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白い竜の襲撃

「パトリシア殿下、お願いです! どうか僕達を、バルディア山まで一緒に連れて行ってください!」

「お、おいおい……」


 森の入り口でパトリシア率いる帝国軍を待ち構えていた二人は、困惑する彼女の前で平伏し、懇願した。

 現在地が分かったヨナ一人であれば、バルディア山の位置を地図上で把握することですぐにでも転移が可能だが、ヘンリクが一緒にいる以上古代魔法を使うわけにはいかない。


 そうなると、白い竜討伐のためにバルディア山へと向かうパトリシアに同行させてもらうほかなかった。


「……悪いが子供に過ぎない二人を連れて行くわけにはいかない。私達は遊びに行くわけではないのだからな」


 当然ながら、パトリシアは険しい表情でヨナ達の頼みを即座に断る。

 それでも二人が落ち込んだり悲しんだりしていないかと、視線を送って様子を(うかが)っているところからも、彼女も存外人が好いようだ。


「お、おいらにはクウがいますし、きっとお役に立てます! それにこの森はおいらにとって庭みたいなものですから。バルディア山への安全な道だって案内できます!」

「むう……」


 なおも引き下がらないヘンリクに、パトリシアは(うな)った。


「パトリシア殿下は、その御名を名乗られた際におっしゃいました。『友好国であるカレリア王国からの要請により、バルディア山に巣食う白い竜の討伐に来た』と」

「……ああ。だが、それがどうした?」


 ヨナの言葉を受け、パトリシアは(いぶか)しげな表情を浮かべる。

 容姿は整っているがヨナは平民。そのはずなのに彼の言葉遣いやたたずまいからは、貴族のそれを感じさせており、パトリシアは気になったのだ。


 だが、今はそれよりもどうにかして二人を説得するほうが先。パトリシアは、あえてヨナに殺気のこもった鋭い視線を向けた。


 だというのに。


「であれば、白い竜と戦うまでに御身を含めできる限り兵士達の体力を温存し、万全の体勢で挑む必要があります。ただでさえ帝国軍は不慣れな環境にいるのですから」

「そ、それは……」


 ヨナの言っていることは正しい。

 ここまでの遠征で兵達が疲弊(ひへい)しているのはもちろんのこと、相手はあの伝説の白い竜。人の身で挑もうというのだから、少しでも不安要素は取り除くべきだ。


「白い竜との戦いを考えれば、地理に詳しく森を熟知しているヘンリクを伴うことは非常に有効です。それに彼にはパトリシア殿下もご覧になられたとおり、狼の魔獣クウを従えています。戦力としても期待できるかと」

「むむむ……」


 理路整然と話すヨナに押し切られ、パトリシアが唸り声を上げる。

 実はパトリシアは、村の者に森を抜けるための道案内を頼んだのだが、目的を告げると皆怖がって同行を拒否してきたのだ。


 一応、カレリア王国側にも同行してもらってはいるが、現地の者に比べると数段劣る。

 かといって村人達に強要するわけにはいかないし、何よりパトリシア自身がそのようなことをしたくなかった。


 そうなるとヨナとヘンリクを同行させることが最適なのだが、それでも子供達を危険な目に遭わせたくない。


 すると。


「ご安心くださいパトリシア殿下。僕達も身の程は弁えておりますので、ご案内するのはあくまでもバルディア山の入り口まで。そこで殿下の勝利を祈っております」


 などとヨナは(うやうや)しく告げるが、心の中ではそこまで行けばあとは何とかなると思っていた。

 ヘンリクも目的は行方不明の父との決別をするためであって、伝説の『二匹の竜の(つがい)』に興味があるわけではない。


「いかがでしょうか……?」

「…………………………」


 パトリシアは腕組みをし、沈黙する。


 そして。


「……仕方ない」

「! あ、ありがとうございます!」

「ただし! あくまでも山の(ふもと)までだ! そこから先へは絶対に行かせないぞ!」

「もちろんです! だよね、ヘンリク!」

「お、おう!」


 色めき立つヨナとヘンリクにパトリシアがしっかりと釘を刺すが、それでも二人は嬉しくて思いきりはしゃぐ。

 ヨナの先程まで大人顔負けに交渉していた姿から打って変わって少年らしく喜ぶ姿に、パトリシアは思わず苦笑した。


「うむ、ではよろしく頼むぞ」

「「はい!」」


 クウに(またが)り、二人はパトリシアとともに先頭に立って帝国軍を引き連れる。

 さすがは森を熟知していることもありヘンリクの案内は的確で、なおかつ危険があればクウが狼の魔獣が持つ自慢の鼻で察知した。


 一行はバルディア山に向け、順調に行軍を続ける。


 そんな中。


「あのー……ところでパトリシア殿下は、どうして白い竜を討伐されるのですか? というかカレリア王国は、そもそもどうして白い竜討伐を帝国に要請したのでしょうか?」


 ヨナは気になっていたことをパトリシアに尋ねた。


 こう言っては何だが、伝説はあくまでも伝説であり、その真偽は定かではない。

 これまでヨナが目にした伝説は幸運にも(・・・・)真実だったが、『二匹の竜の(つがい)』の伝説もそうである保証はなかった。


 だというのに、パトリシアは伝説が真実であると……白い竜がいると信じて疑っていない。それがヨナには不思議なのだ。


 すると。


「簡単な話だ。今から二週間前、カレリア王国の首都ヘルシングに白い竜が飛来し、都市の半分を破壊したからだ」

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