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剣姫の悩み

「簡単な話だ。今から二週間前、カレリア王国の首都“ヘルシング”に白い竜が飛来し、都市の半分を破壊したからだ」

「「ええええええええええええええ!?」」


 パトリシアの言葉に、ヨナとヘンリクが驚きの声を上げた。


「帝国に要請が来た時には耳を疑ったが、先日首都の様子を見て私も声を失ったよ……」


 そう言うと、パトリシアは唇を噛む。

 それだけ目に余る惨状だったのだろう。


「で、ですが『二匹の竜の(つがい)』の伝説では、白い竜と黒い竜は常に一緒にいるはず。白い竜だけというのは一体……」

「伝説についてよく知っているな。だが王国からの話では、現れたのは白い竜のみ。黒い竜の姿は見られなかったとのことだ」


 伝説では、二匹の竜は名の通り(つがい)であり、誰も訪れることのないバルディア山で仲睦まじく暮らしているとある。

 そもそもあの(・・)二匹の竜に限って、そのようなことがあり得るのだろうか。


「今回のことは我々も王国からの話しか知らないので、これ以上のことは分からない。とにかく、白い竜が突然ヘルシングにやって来て、街を半壊させて去っていった。それだけだ」

「そ、そうですか……」


 ヨナはそれ以上聞かなかったもののやはり納得できず、首を(ひね)る。

 そんな彼の様子が可笑しかったのか、パトリシアはくすり、と笑った。


「それで、バルディア山へはあとどれくらいで着きそうかな?」

「は、はい! その……」


 ヘンリクは考える仕草を見せるが、そもそも行ったことがないのであとどれくらいかなど分かるはずがない。

 どうしようかと困り果てた表情を浮かべ、ヨナを見た。


「ええと……帝国軍の皆さんをお連れして森の中を進んでいるため、いつもよりも遅いですし、森を抜ける場所も違います。詳細については、森を抜けた時にご説明しますね」

「そうか。二人とも頼んだぞ」

「はい!」


 上手く誤魔化せたことで胸を撫で下ろすヘンリクを見て、ヨナは頬を緩める。

 これでパトリシアが、森を抜けるまで追求してくることはないだろう。


 森を抜けてバルディア山を肉眼で捉えることさえできれば、距離など目算でいくらでも測れる。ヨナはそう考えた。


「よし、今日はここで野営するとしよう。すぐに取りかかれ」

「「「「「はっ!」」」」」


 帝国軍の騎士や兵士達が天幕を張り、食事の支度を始める。

 ヨナ達はパトリシアに招かれ、彼女の天幕に入ると。


「君達はここで私と一緒に寝るとしよう」

「「えええええ!?」」


 まさかそんなことになるなんて思ってもおらず、ヨナとヘンリクは思わず声を上げた。


「なんだ。私と一緒では不満か?」

「いいい、いえ! そんなことはないですけど、さすがに平民の僕達が帝国の皇女殿下とご一緒するのは……」

「なあに、気にすることはない。私とて皇女ではあるが、武人でもある。他の兵士達と雑魚寝することがあっても不思議ではないのだからな」

「「は、はあ……」」


 そこまで言われてしまっては、これ以上断ることはできない。

 ヨナとヘンリクは、渋々受け入れることにした。


「ふふ、今夜は楽しくなりそうだ」


 嬉しそうに微笑むパトリシアとは裏腹に、ヨナは困ったことになったと両手で顔を覆った。


 ◇


「んう……」


 その日の深夜、ヨナは寝苦しくなって目を覚ます。

 見ると、隣で寝ているヘンリクがヨナのお腹の上に足を乗せていたことが原因だった。


「もう……寝相悪いなあ……」


 そう呟いて苦笑するヨナは、ヘンリクの足を降ろしてもう一度寝直そうと毛布に潜るのだが。


「あれ? パトリシア殿下がいない……」


 見ると、パトリシアの寝台がもぬけの殻だ。

 お手洗いにでも行ったのかと思い、ヨナはやはり毛布を(かぶ)るものの、妙に気になってしまった。


 ヨナは起き上がり、寝台から降りて幕舎の外に出る。

 すると、そこには剣の素振りをするパトリシアがいた。


(うわあああ……綺麗だなあ……)


 もちろんパトリシア自身がとても美しい女性であることは間違いないのだが、何より彼女が振るう剣に、洗練された姿勢に、真剣に打ち込む表情に、ヨナは思わず見惚れてしまった。


「む……ヨナ、眠れないのか?」

「あ……そ、その、訓練の邪魔をしてすみません」


 視線に気づきパトリシアが剣を止めて声をかけると、ヨナは慌てて頭を下げる。


「気にしなくていい。それに、ちょうど休憩しようと思っていたところだ」


 そう言うとパトリシアは剣を(さや)に納め、ヨナの(そば)に寄り彼の頭を撫でた。

 勇ましい彼女の印象とは異なり、剣だこのあるごつごつしているものの優しい手つきに、ヨナはカルロやティタンシアとは違った心地よさを覚え、気持ちよさそうに目を細める。


「そ、それにしても、パトリシア殿下はすごく綺麗でした! いつまでも見ていたいくらいです!」

「ふふ、ありがとう。ヨナに褒めてもらえて嬉しいよ」


 ヨナの真摯な瞳と素直な称賛を聞き、パトリシアが頬を緩める。

 多くの者がパトリシアに賛辞を贈ってきたが、そのほとんどは第一皇女である彼女を(おもんばか)ってのもの。そのようなもの、嬉しくなるはずもない。


 だがヨナは違う。

 まるで英雄にでも出逢ったかのように、彼女を見てオニキスの瞳を輝かせているではないか。


 そんなヨナが愛おしくなり、パトリシアは普段なら決して見せない表情を浮かべた。


 だからだろう。


「なあヨナ……私は、白い竜に勝利できると思うか?」


 パトリシアは、抱えている不安を吐露し始めた。

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