『アルヴ』と呼ばれる一族
「それではヨナ、また一か月後」
「はい!」
処方してもらった二種類の薬を受け取り、ヨナは笑顔で返事をする。
次に目指す伝説については、帝国から距離が近いこととギュンターとの会話の中で決まった。
西方諸国の中で最も歴史が古い国、オーブエルン公国にあると言い伝えられている、『妖精の森』の伝説。
伝説ではオーブエルン王国の国土の八割を占める森のどこかに、『妖精の森』が存在するらしい。
そこには悪戯好きの小さな妖精達が楽しく暮らしており、訪れた人間は『妖精の祝福』を受けるそうだ。
なお、『妖精の祝福』が何なのか、それを受けるとどうなるのか、ヨナの持つ伝説をまとめた本には記されていない。
また、元々オーブエルン公国はかつて妖精と同じ種族だった、耳の長い『アルヴ』と呼ばれる一族が興した国とされている。
それが事実であることを示すように、『アルヴ』である王族の耳は長い。
「……『妖精の森』にいるとされる“妖精王”は、この世界の始まりからいたとされている。その妖精王に聞けば、ひょっとしたらヨナの『魔力過多』の治療方法についても何か分かるかもしれない」
「…………………………」
「だからヨナ、必ず『妖精の森』を見つけるんだ。そのためには」
「『アルヴ』と呼ばれる耳の長い種族を探すこと」
「そうだ。彼等だけが、『妖精の森』への行き方を知っている」
幸いなことに『アルヴ』は実在しており、ごく一部ではあるが人間とともに暮らしている者もいる。
『アルヴ』は耳が長く男女問わず美しい者が多いので、見つけるのはそれほど難しくないだろう。
「それにしても、どうしてギュンター先生はそんなに『妖精の森』の伝説や『アルヴ』について詳しいんですか? 僕の本にも、そこまで詳しくは書かれていないのに……」
「はは……実は昔、『アルヴ』の知り合いがいてね」
そう言うと、ギュンターは気恥ずかしそうに頭を掻く。
どうやら彼にとって、その『アルヴ』は思い出深い人物のようだ。
「コホン……ま、まあ、私のことはいい。それよりヨナ、気をつけるんだぞ。古代魔法もあるし心配はいらないと思うが、それでも君を子供だからと騙そうとしてくる悪い連中もいるからな」
「二か月前もそうでしたけど、ギュンター先生も心配性というか過保護というか」
「う……」
思い当たる節があるのか、ギュンターは苦笑するヨナに指摘されて声を詰まらせた。
「では、行ってきます」
「ああ。気をつけてな」
ヨナはぺこり、とお辞儀をし、地面に魔法陣を描いてオーブエルン公国とベネディア王国の国境の森の入り口に転移した。
◇
「【ヴィン・クリンゲ】」
ヨナが右手の人差し指を視線の先へ向けて高速で魔法陣を描くと、肉眼では見えない風の刃が次々と木を薙ぎ倒していく。
その予想外の威力に、ヨナは思わず頭を抱えた。
「ああー……ちょっと傷つけるだけのつもりだったのに……」
カルロと森の中で野営した時に狼の魔獣に襲われたことを受け、ヨナはそれらの危険に対応するためにオーブエルン公国の森の中で威力を抑えた古代魔法の練習をしていた。
とりあえず、古代魔法の威力は魔法陣を簡素にして詠唱を省けば抑えられることは分かったが、それでもその威力は破格であり、森の中に真っ直ぐな小道ができてしまうほどだ。
ちょうど、目の前の惨状のように。
「ハア……火属性の古代魔法にしなくて正解だったよ」
もしこれが火属性だったなら、今頃森の中は火の海である。
転移や物体の操作など便利な魔法もあるが、攻撃魔法の使い勝手の悪さに、ヨナは溜息を吐いて項垂れた。
「まあ……この魔法を披露すれば、悪い人や魔獣達は逃げ出してくれるよね」
その予想は正しいが、それ以上にヨナの魔法を利用しようとする連中が近づいてくるだろう。
何せ、威力を限界まで抑えて放ったヨナの攻撃魔法でも、この世界でかつて『賢者』や『大魔導士』と呼ばれた、それこそヨナの持つ伝説をまとめた本に登場するような人物に匹敵するのだから。
いずれにせよ、そろそろ陽も落ち始めており、早くしないと森を抜けるころには夜になってしまう。
ヨナは魔法の練習を切り上げ、革の鞄を手にいそいそと森の出口へと向かおうとしたのだが。
「…………………………」
耳の長い一人の美しい少女が、呆けた表情でヨナを見ていた。
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