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【8/19書籍第1巻発売!】余命一年の公爵子息は、旅をしたい  作者: サンボン
第三章 耳長の少女と『渇望』のザリチュ
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待ち構える者

「ん。お母さんも姉さんも、なまっていないようで何より」


 次の日、ティタンシアとクィリンドラ、それに合流したコレッテの三人は、『スヴァルトアルヴ』の住み家である『漆黒の森』へ向け、森の中を駆ける。


 今回はザリチュと『スヴァルトアルヴ』達の魔の契約を『結界石』で無効化することが目的のため、他の『アルヴ』達は同行させていない。

 むしろ大挙して『漆黒の森』に押しかけてしまったら、それこそ全面戦争となってしまう。


「うふふ、あまり(おさ)を舐めないでちょうだい」

「そうそう。何といってもお母さんは、まだ七……」

「……コレッテ。公都の暮らしが長すぎて、ちょっと口が軽くなってないかしら……?」

「っ!? そそ、そうかしらあ?」

「ハア……」


 隣を走るクィリンドラに殺気を向けられ、慌てて顔を逸らすコレッテ。

 そんな二人のやり取りを見て、ティタンシアは盛大に溜息を吐いた。


 すると。


「……『スヴァルトアルヴ』の結界」

「そうね……」


 まだ『漆黒の森』まで距離はあるが、このような地点にまで結界を張っているということは、それだけ『アルヴ』の動向を最大限警戒しているということ。

 おそらくは、向こうも『結界石』が五つ揃ったことを承知しているはずだから。


「まあまあ。お母さん、どうしますかあ?」

「決まっています。この結界を、無効化してしまうのよ」


 クィリンドラはくすり、と微笑むと、(かばん)の中から『結界石』を一つだけ取り出した。


「っ!? ……結界が消えた」

「うふふ、さすがは勇者が(のこ)してくれた『結界石』。『スヴァルトアルヴ』の結界なんてすぐに消し去ってくれたわね」


 そう言って、クィリンドラが満足げに頷く。

 五百年前の魔王との戦いを終え、勇者は『結界石』をはじめ、多くのものを世界に(のこ)している。


 魔王を討った聖剣、あらゆる攻撃を防ぐ盾、その身体を守り抜く鎧。

 どれ一つ取ってもその能力や効果は絶大で、現在では勇者の遺物は勇者とゆかりのある国が所有している。


 今回ティタンシア達が集めた『結界石』については、魔王軍の残党が襲撃してきた場合に備え、各国に設置されていたものを特別に借り受けたもの。

 ただ、そのことが知られてしまうと、今も潜伏している魔王軍の残党が国を襲いかねない。


 このため、クィリンドラは秘密裏に各国と交渉を行い、人知れずオーブエルン公国に持ち込んでもらっている。


 なぜ各国がそれほど重要な『結界石』を『アルヴ』の里に貸し出したかといえば、それだけクィリンドラが特別な人物(・・・・・)であるからに他ならない。


「まあまあ。これなら魔の契約も、全部消し去ってくれそうねえ」

「ん……これでゼリアも……」


 まだ『アルヴ』と『スヴァルトアルヴ』の関係について何も知らなかった幼い頃、森の中で出逢ったティタンシアとゼリア。

 お互いに里を抜け出しては、森の中で一緒に遊んだ大切な幼馴染。


 成長するにつれてお互いが敵対関係にあることを知り、(たもと)を分かってしまった今も、ティタンシアは彼女とあの頃に戻りたいとずっと思ってきた。


 そう……何年も、ずっと。


「……大丈夫よ、シア。全部終われば、きっと前みたいに仲良くなれるから」


 決意を秘めた表情を見せるティタンシアに、クィリンドラは温かい視線を向ける。

 二人がお互いの里に内緒で森の中で会っていたことを彼女は知っており、ずっと見守ってきた。


 そんな二人が引き離されてしまったことに心を痛めているのは、何も当事者のティタンシアとゼリアだけではない。

 クィリンドラもまた、娘を不幸な思いをさせてしてしまったことに、ずっと罪悪感を抱えていたのだから。


 三人は結界が解けた森の中を駆け抜ける。

 途中、いくつか『スヴァルトアルヴ』の結界があったが、いずれも『結界石』で解除した。


 ただ、結界が解除されたことを『スヴァルトアルヴ』も、魔王軍幹部である『渇望』のザリチュも気づいているはず。

 なので、あとはいかに『スヴァルトアルヴ』が行動に移すまでに、『漆黒の森』にたどり着けるかがカギとなる。


 そして。


「……見えたわ。あれこそが、『漆黒の森』よ」


 森の中で一番高い木の上に上り、クィリンドラが指差す。

 通常の森とは異なり、その名に(たが)わず鬱蒼(うっそう)と茂る木々の葉は黒々としており、中に入れば飲み込まれてしまいそうな、そんな雰囲気を醸し出していた。


「お母さん、姉さん、行こう」

「「ええ」」


 三人はそれぞれ『結界石』を一つずつ手に持ち、『漆黒の森』にかざす。


 すると。


「っ!?」


 突然、ティタンシアは結界石を持つ右手が(しび)れるような……まるで雷が腕の中を走るような、そんな感覚に襲われた。


「今のは……」

「森の結界が解けた証拠ね。さあ……ここからはあっという間だから、気を抜いては駄目よ」

「ん」

「分かりましたあ」


 険しくなるクィリンドラの表情。

 ティタンシアとコレッテも、新緑の瞳に覚悟と決意を込めて『漆黒の森』に足を踏み入れる。


 その時。


「……来たか、ティタンシア」

「ゼリア……」


 現れたのは、甲冑を身に(まと)い、漆黒の木の杖を構えるゼリアだった。

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