絶たれた契約、救われた大切な幼馴染
「ふう」
ザリチュを闇に引きずり込んだ漆黒の魔法陣が消え、ヨナは軽く息を吐く。
それと同時に、ヨナは一つの手応えを感じていた。
闇の古代魔法【ドゥンケルハイト】であれば、対象を指定して闇に葬ることができる。なら、他の古代魔法と違って規模も被害も抑えることができるのではないか、と。
(今回はちょっと怒っちゃったから全力で古代魔法を使ったけど、もう少し改良すればもっと使い勝手もよくなりそう)
そう考え、ヨナは顔を綻ばせる……のだが。
「「「「「…………………………」」」」」
『スヴァルトアルヴ』達の顔に浮かぶのは、恐怖の色。
この五百年間、どうすることもできなかったザリチュを、彼等にとって一瞬と呼べる時しか生きていないこの少年が、いとも容易く倒してみせたのだから。
それは、同じく見守っていたクィリンドラとコレッテも同様だった。
特にクィリンドラは、魔王軍幹部の強さを誰よりも知っている。あの勇者でさえも、仲間達と力を合わせてやっと倒せるほどの実力者であることを。
だからこそ、魔王軍幹部の一部が今もなお健在なのだから。
そんな中。
「あ、ティタンシアさん、やりました……わぷっ!?」
「やっぱりヨナはいい子なだけじゃなく、とてもすごい子。こんなことができるヨナは、きっと勇者よりもすごい」
「えへへ……」
ヨナを抱きしめ、頭を撫でるティタンシア。
でも、彼女が僅かに身体を震わせていることに気づいたヨナはあえてはにかんでみせ、その背中をそっと優しく撫でた。
「そ、その……」
ティタンシアがヨナを抱きしめる姿を見て、次に我に返ったのはゼリアだった。
彼女は二人の傍に近づき、おずおずと声をかける。
「あ、そうでした。まだ『スヴァルトアルヴ』の皆さんの魔の契約が解けていませんでしたね」
そう……魔の契約は、ザリチュが生きている限り子々孫々に至るまで永遠に契約者を捕らえ続ける。
ザリチュは闇に引きずり込まれたが、永遠の苦しみを与えられるだけで死ぬわけではない。
ヨナは『スヴァルトアルヴ』達が死んでしまわないよう、あえて【ドゥンケルハイト】を使用したわけだが、全てを解決するにはまだ足りないのだ。
とはいえ。
「それじゃ早速、皆さんを縛っている魔の契約、消してしまいますね」
そう言ってティタンシアの背中をぽん、ぽん、と叩いてゆっくり離れると、ヨナは両手をかざす。
そして。
「天空で踊りし光の根源よ。我の前に顕現し、因果を滅する斧となりて、理不尽により虐げられし誇り高き黒き者達を縛る鎖を断絶せよ」
ヨナが右手の人差し指を空に向けて高速に描くと、『漆黒の森』を全て覆い尽くす巨大な光の魔法陣が浮かび上がった。
「【ツェアシュトロイエン】」
魔法陣から放たれた温かな光が、『漆黒の森』を優しく照らす。
それは、五百年にわたり苦しんできた者達への、癒しの光。
だが、彼等を苦しめてきた理不尽な契約にとっては、全てを無に帰す無情の光。
その神々しき光に、『スヴァルトアルヴ』達は跪き、首を垂れた。
空へ向け、感謝と贖罪の祈りを捧げて。
「……これで、魔の契約は消え去っているはずです」
包み込んでいた淡い光は消え、『漆黒の森』は元の世界を取り戻す。
ただ……ここにいる全ての者の瞳には、微笑む小さな少年の姿だけを映していた。
「ええと、試しに魔王やあの醜い魔族の悪口とか言ってみるとはっきりするんですけど……」
魔の契約は、魔王に対して反旗を翻した瞬間に発動し、契約者は死に至る。
無事に契約が解除されていることを確認するためにはそれが手っ取り早いことは理解しているが、先程同じことをして仲間の一人の死を目の当たりにしているだけに、『スヴァルトアルヴ』達は顔を見合わせ躊躇した。
だが。
「なら……まずは私から言わせてほしい」
そう告げたのは、今も両腕を蔦で拘束されているゼリア。
クィリンドラによってゼリアの拘束が解かれ、彼女はティタンシアを見つめて頷くと。
「よくも……よくも『スヴァルトアルヴ』を……この私を縛りつけてくれたな! ザリチュ、貴様に分かるか! 理不尽と分かっていながらも受け入れなければならない苦しみが! 大切な親友を、幼馴染を、ずっと傷つけ続けなければいけない悲しみが! 貴様に……貴様に分かるものか! 分かって……たまるかぁ……っ!」
アメジストの瞳から、大粒の涙がぽろぽろと零れる。
これまでずっと耐え続けてきた苦しみ、大切な人を裏切り、悲しませ続けてきた悲しみ、その思いが空に向けて放たれた。
ゼリアの、声にならない悲痛な叫び声に乗せて。
「は……はは……何も起きない……起こらない……っ」
震える声で呟き、ゼリアは大切な親友を見る。
親友……ティタンシアもまた、新緑の瞳を涙で濡らしていた。
「シア……シアアアアアアアアアアアアッッッ!」
「ゼリアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!」
ティタンシアとゼリアが抱きしめ合い、互いの名を叫ぶ。
長い時を経て、再び思いを通わせた親友の名を。
そんな二人を見て、ヨナは頬を緩めた。
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