白い竜の大切な友達②
『えへへ……』
『む、何やら楽しそうだな』
はにかむぼくを見て、ファーヴニルが興味深そうに尋ねる。
どうしようかな……言っちゃおうかな……。
でも、きっとファーヴニルは怒りそう。
五百年前の時も『人間と関わってはいけない』と、何度も釘を刺してきたし。
だから内緒にしようって思ったんだけど。
『実はね……ぼく、人間の友達ができたんだ!』
嬉しすぎて、やっぱり言っちゃった。
それにファーヴニルに隠し事なんてしたくなかったし。
『……リンドヴルム、お主』
『わ、分かってる。それに人間はぼく達と違って、すぐに死んじゃうから心配いらないよ!』
そう……ぼく達竜はずっとずっと長生きだけど、人間はたった百年も生きられない。
だから彼との関係だって、すぐに終わってしまうから。
『もちろん君にも迷惑をかけない。だから……』
『ハア……まったく……』
ファーヴニルは溜息を吐き、かぶりを振る。
でも、それ以上は何も言わなかった。本当は駄目だけど、見なかったことにしてくれるみたい。
『……ありがとう、ファーヴニル』
『礼など言われる筋合いはない!』
『うわっ!?』
大声で怒鳴られてしまい、ぼくは慌ててその場から飛び去った。
せっかく見逃してくれているのに、これ以上余計なことを言ったらいけないよね。
ということで。
『えへへ、いらっしゃい』
「い、いえ……」
緊張しているのか、人間……ラウリはすごく戸惑っていた。
あ……人間はこういう時、お茶とかお菓子とかいうものを用意したりするんだっけ。失敗しちゃったかな……。
『ちょ、ちょっと待ってて!』
「あっ」
ぼくは慌てて飛び去ると、森の中を走る一頭の大きな魔獣を発見する。
うん、あれならいいかな。
狙いを定め、ぼくは一気に急降下すると。
『やったね!』
魔獣を捕え、そのままバルディア山の頂上に持ち帰った。
「こ、これは……」
『えへへ、どう?』
ラウリは魔獣を見て、目を白黒させる。
驚いてるけど、人間が魔獣を捕まえて暮らしていることは知っているから、きっと彼も喜んでくれるよね。
『これ、君にあげるね』
「は、はあ……だけど、いいんですか?」
『もちろん! だってぼく達、友達だもん!』
さすがにラウリには大きすぎたので、魔獣はぼくが麓まで運んであげた。
ここから先は、そりに乗せて運べば家まで運べるって言ってたし。
『そういえば、ラウリの子供の具合はどう……?』
「はい。白い竜様……」
『むう。ぼくのことは“リンドヴルム”と呼んでって言ったよね?』
「す、すみません! リンドヴルムが採ってきてくださった薬草のおかげで、すっかり元気になりました」
『本当に? よかったあ……』
ラウリの言葉を聞き、ぼくは胸を撫で下ろす。
ぼくの薬草が役に立ってくれて嬉しい。
「そ、それじゃ、失礼します」
『うん! また来てね!』
魔獣を載せたそりを引き、ラウリは家へと帰る。
その後ろ姿を、ぼくはいつまでも見つめていた。
◇
『これと、これと……あ、これも一緒に持って帰って!』
それからというもの、ぼくはラウリが来るたびにたくさんのお土産を用意した。
大型魔獣だけでなく、人間が喜びそうな北の果てにある宝石なんかも一緒に。
きっとラウリも喜んでくれる、そう思っていたんだけど。
「…………………………」
なぜか彼の表情は暗い。
それも、ぼくがお土産を渡す時には特に。
ひょっとして、これだけじゃ足らないからなのかな?
そう考えたぼくは、回を追うごとにたくさんのお土産を用意するようになっていった。
でも、それがいけなかったんだ。
「リンドヴルム……こういったことは、もうやめてほしいんです」
『ど、どうして!?』
ラウリの言葉に、ぼくは目を見開く。
だってだって、ラウリは魔獣を捕まえて生活してるって言ってたし、宝石も人間が絶対に喜ぶものだって、五百年前に会った人間の女が言ってたのに。
「リンドヴルムには本当に感謝しています。困り果てていた私のために薬草を採ってきてくれて、それからも会うたびにたくさんのものをくれました。おかげで我が家は一生暮らしていけます」
『だ、だったら!』
「でも、それじゃいけないんです。こんなの……友達じゃない」
『え……?』
聞きたくなかった、その言葉。
いつか竜であるぼくに愛想を尽かして、ラウリが言うんじゃないかと思ってた、その言葉。
「リンドヴルム……私はもう、ここに来るのをやめます」
『そ、そんな……っ』
ぼくの何がいけなかったんだろう。
どうしてラウリは、ぼくから離れようとするんだろう。
ぼくと友達になってくれるって言ったのに、どうして……。
『い、嫌だ! ぼくはラウリと友達でいたいんだ! ずっとずっと、君と……!』
ラウリと逢えなくなるのが嫌で、ぼくは彼に詰め寄る。
こんな大きな身体だから、ラウリは驚いて後退ってしまった。
申し訳なさそうに、顔を背けて。
「でも、何かを与えることが……施すことが友達じゃないんです。そんなことをしなくても、私は……っ!?」
『っ!? ラウリ!?』
元々、バルディア山頂は人間には足の踏み場も少なく、危険な場所。
そんなことは分かっていたのに、焦ったぼくが詰め寄ったせいで、ラウリが足を踏み外してしまった。
ぼくは必死に前脚を伸ばし、ラウリを捕まえようとした。
でも……ぼくの前脚は、彼には届かなくて。
『あ……ああ……あああああああああああああああああああ!?』
崖の下まで落ちてしまったラウリを追いかけ、ぼくも一緒に崖を飛び降りる。
だって……だって彼が言ってくれたから。
落ちていく中、『私は、いつまでもリンドヴルムの友達です』って言ってくれたから。
なのに。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!」
ぼくは……大切な友達を救うことができなかったんだ。
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