二匹の竜の激突
「なら、闘えばいいじゃないか。ファーヴニルと、二人だけで」
ヨナはあえて無邪気な笑顔を浮かべ、リンドヴルムに告げた。
『ぼくが? ファーヴニルと? 二人だけで?』
ヨナとファーヴニルを交互に見やり、リンドヴルムは目を見開くと。
『ぷぷ……あははははははははははははははははは!』
腹を抱えて大声で笑い出した。
「何が可笑しいの?」
『可笑しいに決まっているだろ! だってファーヴニルは、ぼくにこてんぱんにやっつけられたんだぞ! 今さら闘ったところで、またぼくが勝つに決まってるじゃないか!』
笑顔で問いかけるヨナに、リンドヴルムも笑いながら答える。
ただしその瞳は一切笑っておらず、むしろ射殺すような視線をヨナへと向けていた。
「よく言うよ。君だってファーヴニルさんに傷つけられて、こんなところに逃げ隠れていたくせに」
『っ! どうしてぼくが逃げ隠れなきゃいけないんだよ! ぼくは次の餌の品定めをするためにここにいるだけだ!』
リンドヴルムがヨナの頭の中で騒ぎ立てる。
まるで図星を突かれ、一生懸命に言い訳をする駄々っ子のように。
そんな白い竜を見て、ヨナは内心ほくそ笑んだ。
まさか十一歳の子供に過ぎない自分よりも幼いとは思ってもみなかったが、これでリンドヴルムはファーヴニルとの闘いを避けたりはしないだろう。
「じゃあファーヴニルさんと闘って証明してみせてよ。君のほうが強いってことを。決して怖くて逃げたわけじゃないってことを」
『いいとも! 二度とぼくと闘うことができないほど、ファーヴニルを滅茶苦茶にやっつけてやる!』
口車に乗せられたリンドヴルムは、とうとうファーヴニルとの闘いを了承した。
なら、あとは『二匹の竜の番』が語らうに相応しい場を用意してあげるだけ。
「あははっ」
巨大な鋭い牙を剥き出しにするリンドヴルムに向けて両手をかざし、ヨナが笑う。
飛蝗、海蛇の魔獣、魔王軍幹部、いずれも屠ってきた時と同じように。
――自分こそが絶対の存在であると驕り高ぶる理不尽に、それ以上の理不尽があることを分からせるために。
「地の底深くにて戯れし土の根源よ。我の前に顕現し、この世の全てを取り囲む真円となりて、二つの大いなる顎に闘争の舞台を授けよ」
ヨナが右手の人差し指を地面に向け高速で描いて詠唱すると、ファーヴニルとリンドヴルの巨体すらもその範囲に収めるほど大きな魔法陣が浮かび上がった。
「【コロッセウム】」
魔法陣が描かれた地面が隆起し、円形の舞台となって二匹の竜へと迫る。
リンドヴルムは逃れようと、さらに上へと逃れようとするが。
「無理だよ」
『っ!?』
円形の土台の外周がそびえ立つ壁となり、雲すらも突き抜ける。
まるで、夜空に瞬く星をつかもうと手を伸ばすかのように。
『おおおおお……!』
「「「…………………………」」」
突然出来上がった闘いの舞台に降り立ったファーヴニルは感嘆の声を漏らし、パトリシア、ヘンリク、クウは絶句する。
さらに上を目指していたリンドヴルムも、ヨナが作ったこの舞台から脱出することは不可能だと悟ったのか、ゆっくりと降下し、ファーヴニルの前に立った。
「さあ、せっかく舞台を用意してあげたんだ。あとは思う存分闘ってよ」
『…………………………』
両手を広げるヨナを、リンドヴルムが凝視する。
先程までの矮小な餌としてではなく、同胞のファーヴニルをも超える脅威とみなして。
このままヨナに闘いを挑むという選択肢もあるが、彼の余裕のある表情や態度から察するに、下手な動きを見せたらそれこそただでは済まない。リンドヴルムの竜としての勘が、警鐘を鳴らし続けていた。
つまり――ファーヴニルと一対一で闘う以外、選択肢はないのだと。
「ファーヴニルさん、僕ができるのはここまでです。あとは存分に」
『……かたじけない』
ヨナはその言葉を残し、パトリシア、ヘンリク、クウとともに転移した。
二匹の竜の闘いを最後まで見届けることができる場所……壁の高い位置に設置された、円形の舞台の特等席へと。
『リンドヴルム』
『……いいよ。ファーヴニルを倒して、ぼくはここからゆっくり出る』
互いに四本の脚に力を込め、低く構える。
そして。
「グオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!」
「グルルルルオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアッッッ!」
伝説の『二匹の竜の番』が、円形の舞台の中央で激突した。
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