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【8/19書籍第1巻発売!】余命一年の公爵子息は、旅をしたい  作者: サンボン
第三章 耳長の少女と『渇望』のザリチュ
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耳長の少女

「…………………………」


 エメラルドのような新緑の髪と瞳を持つ耳の長い一人の美しい少女が、呆けた表情でヨナを見ていた。


(え、ええとー……あの人、きっと『アルヴ』だよね……?)


 ギュンターから教えてもらった『アルヴ』の特徴。

 耳が長く、男女問わず美しいという、全ての条件が備わっていた。


 少女は明らかにヨナよりも年上であり、一三〇センチそこそこの身長のヨナよりも、二〇センチ以上は高い。

 服装はといえば、森の中でも動きやすそうなものであるが、一方で革の胸当てやグリーブ((すね)当て)を着用しており、木製の大きな弓を背負っていた。


「あ、あのー」

「っ!?」


 ヨナが声をかけた瞬間、少女は我に返って身構える。

 だが、なぜか彼女は諦めたような表情でかぶりを振ると。


「……お願い。今すぐここから立ち去るし、絶対に(しゃべ)ったりしないから、見逃してくれる?」


 両手を上げ、ヨナに懇願した。


「え、ええと……何の話ですか?」

「決まってる。その馬鹿げた魔法を見てしまったわたしを、そこの真っ二つになった木みたいにすると思うから」

「えええええ!?」


 どうして少女がそんな結論に至ったのか理解できず、ヨナは思わず声を上げる。


「ちょ、ちょっと待ってください! 僕はそんなことしませんよ!」

「嘘。もし君がそれだけの力を持っていることが知られたら、きっと国は放っておかないし面倒なことになる。なら、手っ取り早く消したほうが……」

「だからそんな物騒なことを言わないでくださいよ!」


 むしろヨナからすれば、本当に偶然中の偶然とはいえあの『アルヴ』に出逢えたのだ。

 そんなことをしてしまえば、『妖精の森』の場所を知ることができなくなってしまう。ヨナが彼女を殺すことなど、絶対にあり得ない。


「……本当?」

「本当です!」


 なおも疑いの視線を向ける少女に、ヨナは少し怒り気味に大声で答えた。


 すると。


「……生きた心地がしなかった」


 少女は息を吐き、その場で力なくへたり込む。

 表情にあまり変化はないものの、よく観察すると少し身体を震わせていた。それだけヨナに恐怖していたようだが、彼からすれば心外である。


「そ、それで、あなたは一体誰ですか?」


 ヨナにしては珍しく、少し語気を強めて尋ねた。


「あ……わたしの名前は“ティタンシア=フィグブローム”。辺境の街“ミッテンベルク”所属の『組合員』」

「『組合員』……って?」


 少女……ティタンシアの名前より、初めて聞く『組合員』が気になり、ヨナはすぐに聞き返す。


「知らないの? ……ひょっとして君は、公国の人間じゃないのかな」

「は、はい。僕は帝国出身ですので」

「なるほど。じゃあ知らなくても仕方ない」


 ティタンシアは立ち上がってお尻を払うと、説明を始めた。

 オーブエルン公国には様々な生業(なりわい)を持つ者達によって設立された『組合』と呼ばれる組織があり、その『組合』に所属する者のことを『組合員』と呼ぶ。


 この『組合』については街ごとに構成され、公都“ミンガ”には各街が出資して設立した『中央互助会』により商業活動に関する統一基準を規定するとともに、必要に応じ国政に関与するなど、『組合』及び『組合員』のための活動を行っている。


 なお、公国で仕事に就くには『組合員』に登録するという暗黙の規律があり、しかも『組合員』になるためには『過去に罪を犯していない』『公国出身者に限る』など、いくつかの条件が設けられていた。


 このように『組合』は『組合員』の仕事と生活を守る重要な役割を担っているが、一方で『組合』に所属していない者に対しては、公国内で仕事に就きたくても斡旋してもらえず、商売を始めても取引に応じてもらえないなど、厳しい扱いを受け、かなり排他的だ。


「……そういうわけで、もし他国の人間がこの国に住みたいのであれば、働く必要がないほどの大金持ちでないと無理。それ以前に、公国の人間は余所者に冷たいから住みづらいけど」

「うわあ……」


 帝国出身のヨナからすれば、『組合』という仕組みは不利益しかない。

 少なくとも公国で暮らすことはできなそうだと思ったヨナは、変な声を漏らした。


「それで、そろそろ君の名前が知りたい」

「あ……ぼ、僕はヨナって言います」


 ティタンシアに指摘されて名乗っていないことに気づき、ヨナは慌てて自分の名を告げる。


「ヨナ……いい名前」

「っ!?」


 ずい、と顔を近づけるティタンシアに、ヨナは驚き息を呑んだ。

 彼がこんなに至近距離で少女の顔を見たのは、マルグリット以来である。


 しかも彼女はあの『アルヴ』。お互いの息がかかりそうな位置に彫刻のような端正な顔があれば、まだそういうことに疎い少年のヨナでも思わず緊張してしまう。


「そそ、そうだ! その、ティタンシアさんって『アルヴ』ですよね?」

「うん、そのとおり」


 一歩後ろに下がるヨナが尋ねると、ティタンシアは長い耳を人差し指で軽く弾いて頷いた。


「で、でしたら、『妖精の森』ってご存知ないですか?」

「『妖精の森』? ……ああ、あの伝説の」

「はい。実は僕、その『妖精の森』を目指しているんです」


 ヨナはギュンターに教えてもらった『アルヴ』が『妖精の森』の場所を知っているという話から尋ねたわけだが、ティタンシアは要領を得ないようで首を傾げている。

 どうやら、全ての『アルヴ』が知っているというわけではなさそうだ。


「ごめん。わたしは『妖精の森』の場所を知らない」

「そうですか……」


 ヨナは肩を落とすものの、今もなお伝説でしか認知されていない『妖精の森』がそう簡単に見つかるはずがないし、ひょっとしたら『アルヴ』もそのことを秘匿(ひとく)しているのかもしれない。


 いずれにせよ、旅は始まったばかり。

 そう考え、ヨナは気を取り直した。


 すると。


「……ひょっとしたら『アルヴ』の(おさ)なら、『妖精の森』のことを知っているかもしれない」

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