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次なる伝説

「なあ、いいだろ母ちゃん」

「そうだねえ……」


 両手を組んで祈りを捧げるかのように懇願するヘンリクに、彼の母親は苦笑しながら思案する仕草を見せる。

 その二人の様子を、ヨナは不安そうな表情で見つめていた。


 ヘンリクの母は最初からヨナを追い出すつもりはないが、珍しく必死な息子の様子が可笑しくて、わざとこんな態度を取っているだけだ。

 一方で、真剣な二人からすればたまったものではない。ヨナとヘンリクは気が気ではなかった。


「……仕方ないねえ。ヘンリク、ちゃんとヨナの面倒を見てあげるんだよ」

「! も、もちろん! やったなヨナ!」

「うん!」


 母親の言葉に、ヘンリクとヨナはパアア、と満面の笑みを浮かべ、お互い両手でタッチして喜び合う。

 そんな二人の姿に、ヘンリクの母も顔を(ほころ)ばせた。


「それじゃ、早速食事にしょうか。ヘンリク、ヨナ、お婆ちゃんを呼んできて」

「分かった!」

「はい!」


 母親の指示を受け、ヨナとヘンリクは彼の祖母の部屋へ向かう。

 もちろん、村の入り口ですれ違った、あのお婆さんだ。


「婆ちゃんメシだって!」

「おやまあ、そうかい」


 にこにこした表情のヘンリクの祖母は、彼の隣にいるヨナを見て目尻の(しわ)をさらに深くさせ、椅子から立ち上がるのだが。


「あっ!」


 よろけそうになったヘンリクの祖母を、ヨナは咄嗟(とっさ)に駆け寄って受け止めた。


「おやまあ、すまないねえ」

「い、いえ!」


 ヘンリクの祖母は感謝の言葉を告げ、ヨナは何でもないとかぶりを振る。


 七歳の時に古代魔法を身につけて身体の操作の訓練をしてきたヨナだったが、健常者のように器用に、素早く動くことができなかった。

 だが、この二か月以上に及ぶ旅が、彼を成長させたのだろう。ヘンリクの祖母が倒れてしまう前に間に合ったこと、そして自分の身体がここまで動けるようになったことが嬉しくて、ヨナも口元を緩ませる。


「婆ちゃん年なんだから気をつけなよ」

「本当だねえ」


 苦笑するヘンリクに、笑顔で頷く祖母。

 ヘンリクの家族の雰囲気に、ヨナの心まで温かくなった。


「ほら何してんだよヨナ。先にお前の分も食べちまうぞ」

「あっ! だ、駄目だよ!」


 ししし、と笑うヘンリクを、ヨナも笑顔で追いかけた。


 ◇


「そ、そのー……ヘンリク、笑わないで聞いてくれる……?」

「お、おう!? なな、何だ?」


 就寝の時間になり、とりあえず同じ(わら)のベッドで眠ることになったヨナは、ヘンリクに上目遣いでおずおずと尋ねる。

 元々ヨナはとても容姿が整っており、愛くるしい顔をしていることもあって、ヘンリクは変な気持ちになってしまい戸惑ってしまった。


「ここはどこで、何て国なのかな……」

「へ……?」


 まさかそんな当たり前(・・・・)のこと(・・・)を尋ねられるとは思わなかったヘンリクは、(ほう)けた声を漏らす。


「村の名前は知らないにしても、普通はこの国の名前くらいは分かるだろ。お前だって知っててあんな場所にいたんだろ?」

「あ、あはは、そうだよね……」


 ヘンリクにそう指摘されてしまい、ヨナは何も聞けなくなってしまった。

 ここにいながら、ここが何と言う国なのかも知らないなんて、確かに彼の言うとおりあり得ないのだから。


「そうそう。さすがにこの村の名前が“ケルバ”ってことは知らなくても、“カレリア”王国のことは知ってて当然だって」

「あ……う、うん! カレリア王国に決まってるよね!」


 村の名前だけでなく、ここがカレリア王国であることを無意識に告げるヘンリク。

 おかげで大まかとはいえ現在地を理解できたヨナは、話を合わせるように笑顔で何度も頷いた。


「変な奴だなあ……んじゃ、明日は早いからもう寝るぞ」

「うん!」


 ヘンリクがランプの火を消し、部屋の中が暗くなる。

 本当は(かばん)の中にある西方諸国の地図でおおよその位置を把握したいところだが、この暗闇の中では見ることはできないだろう。


 ただ、ヨナはそんなことよりも今は別のことで頭が一杯になっていた。

 何といってもここカレリア王国は、伝説の一つである『白と黒の竜の(つがい)』がいる場所なのだから。


 伝説では、白の竜と黒の竜はとても大きくて偉大な存在で、カレリア王国の最北にある“バルディア山”に生息している。

 とはいえ、バルディア山はとても標高が高く非常に険しいため、人間が足を踏み入れることが不可能。そのため、二匹の竜の姿を見た者は誰もいない。


(えへへ、楽しみだなあ……)


 ヨナは次なる伝説との出逢いへの期待で胸を膨らませ、毛布の中で頬を緩めた。


 だが。


「ヴウウウウウウウウウ……ッ!」


 森で薪を拾い終えた次の日の夕方、クウがヨナとヘンリクを守るように立ち塞がり、(うな)り声を上げる。


 その目の前には。


「やれやれ、困ったな……」


 赤のマントを羽織り全身に甲冑を(まと)う、白銀の髪の女騎士が立っていた。

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【余命一年の公爵子息は、旅をしたい】
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