届いた牙
「なあ……何とか言えよ。言ってくれよ。……おいらの父ちゃんを殺したって、どういうことなんだよおおおおおおッッッ!」
ヘンリクがリンドヴルムを見据え、絶叫した。
「ど、どういうこと!?」
「ひょっとして……リンドヴルムが告げた『ラウリ』という者が、ヘンリクの父親なのか?」
ヨナとパトリシアは慌ててヘンリクに駆け寄る。
だが彼の視線はリンドヴルムだけに向けられ、ヨナ達の問いかけに一切反応しない。
『へえー! ひょっとしてお前、ラウリの子供? 確かによく見たら、あの裏切り者に似てるかもね!』
「っ! おいらの父ちゃんが裏切り者ってどういうことなんだよ! そもそもお前なんかが、どうして父ちゃんと……っ!」
「グオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアッッッ!」
『あははははははは! 知らないのかな? あの男は……ラウリは、ぼくのことを友達って言っておきながら、裏切って逃げ出したんだよ! 『もうあなたとは逢わない』って、そんなことを言ったんだッッッ!』
嗤い声を上げたかと思うと、リンドヴルムがこれ以上なく顔を歪め、ヘンリクに向かって咆哮した。
白い竜が初めて見せる、世界の全てを呪い殺してしまいそうなほどの憎悪に満ちた顔。そのあまりの迫力と雰囲気に、ヨナ達は声を失う。
『だからぼくは殺した! ラウリを! 友達じゃなくなったんだから、当然だよね!』
リンドヴルムの言う『殺した』とは、ファーヴニルから聞かされていたとおり、ヘンリクの父を捕食したということ。
その結果、リンドヴルムは人間の味を覚え、凶行に走ったのだろう。
『ああ……だけど一つだけ感謝かな。だって、あの裏切り者のおかげで、ぼくは人間の味を知ったんだから。こんな舌が蕩けてしまうほど美味しいんだったら、もっと早くに食べればよかったよ』
舌なめずりをし、空を見上げて恍惚の表情を浮かべるリンドヴルム。
その視線が、突然ヘンリクへと向けられた。
『あいつの子供も、同じ味がするのかな? まあそれは、ファーヴニルを殺してからのお楽しみにしようっと』
リンドヴルムがけたけたと嗤う。
だというのに、ヨナには白い竜が少しも楽しそうには見えない。……いや、それどころか苦しそうで、悲しそうで、今にも泣き崩れてしまいそうな、そんな雰囲気にしか感じられなかった。
とはいえ、ファーヴニルとの闘いに勝利した場合、リンドヴルムは自分達……ヘンリクに襲いかかるだろう。
だから。
「天空で踊りし光の根源よ。我の前に顕現し、厄災を退ける盾となりて、誇りを偽りし憐れな竜から我等を護れ」
ヨナが右手の人差し指で高速に描くと、目の前に光の魔法陣が浮かび上がった。
「【エギーデ】」
光を纏った巨大かつ重厚な盾が現れ、ヨナ達とリンドヴルムの間に浮遊する。
ヨナ達を、白い竜から守護するように。
「ヨ、ヨナ、これは……」
「何があっても、この盾が僕達を護ってくれます。たとえ伝説の『二匹の竜の番』だとしても、その牙を、爪を、僕達に届かせることは敵わない」
『っ!?』
リンドヴルムへ向け、冷ややかな視線を送るヨナ。
『オマエでは僕に敵わない』のだと、秩序と誇りを失った白い竜に言外に告げるように。
『へえ……面白いことを言うじゃないか。なら……』
『何を言っている。お主の相手は我であろう』
ここまで無言だったファーヴニルがその巨体を起こし、リンドヴルムを見据える。
だが、誰の目から見ても立っているのがやっとという状態。おそらく、このままリンドヴルムと闘いを続けても倒されるだけだろう。
それでも。
「ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!」
ファーヴニルが、激しく咆哮する。
誇り高き黒い竜ファーヴニルの矜持を、まざまざと見せつけるように。
『ハア……分かった。君を殺して、あのとびきり小さい人間とラウリの子供を食べるとするよ』
溜息を吐き、リンドヴルムはかぶりを振ると。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!」
ファーヴニルに呼応するように、リンドヴルムも咆哮で返した。
いずれにせよ、ファーヴニルにはあと一撃分の余力しか残されていない。
黒い竜は前脚と後ろ脚に全体重を乗せ、地を這うように低く構える。
リンドヴルムもまた、強者として挑戦者であるファーヴニルを迎え撃つかのように、後ろ脚に体重をかけて立ち上がり、前脚を大きく広げた。
そして。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!」
一直線に突撃するファーヴニル目がけ、リンドヴルムは前脚を振り下ろす。
だが。
「ッ!? ガ……フ……ッ!?」
ファーヴニルの牙が、リンドヴルムの白い喉元を捉えた。
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