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【8/19書籍第1巻発売!】余命一年の公爵子息は、旅をしたい  作者: サンボン
第三章 耳長の少女と『渇望』のザリチュ
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『アルヴ』と『スヴァルトアルヴ』

「あらあら……早かったわねえ」


 そこにいたのは、大人の色香を(まと)うとても綺麗な耳長の女性だった。

 髪や瞳もティタンシアと同じ新緑の色をしており、耳が長いことを含めて『アルヴ』という種族の特徴なのかもしれない。


「ん。すごく頑張った」


 そう言うと、ティタンシアはヨナに目で合図する。

 どうやらこれは、ヨナの古代魔法を秘密にしておくための方便のようだ。


「シアの実力だと、三日はかかると思ったんだけどなあ」

「わたしが本気を出せば、これくらい余裕。それより早く引き取ってほしい」

「うふふ、助かったわあ」


 ティタンシアが押しつけるようにずい、と小さな木箱を差し出すと、会長が笑顔で受け取る。


「ところで、その子供は誰かしらあ?」

「言っておくけど、姉さん(・・・)には渡さない」

「わわわわわ!?」


 ティタンシアはヨナを守るように抱き寄せ、警戒心を()き出しにした。

 ただ、今の台詞からすると『中央互助会』の会長は、ティタンシアの姉ということになるのだが……。


「あらあら、シアがそんなに独占欲を見せるなんて、ゼリア以来ねえ」

「余計なお世話」

「うふふ、まあいいわ。それで、お姉さんにぼくの名前を教えてくれると嬉しいわあ」

「っ!?」


 拒む彼女もお構いなしに、会長はヨナに顔を寄せた。

 会長は『アルヴ』かつティタンシアの姉妹だけあってとても綺麗……いや、大人の色香を(まと)っている分、余計にヨナは緊張してしまう。


「むう……人に名前を尋ねるなら、まず自分が先に名乗るべき」

「まあまあ」


 このままではまずいと察知したのか、ティタンシアは会長を押し退けた。


「はじめましてえ。私は『中央互助会』で会長を務める、“コレッテ=アルヴェリヒ”よお」

「あ……ぼ、僕はヨナっていいます」


 会長……コレッテの差し出した右手をおずおずと取り、ヨナは握手を交わす。


「あの、コレッテ会長はティタンシアさんのお姉さんなんですよね?」

「そうよお」

「でしたら、どうして姓が違うんですか?」


 そう……ティタンシアの姓は“フィグブローム”。決して“アルヴェリヒ”ではない。

 ヨナが疑問に思うのも当然だった。


「あらあら……よく気づいたわねえ。だけど、簡単な話よお? シアは……」

「姉さん」

「もお、そんなに睨まないでよお。ごめんなさいねヨナ、シアが怒るから教えてあげられないわあ」

「は、はあ……」


 どうやら“アルヴェリヒ”という姓には何かあるようだ。


(ひょっとしたら、僕みたいに名前を捨てたのかな……)


 ヨナは旅に出る時に、過去や家族を捨て去るためにラングハイムの名を捨てた。

 ティタンシアも、同じような境遇なのかもしれない。


 とはいえ、姉妹の関係は良好のように見えるので、一部の家族だけ相容れないといったところだろうか。


「……それより、今回も(・・・)『スヴァルトアルヴ』が襲撃してきた。ここまで露骨になってくると、向こう(・・・)に釘を刺しておいたほうがいい。そのせいでヨナが狙われるところだった」

「まあまあ、困った人達ねえ……」


 ティタンシアの報告を受け、コレッテは頬に手を当てると、ほう、と息を吐いた。

 それよりも、ヨナは気になったことがあった。


「そ、そのー……『スヴァルトアルヴ』って何ですか? それに、ティタンシアさんが襲われたって……」

「うふふ、『スヴァルトアルヴ』というのは、私達『アルヴ』と同じ森に住む妖精の末裔よお」


 コレッテは微笑みを(たた)え、詳しく説明をした。

 『アルヴ』も『スヴァルトアルヴ』も元々は妖精の一種であったが、(いにしえ)の時代に俗世……つまり、人間との交流を持つようになる。


 そもそも妖精という種族が人間と関係をもつことはない。そのため、『アルヴ』と『スヴァルトアルヴ』は妖精の一族と(たもと)を分かつことになった。


 とはいえ、やはり同族ということもあって関係自体は細いながらも続いており、今では『アルヴ』の長だけが交流を持っているとのこと。


「……『アルヴ』と『スヴァルトアルヴ』も以前は仲が良くて、この森でお互いに支え合って暮らしてきたんだけど、五百年前……これまで単独行動が主だった魔族を統べる王が現れて、この世界に宣戦布告してねえ」


 その話であれば、ヨナも知っている。

 革の(かばん)に入っている世界中の伝説をまとめた本に記されている、『魔王と勇者』の伝説がそれだ。


 とはいえ、ヨナの中で『魔王と勇者』の伝説にそれほど興味はなく、旅の優先順位もかなり低い。

 普通の子供であれば勇者の活躍に胸を躍らせるのだろうが、残念ながらヨナの琴線に触れることはなかったようである。


「その時、『スヴァルトアルヴ』が得意とする闇属性魔法に目をつけた魔王は彼等を魔王軍に取り込み、私達『アルヴ』は勇者に力を貸したのお。結果は勇者が魔王に勝利し、世界に平和が訪れてめでたしめでたしとなったわけだけどお……」


 コレッテは眉根を寄せて頬に手を当て、ふう、と息を吐く。


「裏切り者扱いとなってしまった『スヴァルトアルヴ』は人間達から迫害されるようになって、しかも同胞である私達『アルヴ』からも見捨てられ、今では『漆黒の森』と呼ばれる場所に追いやられて細々と暮らしているわあ……」

「は、はあ……」


 一通り説明を聞いたものの、ヨナには要領を得ない。

 確かに今の話を聞けば、『スヴァルトアルヴ』は敗者として勝者である『アルヴ』に恨みを持っていて、ティタンシアを襲撃したりすることもあり得るだろう。


 だが、何より理解できないのは。


「そのー……『アルヴ』の皆さんは、『スヴァルトアルヴ』のことが嫌いなんですか? 結局、どうしたいと考えているんですか?」

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