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極寒の地、新たな出逢い

「ささ、寒い!」


 妖精王オベロンの古代魔法によって見知らぬ場所に飛ばされてしまったヨナは、あまりの寒さに自身の身体を抱きしめて震える。

 それもそのはず。辺りは一面雪で、しかも吹雪(ふぶ)いているのだから。


「て、転移したいけど、ここがどこか分からないことには……」


 ヨナの古代魔法【テディト】は、自分の位置を中心とした座標の指定又は目的の場所に目印となる魔法陣を施すことで、どこへでも転移することができる魔法。

 自分のいる場所が分からなければ、転移することはできない。


「ね、眠い……」


 寒さにより体温が下がり、ヨナは急な眠気に襲われた。

 このまま膝をつき、眠ってしまえば楽になれる。


 そう考えた時に限って。


『おやまあ……あの妖精王オベロンのせいで、大変な目に遭ったねえ』

「……うるさい」


 聞こえきたのは、あの女の声。

 こんなにも大変な思いをしているというのにどこか楽しげな声で話す女に、ヨナは悪態を吐く。


『まあオベロンは妖精の王だけあって誰よりも気まぐれで悪戯(いたずら)好きだから、仕方ないさ。それより、このままだと凍え死んでしまうよ?』

「わ、分かってるよ! だから今、一生懸命人里を探しているんじゃないか」

『ほほほ。おや、そうだったかい』

「そうだよ!」


 からからと笑い声を上げる女が憎らしい。

 声の主への怒りで、いつしかヨナは寒さも、襲ってきた眠気も忘れていた。


『まあ、ヨナが死なないことだけを祈っておくよ』

「余計なお世話だよ!」


 幸いにもオベロンのよく分からない気遣いにより、なぜか手元に革の(かばん)もある。

 ヨナは(かばん)を持ち、積もった雪を掻き分けて歩き始めた。


「ハア……ハア……ッ」


 風と打ちつける雪で、ヨナの体温が少しずつ奪われていく。

 まだ『漆黒の森』で妖精達にかけてもらった『妖精の粉』の効果があるため苦しくはないが、それでも、きついことには変わりない。


 それでも、ここで立ち止まることは死を意味する。ヨナは腕で顔に当たる雪風を防ぎ、一歩ずつ前に足を進めた。


 すると。


「ヴォウッ! ヴォウッ!」


 近づいてくる、狼の鳴き声。

 ヨナは立ち止まり、目を凝らして声のする方角を見る。


 もちろん、いつでも古代魔法を発動できるように手をかざして。


 だが。


「っ!? ひょっとして子供!?」


 続いて聞こえたのは、男の子の声。

 ヨナはかざしていた手を下ろし、安堵の溜息を吐いて膝から崩れ落ちた。


「ヴォウ! ヴォウ!」

「ど、どうしてこんなところに!? しかも防寒着もなしで!?」

「あ、あはは……」


 吠える大きな銀色の狼に(またが)る暖かそうな毛皮の防寒着と帽子で身を包んだ少年が、ヨナの目の前にやって来て驚きの声を上げる。

 彼の指摘はごもっともなので、ヨナは苦笑するしかない。


「と、とにかく、このままだと死んでしまうぞ! ほら、“クウ”の背中に乗りなよ!」

「う、うん! ありがとう!」


 少年の手を借り、ヨナは狼……クウの背に乗る。

 クウはベネディア王国の国境の森で遭遇した狼よりもはるかに大きく、ヨナと少年の二人を乗せてもまだかなり余裕があった。


「クウ! すぐに村に帰るぞ!」

「ヴォウ!」


 少年の呼びかけに応え、クウは白銀の中を疾走する。


(うわあああ……! すごく速いや!)


 ヨナは寒さに耐えて歯を食いしばりながらも、クウのあまりの速さに心が躍っていた。


 葉が枯れ落ちて裸になった木々の森を抜けると、ものの十分ほどで小さな集落が見える。

 どうやらこの少年が暮らしている集落のようだ。


「おや“ヘンリク”、早かったねえ。薪拾いは終わったのかい?」

「それどころじゃないよ婆ちゃん! 森の中でこいつ拾ったんだ!」

「おやまあ」


 村の入り口ですれ違った老婆に声をかけられ、少年が大声で答える。

 彼の名はヘンリクと言うらしい。


「こりゃ大変だねえ。早くお行き」

「うん!」


 防寒対策を何も施していないヨナの唇は紫色になっており、このままでは危険だ。

 ヨナの顔を見てそう悟った老婆は、ヘンリクに急ぐよう促した。


 そして。


「ハア……生き返る……」


 薪が燃え盛る暖炉の前で、毛布に包まれたヨナがほっこりとした表情を浮かべる。

 ただ、急に暖かい家の中に入ったものだから、手がかゆくなってしまったヨナはしきりに手のひらを(こす)っていた。


「ほら、これも飲みな」

「あ、ありがとう」


 ヘンリクから温かいスープの入った木のカップを受け取ると、ヨナは息を吹きかけてから口に含む。


「! 美味しい!」

「へへ、当然だよ! 何といっても、母ちゃん特製だからな!」


 顔を(ほころ)ばせるヨナを見て、ヘンリクは少し自慢げに鼻の下を指でこすった。


「ところでさあ……何だってお前は、そんな格好であんな場所にいたんだ?」

「え、えーと……」


 さすがにオベロンに転移させられたとは説明できず、ヨナは口ごもる。

 ヨナだって、好きであんな場所にいたわけではないのだ。


「……まあいいけどさ。あんまり雪の森を舐めたら大変なことになるぞ? 寒くて凍えるだけじゃなく、あそこには魔獣だっているんだ。お前みたいなチビじゃ、すぐに食べられてしまうよ」

「っ! ぼ、僕はチビじゃないよ!」


 ラングハイム家で色々と言われ続けてきたヨナだけど、さすがに身長のことに関しては聞き捨てならない。

 ヨナは立ち上がり、猛抗議する。


「いや、チビだろ。ほら、おいらのほうがこれくらい高い」

「むうううう……!」


 確かにヘンリクは、ヨナよりも十センチも高かった。

 言い訳のできない現実を突きつけられ、ヨナは思いきり頬を膨らませる。


「まあまあ、そんなに()ねるなよ。それよりお前、どこにも行くところがないんだろ? だったらしばらく(うち)に泊めてやるよ」

「……いいの?」

「おう! その代わり、少しはおいらの手伝いをしてもらうぞ」

「も、もちろん!」


 ここがどこなのかも分からず途方に暮れていたヨナにとって、ヘンリクの言葉は非常にありがたかった。

 ヨナは嬉しくて、何度もお辞儀をする。


「よ、よせやい。それよりお前、名前は何ていうんだ?」

「あ、そうだった。僕はヨナ、よろしくね!」

「そっか。おいらはヘンリク、よろしくな!」


 暖炉の炎に照らされながら、二人の少年は笑顔で握手を交わした。

お読みいただき、ありがとうございました!


本作もいよいよ第四章に突入しました!

これからヨナはどんな出逢いを果たし、どんな伝説に触れるのでしょうか!

どうぞお楽しみに!


少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、

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