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【8/19書籍第1巻発売!】余命一年の公爵子息は、旅をしたい  作者: サンボン
第三章 耳長の少女と『渇望』のザリチュ
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『アルヴ』の里へ

「そのー……『アルヴ』の皆さんは、『スヴァルトアルヴ』のことが嫌いなんですか? 結局、どうしたいと考えているんですか?」


 普通に考えれば、自分達を裏切り魔王に(くみ)した『スヴァルトアルヴ』に対して思うところがあるはず。

 だというのに、先程から『スヴァルトアルヴ』の話をするコレッテの様子は、どこか困っているというか、むしろ何とかできないかと模索しているように感じられる。


 だからヨナは、あえてそんなことを尋ねたのだ。


「……ヨナくんは、鋭いのねえ」

「ヨナだから当然」


 コレッテがヨナに柔らかい瞳を向ける一方で、ティタンシアはなぜか胸を張っている。

 だが、やはりヨナが感じたとおりの答えだったようだ。


「わたし達『アルヴ』は、やはり仲間だった『スヴァルトアルヴ』を見捨てることなんてできない。そのために、わたしはこうして姉さん……いえ、『アルヴ』の里の依頼を受けている」

「つまり、今回運んだその小さな木箱も、『スヴァルトアルヴ』と仲直りするために必要なんですね?」

「そのとおり」


 ティタンシアは強く頷く。

 そうであるならば、ティタンシアが面倒だと愚痴を(こぼ)しながらも『組合』の依頼を受けていたのか理解できた。


 ただ。


「でも……どうして『スヴァルトアルヴ』の人達は、そんなに頑張っている『アルヴ』の……いえ、違いますね。ティタンシアさんの仕事の邪魔をするんでしょうか」

「「…………………………」」


 ヨナの問いかけに対して、ティタンシアもコレッテも口を(つぐ)んでしまった。

 どうやらこの件については答えられないようだ。


「……まあまあ、とにかくそういうことだから、シアはこれ(・・)を里へ運んでねえ」

「っ!? さすがにそれは聞いてない。これ(・・)は『中央互助会』が渡すべき」


 ティタンシアが運んできた木箱に自身が持つ四つの木箱を加え、コレッテはずい、と彼女の前に差し出した。

 その瞬間、珍しくティタンシアが露骨に顔をしかめ、明確に拒否を示す。


「あらあら、シアは『スヴァルトアルヴ』がどうなってもいいのお? せっかく(おさ)その気に(・・・・)なった(・・・)っていうのにい」

「……姉さんは卑怯」


 コレッテに(あお)られ、ティタンシアは眉根を寄せて渋々木箱を受け取ると、腰の(かばん)に入れた。

 どうやらティタンシアは、『アルヴ』の(おさ)に思うところがあるようだ。


「ヨナ、行こう」

「え?」


 手を引くティタンシアに、ヨナは思わずきょとん、としてしまった。


「どうしたの?」

「い、いえ、重要な任務みたいですけど、部外者の僕が一緒でもいいんですか?」

「問題ない。それにヨナだって、元々は(おさ)に会うためにここに来たんだから、一石二鳥」


 確かに彼女の言うとおり、ヨナの目的は『アルヴ』の(おさ)に会い、『妖精の森』の場所を聞くこと。

 それならば、一緒に行かない理由はない。


「ありがとうございます。ぜひとも僕もご一緒させてください」

「もちろん」

「二人とも、気をつけてねえ」


 ティタンシアはヨナの手を取り、コレッテに見送られて『中央互助会』を出た。


「それで……どうやって(・・・・・)行きますか?」


 ヨナはティタンシアの顔を(のぞ)き込み、尋ねる。

 要は、徒歩又は馬車で行くのか、それとも、転移していくのかを問いかけているのだ。


「……里は(おさ)が結界を張っているから、きっとヨナの古代魔法でも通用しない。歩いて行こう」

「はい」


 二人は宿屋に戻り、旅の支度を整えると公都ミンガを発った。


 ◇


「うわあああ……すごい森ですね」


 公都を出てから二日。ヨナとティタンシアは『アルヴ』の里がある森の入り口に到着した。

 木々が鬱蒼(うっそう)と生い茂っており、その様相は明らかに訪れる者を拒んでいるように見えた。


「ヨナ、ここからは絶対にわたしの手を離さないで。離したら、絶対に迷う」

「はい!」


 ヨナはティタンシアの手を取り、森へと足を踏み入れた。

 森の中はとても薄暗くところどころ湿っており、土や草の強い香りが鼻をくすぐる。


「見て」


 ティタンシアが指差した先を、ヨナは目を凝らして見ると。


「あれ……? あの辺りの木だけ、ぼやけているように見える……」


 ヨナは目をこすりもう一度見るが、やはりぼやけていてはっきりと見えない。


「あれが(おさ)の結界。もし間違えてあそこに入り込んだら、下手をしたら一生出られないかもしれない」

「う、うわあ……じゃあ、ティタンシアさんの手を絶対に離せないですね」

「そのとおり。ヨナは森にいる間、ずっとわたしと手を繋ぐべき」


 説明を聞いて少し怖がっているヨナの言葉に、ティタンシアは少し鼻息荒く何度も頷いた。

 ひょっとしたら、彼女はヨナを脅して手を繋いだままでいることが目的だったのかもしれない。


「そういえば、ここまで『スヴァルトアルヴ』の人達が襲ってきたりしませんでしたね」

「森の中は(おさ)の結界があるから入ってこれないのは当然だけど、わたし達がこんなに早く公都に着いていたなんて考えていないはず。だから今も、彼等はミッテンベルクと公都の間を血眼(ちまなこ)になって探していると思う」

「なるほど」


 公都へはヨナの転移でやって来たため、本来であれば三日かかる行程をたった一日で済ませたわけなので、『スヴァルトアルヴ』もまさかヨナ達が『アルヴ』の里の目前まで来ているとは思わない。

 ティタンシアの説明に納得し、ヨナは頷いた。


「ん、着いた」

「うわあああ……!」


 森を抜けて現れたそこは、木漏れ日が差し込むとても綺麗な場所だった。

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