表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【8/19書籍第1巻発売!】余命一年の公爵子息は、旅をしたい  作者: サンボン
第三章 耳長の少女と『渇望』のザリチュ
58/138

『アルヴ』の長

「ヨナ、着いたよ」

「うわあああ……!」


 森を抜けて現れたそこは、木漏れ日が差し込むとても綺麗な場所だった。

 透き通った美しい泉を囲む木々の上に小さな家が建ち、花が咲き乱れる広場では耳の長い整った顔立ちの子供達が楽しそうに鬼ごっこをしている。


 すると。


「これはティタンシア()。ようこそお越しくださいました」

「え……?」


 青年の『アルヴ』が二人の前に現れ、(ひざまず)く。

 それに彼は、ティタンシアに対して『様』付けをした。ヨナは思わず彼女を見る。


「やめて。私はただのティタンシア。ティタンシア=フィグブローム」

「ああ、そうでしたね。ですがあなた様が、(おさ)の娘であることに変わりありませんので」

「……いい加減にして」


 ティタンシアが明確に否定しているにも関わらず話を続ける青年に、普段は表情の変化に乏しい彼女が、露骨に顔を歪めた。

 それは、青年の言葉が真実であることを物語っている。


「それでシア様、どうして神聖なる『アルヴ』の里に、汚らわしい(・・・・・)人間など連れて……っ!?」

「黙れ」


 青年がヨナに侮蔑(ぶべつ)の視線を向けて汚い言葉を口にしようとした瞬間、ティタンシアが弓を構えて狙いを定めた。

 さすがの彼も彼女のすさまじい怒りを悟り、慌てて口を(つぐ)むが、ヨナに向ける視線だけは変わらなかった。


「……ヨナ、ごめん。『アルヴ』の者は妖精の一族であることを鼻にかけて気位が高く、人間を見下す者が多い。そのことを、先に言っておくべきだった」

「あ……ティ、ティタンシアさん謝らないでください!」


 あからさまに落ち込んだ様子を見せるティタンシアを、ヨナは慌ててなんでもないとばかりに振る舞う。


「それに、ティタンシアさんがそのことを先に説明してくれていたとしても、僕はきっと信じてなかったと思います。だって、ティタンシアさんは正反対のすごく優しい人ですから」

「ヨナ……やはり君はいい子」

「わわっ!?」


 感極まったティタンシアは、にこり、と微笑むヨナを抱きしめる。

 いきなりのことで、ヨナは思わず声を上げた。


 その時。


「外が騒がしいと思って来てみたら……あなたね」


 現れたのは、二人の壮年の『アルヴ』を引き連れた、ティタンシアと同じ新緑の長い髪と瞳を持つ、どこか神々しさを感じさせるほどの美しい女性だった。


「お母さん……」

「コレッテから連絡をもらっているわ。話は屋敷でしましょう」


 そう言うと女性は(きびす)を返し、二人の従者と一緒に先に行ってしまう。


「ヨナ、わたし達も行こう」

「は、はい。だけど、僕は一緒じゃないほうが……」

「駄目。お母さんに『妖精の森』の場所を聞かないといけないし、それに、この馬鹿(・・)のような連中がヨナに悪さをしかねない」

「…………………………」


 ティタンシアに睨まれ、慌てて目を伏せる『アルヴ』の青年。

 どうやら彼女の懸念のとおりのことが起きることは容易に想像ができたため、ヨナは同席させてもらうことにしたのだが。


「お、大きいなあ……!」


 里の中でもひときわ大きな大木に建つ、木造の立派な屋敷。

 (おさ)の住まいを見て、ヨナは感嘆の声を漏らす。


「ヨナ、しっかりつかまっていて」

「え? わ、わわっ!?」


 ティタンシアがヨナを横抱きにし、軽やかに木を駆け上っていった。

 いきなりだったので驚いたが、風の心地よさも相まって、楽しくてすぐに笑顔になる。


「喜んでくれたから、またしてあげる」

「は、はい!」


 屋敷の玄関に到着しティタンシアがそう言うと、ヨナは笑顔で頷く。

 ただ、内心ではお姫様抱っこは少々恥ずかしいので、次は違う形でお願いしようと考えたヨナだった。


 そして。


「じゃあ、あなた達は外に出ていてくれるかしら」


 二人が部屋に入るなり、(おさ)は二人の従者に退室を促した。


「「し、しかし……」」

「あら、久しぶり(・・・・)の娘との語らいを邪魔するというの?」


 躊躇(ちゅうちょ)する従者達に、(おさ)は有無を言わせないとばかりに強い口調で言い放つ。

 渋々従者達は、退室しようとして。


「おい。貴様も出るんだ」

「そうだ。(おさ)とティタンシア様の邪魔を……」

「彼には別件で話があります。余計なことは言わず、早く出なさい」

「「…………………………」」


 ヨナの肩を強引につかんで一緒に連れて行こうとした従者に、(おさ)は鋭い視線を向けた。

 そればかりか、ヨナの隣にいたティタンシアも強烈な殺気を放つ。


 二人の(おのの)いた従者達は、そそくさと出て行った。


「ハア……本当に、嫌になってしまうわ」


 ついさっきまでの厳格な態度とは打って変わり、(おさ)の雰囲気が砕けたものに変わり溜息を吐いた。


「だけど、この現状を変えていない……いや、変えようとしないのはお母さん」

「……分かっているわよ」


 鋭い視線を向けるティタンシアに、(おさ)はバツの悪そうに顔を背ける。


「あ、あの……」

「さっきはごめんなさいね。その、里にも色々事情(・・)があって……」


 あまりの変わりようについていけないヨナがおずおずと声をかけると、(おさ)は申し訳なさそうに謝罪した。

 あまりにも困り果てた表情をしていたので、ヨナはむしろ気を遣ってしまう。


「あ、私としたことが、自己紹介がまだだったわね。私は『アルヴ』の(おさ)を務める“クィリンドラ=アルヴェリヒ”と申します」


 そう名乗ると、(おさ)……クィリンドラはにこり、と微笑んだ。

お読みいただき、ありがとうございました!


少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、

『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!


皆様の評価は、作者にとって作品を書き続ける原動力です!

何卒応援をよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
▼HJノベルス様公式サイトはこちら!▼

【余命一年の公爵子息は、旅をしたい】
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ