白い竜の大切な友達①
ぼくが彼と出逢ったのは、偶然だった。
五百年前に出会った人間達と同じ場所……バルディア山に興味本位で来てみたら、まさか人間がいるなんて思いもよらないよね。
だって、五百年前の彼等に聞いた話だと、この山は人間には険しすぎてとても山頂まで来れないって話だったのに、その人間がいたんだから。
「グオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアッッッ!」
「っ!? ヒイッ!?」
おっといけない。こんなに大きな声を出したら、人間がぼくのことを怖がっちゃうよ。
その証拠に、人間がすごく驚いた顔で尻もちをついているし。
『その……驚かせちゃってごめんね?』
「ヒイイイイ……って、え……?」
ぼくが人間の頭の中に語りかけたからかな。悲鳴を上げていた人間は、ぽかん、とした表情を浮かべた。
『本当にごめん! 五百年ぶりに人間に出会ったから、ついはしゃいじゃって……』
「あ……そ、そうだったんですね……」
反省していることが伝わったみたいで、人間は立ち上がって、逆にぺこり、とお辞儀をされちゃった。
でも……うん。五百年前と同じで、優しそうな人間みたい。よかった。
『そ、それで、君はこんなところまでどうしたの? ここって人間じゃ簡単に来れないと思うんだけど……』
「あ、ああ、そうでした。実は……」
まだちょっとぼくのこと怖がっているみたいだけど、人間は丁寧に説明してくれた。
この山には病気に効く薬草が生えているらしくて、本当は麓のほうで探してたらしいけど、見つからなくて探し歩いた結果、気づいたらここまで来てしまったらしい。
薬草一つでこんな山の頂上まで登ってくるなんてと思ったけど、どうやら人間の子供がその病気に罹っているらしく、何としても手に入れたいんだとか。
「……ここまで一心不乱に来てみたものの、やはり見つからなくて絶望していたところに、その……白い竜様がお越しになられまして……」
「そ、そう……」
どこか遜る態度の人間にちょっと思うところがあるけれど、人間だって家族は大事だよね。
ぼくにだってファーヴニルという大切な同胞がいるから、彼女が同じように病気に苦しんだりしたら絶対に嫌だし、何としても助けたいって思っちゃったんだ。
『任せてよ! その薬草、ぼくが見つけてきてあげる!』
「! ほ、本当ですか!」
人間が顔を上げ、瞳を輝かせる。
それだけ自分の息子のことが大事なんだって分かって、ますますぼくはやる気になった。
『うん! それで、その薬草ってどんなの?』
「は、はい! 黄色い花弁と白い花びらが特徴的な、小さな植物なんですが……」
『うん……うん……』
教えてもらった薬草は、確かにこの山に生えている。
その場所だって、ぼくは知っていた。
『じゃあ、ちょっと待っててね』
「よろしくお願いします!」
人間に見送られ、ぼくは空を飛んで山の裏側……人間では絶対に来ることができない崖の前に生えている、白い花の薬草を採ると。
『はい、持ってきたよ……って』
ぼくの手が大きすぎるせいで、薬草はぐちゃぐちゃに潰れてしまっていた。
『ご、ごめん! もう一回採ってくるから!』
「だ、大丈夫です! 薬草はすり潰したものを煎じて飲みますから!」
『煎じる……?』
「はい!」
人間曰く、すり潰した薬草を湯に煎じて飲むらしく、別に潰れてしまっていても問題はないらしい。
それを聞いたぼくは安堵して、胸を撫で下ろした。
すると。
「ぷ……ははははは! 白い竜様は、とても優しい御方なのですね!」
『そ、そう?』
うわあああ……ぼく、初めて『優しい』って言われちゃったよ。嬉しいなあ。
「そ、その、薬草まで採ってきていただいたのに、私にはお返しできるものがありません……私にできることでしたら、なんでもおっしゃってください」
『え……?』
そんなこと言われたけど、別に人間に何かしてほしかったわけじゃないので、ぼくは戸惑ってしまう。……あ、でも。
『そそ、それだったら、一つだけお願いがあるんだ……』
「な、なんでしょうか……?」
人間が、少し不安そうにぼくの顔を覗き込む。
ひょっとしたら、ぼくが無理難題を押しつけるとか思ったのかな……。
でも……人間からすれば、嫌だって言うかもしれない。
五百年前の人間達を見てから密かに憧れてきた、あれになるなんて。
だってぼくは竜だから。
人間とは、違うから。
ぼくはお願いしようかどうしようか、すごく、すごく悩んだ。
だけど……ぼくはどうしてもなりたかった。
だから。
『その……ぼくと、友達になってくれる?』
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