んでいるから、後は実際に協力を要請するだけだ。


 「必要になる道具は道具屋に依頼してるから、清めの儀までにしておく事は二つ。一つは前の保管者との話し合いの場を設ける事」


 「どんな過去があって、どんな理由があってそうなったのか分からないけれど、思うところがあるのならそれを解決してからじゃないと」


 「心残りがある相手に神葬儀式をするなんてあってはいけない事だものね」


 鈴の方はもしかしたら望んでいないのかもしれないけれど、少なくともあの時言っていた『間違えてしまった』は嘘だと思えなかったから、相手との橋渡し役になれたらなと思う。


 「もう一つは討伐に向かった陰陽師との和解」


 「和解?」


 その顔には、確認もせずに一方的に襲った陰陽師に謝罪させるんじゃないのかという疑問が見えたが、私はどうは考えていない。


 「今回の一件は特殊な背景があったとはいえ、私は鈴の方と討伐に向かった陰陽師のどちらかが一方的に悪かったとは思ってないから、出来ればどちらかが謝って終わりじゃなくて、きちんと話し合って落としどころを見つけて欲しいなって」


 陰陽師側は妖力を持っているという確認だけして、現状の把握とその妖怪の由来を調査せず、後の報告も嘘を混じっているという悪い部分も多いけれど、妖怪に対する行動としては間違っているとは思っていない。

 鈴の方もそうなった背景を知らないでこういうのも酷い話かもしれないが、妖力を持っているそれがそもそもの過ちである。


 「それで、明日は都合が付いたみたいだから前の保管者との面会をする予定なんだよね。湖夏さんも一緒に来てくれない?」


 私は事情があってあまりこの街を離れられないのだけど、今回は大丈夫なのだ。だから、折角なら湖夏さんと一緒に行きたいのだ。

 本当は学校の友達とも行きたいのだけれど、流石に遊びに行きたいからで遠出も出来ないし、かといって今回のような陰陽師や妖怪に関係する仕事の時に一般人である友人を連れていくこともできないので、友人達とどこかに行くなんてことはないのだろう。


 「はあ、分かったから、今日はもう寝なさい」


 「やった、明日はデートだー!」


 嬉しくて騒いでいたら、馬鹿な事言ってないでさっさと寝なさいみたいな顔で窘められちゃった。確かに、時計を見ればもう22時を指している。道理で眠いはずだ。

 そんな時間だというのに、湖夏さんは上着を羽織りだしたではないか。


 「こんな時間なのに、どこかに出かけるの?」


 「ええ、少し知り合いに会ってくるから、岬はさっさと寝なさい」


 湖夏さんは妖怪だし、これから会うという知り合いも妖怪なのだろう。妖怪は夜の方が活動が活発だから、元気なこの時間に会うのだろう。


 「うん、じゃあおやすみ」


 「ええ、おやすみ」


 何故か胸がチクリと痛んだ気がしたが、明日は久しぶりに遠出という事でワクワクしながら眠りについた。




 「全く、ただ事情聴取しに行くだけだというのに、あの子ときたら遠足前日の小学生と左程変わらないくらい浮かれてたわ」


 「……実際にそんなものなのだろうさ。そういった経験がないのなら楽しみにもするだろうさ。ならば、このような老骨なぞ放っておいて、その期待を裏切らないように事前に楽しませる為の努力をするべきではないのか、狐殿?」


 「そうね、だからその為に来たのよ、藤原の爺(ふじわらのじじい)


 ここは陰陽連関東支部の総長が使用する部屋。氏神(うじがみ)家を後にした湖夏はそこにいた。

 そして、もう一人いたのは白い髭が立派な藤原と呼ばれた老人。しかし、老いによる衰えを感じさせないような、ガッシリとした体と太い腕を持っていた。


 二人は、会話の内容こそ穏やかな物だが、その語調、表情、態度、何もかもが険悪であった。


 「我々は今回の件には関与していない。その付喪神のような危険なモノを見逃していたという事に関しては我々の落ち度だと考えているが、氏神家に面倒事を押し付けようなどといった意思はない。儂個人としてももう二度とあのような事は起こらんようにしたいとも思っている」


 「確かに、問題はなかった。だから、こうして勝手に氏神の土地に入っても見逃しているんだもの」


 「そもそも、あの地は氏神家の物で狐殿には関係ないとは思うが、そう言うのならばありがたく思う」


 せっかく紅茶も入れて、茶菓子まで出されているというのに、紅茶は冷めるのを待つばかり。とても、そんな空気では無かった。


 そもそも、この藤原と呼ばれるこの男が何者なのか、一言で説明すれば陰陽連関東支部の総長である。

 陰陽連の組織は一番上に陰陽頭(おんみょうのかみ)がいて、その下に総本部や各地の支部がある形となっている。

 支部事に総長がいて、その下にそれぞれの部門が分かれているのだが、ここで問題となるのはそれぞれが完全に別物である点だ。

 陰陽頭は少々特殊な立場なので割愛するが、その結果権力が集中せず、もはやそれぞれの支部が独立した別組織のような扱いなのだ。

 つまり、この藤原という男は関東方面の裏事情に関する全ての頂点である、という事だ。


 「随分と偉そうな口を効くじゃない。岬がいなければどうなっていたかも知らないで」


 そんな、偉い人物にここまで対等どころか上から喋れる湖夏は実は相当古くからいる、力を持った妖怪なのだ。倒そうとした場合、受ける損害が大き過ぎるとして放置される程に。


 「何を、例えあの付喪神が暴れ出したとて高々300年の付喪神。特に神力は重ねることで力を増す以上、大した力でもなく、鎮圧にもそれほど手はかからんと思うが?」


 それを聞いて、可笑しくてたまらないと腹をよじって笑う湖夏。

 決して岬の前では見せないような、獰猛に獣のような牙を剥き出しに、瞳を細めて嘲笑う。


 「な、何が可笑しい……?」


 「はぁ、はぁ、300?貴方はそんな言葉だけ聞いて安堵したのね、実際に確認もせずに!妖怪から顕世(うつしよ)赤鬼(あかおに)と呼ばれた貴方がねえ」


 笑い疲れたのか、ひぃひぃ言っているその直後、急に真顔になって語り始める。

 妖怪は敵意を見せる相手には恐怖を植え付けようとする本能を持つ。相手が怖く思うように、狂ったように笑ってから、急に真顔で瞳を見つめる。

 良くある手だが、それでも相手が長い歴史を歩んで来た大妖となれば、分かっていたとしても百戦錬磨の藤原でさえも一瞬恐怖する。


 「私はアレが氏神家に来た日、私は後をつけて問い掛けたわ。でも、付喪神は少なくとも300年だと言ってたし、悪意を持ってないだろう事は分かったけれど、その神力はその程度ではない事だけは確かね」


 ここに来て、一度も手を伸ばさなかった紅茶に手を伸ばして湖夏は続けた。


 「アレはそんな可愛らしいモノじゃあないわね。少なくとも、私はオモイカネの鈴なんて一つしか思い浮かばなかったわ」


 「オモイカネ……まさか、天の岩戸伝説にて記述があった、アマテラスを誘い出す為の宴にて作られた神楽鈴だとでも言うのか!?」


 その問いには答えず、口元を三日月の形に歪ませて、湖夏は煙のように姿を消した。


 「天の岩戸伝説の神楽鈴、歴史上で最も古く、鈴の起源とも評される神具。もし本当ならば万年どころでは無いのではないか……私の代でそのような方に関われるとは嬉しいような、頭の痛いような。ともかく、氏神家の神葬儀式に出席させて貰わなければな」


 藤原は溜め息を吐きつつも、どこか嬉しそうな表情で受話器を取った。

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