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黒い竜の依頼

「「っ!?」」

「…………………………」


 目の前に、伏臥(ふくが)してこちらを見つめる黒い竜がいた。

 『中央(メディウス)海の守り神』にも匹敵するその巨体は黒い鱗に覆われており、人間の武器など歯が立たないであろうことが(うかが)える。


 あの、海蛇の魔獣に一切通用しなかった、『審判の火』と同じように。


 だが。


「…………………………」


 それでもなお、パトリシアは腰の剣に手をかける。

 帝国の第一皇女として……『白銀の剣姫』として、闘いを挑むために。


 その時。


『よくぞ参った。数奇な運命を辿る小さき少年よ』

「っ!?」


 突然、ヨナの頭の中に声が聞こえた。

 黒い竜が飛来し、そのままこの山へと去った時に聞こえたものと、同じ声が。


 見ると、剣に手を置いていたパトリシアも、驚いた表情をしている。

 どうやら声を聞いたのは、ヨナだけではないようだ。


「あの……」


 ヨナはおずおずと声をかける。

 目の前の、黒い竜に。


『うむ。我がお主に語りかけた』


 やはり声の主は、目の前の黒い竜に間違いないようだ。

 それにしても、まさか黒い竜が人間と会話できるなどと、誰が分かるだろうか。……いや、竜と言葉を交わした人間が果たしているのだろうか。


 思いがけない竜との邂逅(かいこう)に、ヨナは驚きと興奮を隠せないでいた。


「そ、その! 僕はヨナって言います!」


 オニキスの瞳を輝かせ、なぜかぺこり、とお辞儀をして自己紹介をするヨナ。

 その姿に、黒い竜は面食らうと。


「ゴ……ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!」

『グ……グハハハハハハハハハハハハハ! 何とも肝の太い少年だ!』

「「っ!?」」


 突然黒い竜が咆哮(ほうこう)し、ヨナとパトリシアが圧倒される。

 だがそれと同時に頭の中に聞こえる、黒い竜の笑い声。どうやらそういう(・・・・)こと(・・)なのだろうが、それにしてもその巨体が放つ実際の声と頭の中の声との違いに、二人は戸惑いを隠せない。


『む……あ、いや、すまんすまん。確かにこの距離で笑っては、矮小(わいしょう)な人間にはつらかったであろうな』

「は、はあ……」


 先程の咆哮(ほうこう)で耳鳴りが酷いが、黒い竜は頭の中に語りかけているのでしっかりと聞こえる。

 とはいえ、もう少し考えてほしいとヨナは思った。


『うむ……だが少年から名乗りを受けたのだ。次は我の番だな』


 そう言うと、黒い竜は身体を起こす。


 そして。


『我の名は“ファーヴニル”。このバルディア山を(ねぐら)にしている』


 黒い竜は二人を見下ろし、そう名乗った。


 ◇


「そういえば、地上にいる僕にファーヴニルさんは頭の中に話しかけてきましたよね? 『待っている』って……」

『うむ、申したな』


 耳鳴りも治まり、ようやく落ち着きを取り戻したヨナが尋ねると、ファーヴニルはそのとおりだと頷いた。


「その、どうして僕を待っていたのですか……?」


 ヨナはここに来るまで、ずっと気になっていた。

 ファーヴニルとは初対面だということもあるが、そもそも竜がちっぽけな人間にすぎない自分のことなど気に留めようはずもない。


 だというのに、あの時のファーヴニルの口振りからは、まるでヨナが来ることを待ち望んでいたように感じたのだ。


『うむ。それは……』

「ま、待ってくれ! その……今のこの状況に、私はまだついていけていないのだが……」


 転移したその場でファーヴニルが目の前に現れた衝撃、先程の咆哮(ほうこう)もあるが、何より白い竜を討伐しなければならないという責務から、パトリシアはまともに思考することができず、空気と化していた。


 それでようやく我に返った彼女は状況等を理解するために、何事もなかったかのように会話を続けるヨナとファーヴニルに待ったをかけたわけだ。


「あ……ご、ごめんなさい。つい……」


 ヨナは苦笑しながら頭を掻いて謝罪する。

 どうやらヨナも、伝説の黒い竜であるファーヴニルとの会話に夢中になり過ぎて、パトリシアを置き去りにしていたことに思い至ったようだ。


「い、いや、いいんだ。こちらこそ話の腰を折ってしまってすまない。続けてくれ」


 パトリシアは遠慮気味にそう告げるものの、二人に話すべきことはそうじゃない。

 彼女の目的は、あくまでも白い竜の討伐。ファーヴニルが少なくともこちらに対して敵意を向けていない以上、(つがい)である白い竜について尋ねるべきだった。


「ありがとうございます。ええと、それで……」

『うむ。古き友(・・・)が我に教えてくれたのだ。ヨナという名の少年が、我の望みを叶えてくれるとな』

「ええ!?」


 ファーヴニルを友人に持つ知り合いなど、ヨナにはいない。

 それどころかヨナが心を通わせたのは、この旅で出逢った人達だけ。どう考えてもこれはあり得ない。


「その『古き友』とは一体誰ですか!?」

『む……まあ気にするな。それより、ヨナに頼みたいことがある』


 自分の質問には答えてくれないのに、ファーヴニルは厚かましくも自分の要望を伝えようとする。ヨナは少し憮然(ぶぜん)とした。


『なあに、これはお主達にとっても悪くない話だ。なぜなら……』


 ファーヴニルは、ヨナとパトリシアを交互に見やると。


『我が(つがい)――白き竜“リンドヴルム”を(ほふ)るために、力を貸してほしいのだ』

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