表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/138

白い竜の大切な友達②

『えへへ……』

『む、何やら楽しそうだな』


 はにかむぼくを見て、ファーヴニルが興味深そうに尋ねる。

 どうしようかな……言っちゃおうかな……。


 でも、きっとファーヴニルは怒りそう。

 五百年前の時も『人間と関わってはいけない』と、何度も釘を刺してきたし。


 だから内緒にしようって思ったんだけど。


『実はね……ぼく、人間の友達(・・)ができたんだ!』


 嬉しすぎて、やっぱり言っちゃった。

 それにファーヴニルに隠し事なんてしたくなかったし。


『……リンドヴルム、お主』

『わ、分かってる。それに人間はぼく達と違って、すぐに死んじゃうから心配いらないよ!』


 そう……ぼく達竜はずっとずっと長生きだけど、人間はたった(・・・)百年も生きられない。

 だから彼との関係だって、すぐに終わってしまうから。


『もちろん君にも迷惑をかけない。だから……』

『ハア……まったく……』


 ファーヴニルは溜息を吐き、かぶりを振る。

 でも、それ以上は何も言わなかった。本当は駄目だけど、見なかったことにしてくれるみたい。


『……ありがとう、ファーヴニル』

『礼など言われる筋合いはない!』

『うわっ!?』


 大声で怒鳴られてしまい、ぼくは慌ててその場から飛び去った。

 せっかく見逃してくれているのに、これ以上余計なことを言ったらいけないよね。


 ということで。


『えへへ、いらっしゃい』

「い、いえ……」


 緊張しているのか、人間……ラウリはすごく戸惑っていた。

 あ……人間はこういう時、お茶とかお菓子とかいうものを用意したりするんだっけ。失敗しちゃったかな……。


『ちょ、ちょっと待ってて!』

「あっ」


 ぼくは慌てて飛び去ると、森の中を走る一頭の大きな魔獣を発見する。

 うん、あれならいいかな。


 狙いを定め、ぼくは一気に急降下すると。


『やったね!』


 魔獣を捕え、そのままバルディア山の頂上に持ち帰った。


「こ、これは……」

『えへへ、どう?』


 ラウリは魔獣を見て、目を白黒させる。

 驚いてるけど、人間が魔獣を捕まえて暮らしていることは知っているから、きっと彼も喜んでくれるよね。


『これ、君にあげるね』

「は、はあ……だけど、いいんですか?」

『もちろん! だってぼく達、友達(・・)だもん!』


 さすがにラウリには大きすぎたので、魔獣はぼくが(ふもと)まで運んであげた。

 ここから先は、そり(・・)に乗せて運べば家まで運べるって言ってたし。


『そういえば、ラウリの子供の具合はどう……?』

「はい。白い竜様……」

『むう。ぼくのことは“リンドヴルム”と呼んでって言ったよね?』

「す、すみません! リンドヴルムが採ってきてくださった薬草のおかげで、すっかり元気になりました」

『本当に? よかったあ……』


 ラウリの言葉を聞き、ぼくは胸を撫で下ろす。

 ぼくの薬草が役に立ってくれて嬉しい。


「そ、それじゃ、失礼します」

『うん! また来てね!』


 魔獣を載せたそり(・・)を引き、ラウリは家へと帰る。

 その後ろ姿を、ぼくはいつまでも見つめていた。


 ◇


『これと、これと……あ、これも一緒に持って帰って!』


 それからというもの、ぼくはラウリが来るたびにたくさんのお土産を用意した。

 大型魔獣だけでなく、人間が喜びそうな北の果てにある宝石なんかも一緒に。


 きっとラウリも喜んでくれる、そう思っていたんだけど。


「…………………………」


 なぜか彼の表情は暗い。

 それも、ぼくがお土産を渡す時には特に。


 ひょっとして、これだけじゃ足らないからなのかな?

 そう考えたぼくは、回を追うごとにたくさんのお土産を用意するようになっていった。


 でも、それがいけなかったんだ。


「リンドヴルム……こういったことは、もうやめてほしいんです」

『ど、どうして!?』


 ラウリの言葉に、ぼくは目を見開く。

 だってだって、ラウリは魔獣を捕まえて生活してるって言ってたし、宝石も人間が絶対に喜ぶものだって、五百年前に会った人間の女が言ってたのに。


「リンドヴルムには本当に感謝しています。困り果てていた私のために薬草を採ってきてくれて、それからも会うたびにたくさんのものをくれました。おかげで我が家は一生暮らしていけます」

『だ、だったら!』

「でも、それじゃいけないんです。こんなの……友達(・・)じゃない(・・・・)

『え……?』


 聞きたくなかった、その言葉。

 いつか竜であるぼくに愛想を尽かして、ラウリが言うんじゃないかと思ってた、その言葉。


「リンドヴルム……私はもう、ここに来るのをやめます」

『そ、そんな……っ』


 ぼくの何がいけなかったんだろう。

 どうしてラウリは、ぼくから離れようとするんだろう。


 ぼくと友達(・・)になってくれるって言ったのに、どうして……。


『い、嫌だ! ぼくはラウリと友達(・・)でいたいんだ! ずっとずっと、君と……!』


 ラウリと逢えなくなるのが嫌で、ぼくは彼に詰め寄る。

 こんな大きな身体だから、ラウリは驚いて後退(あとずさ)ってしまった。


 申し訳なさそうに、顔を背けて。


「でも、何かを与えることが……施すことが友達(・・)じゃないんです。そんなことをしなくても、私は……っ!?」

『っ!? ラウリ!?』


 元々、バルディア山頂は人間には足の踏み場も少なく、危険な場所。

 そんなことは分かっていたのに、焦ったぼくが詰め寄ったせいで、ラウリが足を踏み外してしまった。


 ぼくは必死に前脚を伸ばし、ラウリを捕まえようとした。

 でも……ぼくの前脚は、彼には届かなくて。


『あ……ああ……あああああああああああああああああああ!?』


 崖の下まで落ちてしまったラウリを追いかけ、ぼくも一緒に崖を飛び降りる。

 だって……だって彼が言ってくれたから。


 落ちていく中、『私は、いつまでもリンドヴルムの友達です』って言ってくれたから。


 なのに。


「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!」


 ぼくは……大切な友達(・・)を救うことができなかったんだ。

お読みいただき、ありがとうございました!


少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、

『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!


皆様の評価は、作者にとって作品を書き続ける原動力です!

何卒応援をよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
▼HJノベルス様公式サイトはこちら!▼

【余命一年の公爵子息は、旅をしたい】
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ