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白銀の剣姫

「ヴウウウウウウウウウ……ッ!」


 森で薪を拾い終えた次の日の夕方、クウがヨナとヘンリクを守るように立ち塞がり、(うな)り声を上げる。


 その目の前には。


「やれやれ、困ったな……」


 赤のマントを羽織り全身に甲冑を(まと)う、白銀の髪の女騎士が立っていた。

 それも、大勢の騎士や兵士達を伴って。


「驚かせてすまない。我々は今、バルディア山へ向けて行軍しているところでな。決して君達の邪魔をするつもりはなかったんだ」


 クウが(うな)り声を上げて威嚇(いかく)している以上、誤解を解いてもらうために説得するか、あるいは二人を守るこの狼を倒さなければならない。

 そうしなければ、背中を見せた隙に逆に襲われてしまうこともあり得るのだから。


 そんな女騎士の背後に控える数名の騎士は、クウだけでなくヨナとヘンリクに対しても殺気を向けていた。

 狼を手懐けていることを警戒してのものなのか、自分達の上司である女騎士への態度に不満を抱いてなのか、あるいはその両方なのか。


 いずれにせよ、女騎士はともかく後ろの騎士達が態度を改めない限り、クウが下がることはない。


 すると。


「あのー……」

「ん?」

「クウは後ろの(・・・)皆さんの(・・・・)せいで(・・・)怒っています。まずはあちらの方々を何とかしてください」


 怯えるヘンリクに代わり、ヨナは遠慮なく女騎士に告げる。

 ヨナはこれまで飛蝗(ひこう)の大群や海蛇の超大型魔獣、魔王軍幹部を倒してきたのだ。騎士ごときが殺気を向けたところで、彼が臆することはない。


「……お前達、何をしている」

「「「「「っ!?」」」」」


 振り返る女騎士に睨まれ、騎士達は一斉に息を呑んだ。


「い、いえ、ですがたとえ子供とはいえ、殿下(・・)に対して狼の魔獣に牙を向けさせるなど……」

「馬鹿を申すな! (ほま)れ高き帝国騎士団(・・・・・)が、いたいけな少年達を威嚇するなど恥を知れ!」

「も、申し訳ありません!」


 女騎士に叱責され、騎士達は慌てて(ひざまず)いて許しを乞う。

 だがそんなことはどうでもいいほど、ヨナは女騎士が言い放った『帝国騎士団』という言葉が気になった。


「あ、あの……今、『帝国』って……」

「ん? ああ、そういえばまだ名乗っていなかったな。私はエストライア帝国第一皇女、パトリシア=ハイルヴィヒ=フォン=エストライア。友好国であるカレリア王国からの要請により、バルディア山に巣食う白い竜の討伐に来た」

「ええええええええええええええええ!?」


 兜を脱いだ女騎士……パトリシアがそう告げると、ヨナは驚きのあまり森中に響きわたるほどの大声を上げた。


 ◇


「いやあ、二人がいてくれて助かったよ。おかげで夜までに村に着くことができた」

「「は、はあ……」」


 馬から降りるパトリシアの言葉に、ヨナは何とも言えない表情で気の抜けた返事をした。

 まさか帝国軍がケルバ村をバルディア山に向かう際の中継地点に決めていたとは思いもよらず、結局ここまでパトリシア達を案内する羽目になったのだ。


「あ、あんた達、早くこっちへおいで!」

「は、はい」


 慌てて二人に向けて手招きをするヘンリクの母。

 子供達が軍に近づいても(ろく)なことがないので、ヘンリクの母が焦るのも無理はない。


 だが。


「…………………………」


 パトリシアを見つめ、思いつめた表情をしているヘンリク。

 思えば彼は、パトリシアに出会ってからずっと様子がおかしかった。


 ……いや、正しくは彼女が自己紹介をした時から、か。

 ヨナは怪訝(けげん)な表情を浮かべつつも、ヘンリクの母のもとへと向かった。


「いいかい! 絶対に帝国軍に近づいちゃ駄目だからね!」

「は、はい」

「…………………………」


 何度も念を押すヘンリクの母に、ヨナは違和感を覚える。

 終始無言のヘンリクもそうだが、どうして彼女はこんなにも帝国軍から遠ざけようとするのか。


 もちろん、帝国の第一皇女であるパトリシアに子供達が粗相(そそう)をしたら罰せられてしまうから、ということもあるのかもしれないが、その様子からはどうもそういうことではなさそうだ。


「その……帝国軍と何かあるんですか?」


 一言も(しゃべ)らずに部屋に引きこもったヘンリクを見届け、ヨナは意を決して彼の母親に尋ねた。


「……何もありゃしないよ。ただあんた達が危ないから、釘を刺しているだけだって」

「そうですか……」


 どうやらヘンリクの母は、話すつもりはないらしい。

 ヨナは諦め、ヘンリクのいる部屋へと向かう。


 すると。


「ええと……何をしてるの?」

「っ!?」


 部屋に入ってきたヨナに尋ねられ、目を見開くヘンリク。

 彼は今、(かばん)の中に荷物を詰めているようだった。


 まるで、これから旅でもするかのように。


「ヨ、ヨナ! 絶対に母ちゃんと婆ちゃんには内緒だからな!」

「わっ!」


 いきなり詰め寄られ、思わずヨナは()け反る。

 この反応からも、やはりヘンリクは旅に出るつもりのようだ。


「そ、そんなことを言われても困るよ。それより、どうしてヘンリクは旅支度なんてしてるの? 事情を説明してくれないと、僕も素直に協力できない」

「う……」


 ヨナの追求に、ヘンリクが声を詰まらせる。

 とはいえヨナは、彼が旅支度をしていたことである程度の予測はついていた。


 二人の間に、しばしの沈黙が訪れる。


 そして。


「……おいら、あの騎士の姫様についていって、バルディア山に行く」

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【余命一年の公爵子息は、旅をしたい】
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