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王太子との『絆のカケラ』

「おっと、あまり引き留めちまったら悪いな」


 いつまでも長居をしていたらアウロラとプリシラに見つかってしまい、静かに旅立つことができなくなってしまう。

 あの二人のヨナへの執着を考えればきっと面倒なことになる。そう考えたカルロは、話を切り上げた。


「いえ、大丈夫です。それより」


 ヨナは先程したためていた手紙を、カルロに渡す。


「もうカルロさんとはお別れの言葉を交わしたので今さらですが、ここにアウロラさんやプリシラさんにお世話になったことへのお礼などが書いてあります。どうかあのお二人に、よろしくお伝えください」

「ああ、分かった」

「それと……例の魔導具についてです」

「魔導具?」

「はい」


 怪訝(けげん)な表情を浮かべるカルロに、ヨナは頷く。


「あの魔導具はラングハイム公爵が秘密裏に製作したもの。これはいわば、帝国への叛逆に等しい行為です」


 秘密で独自の魔導具を製作した理由として、考えられるのは二つ。


 一つは、帝国製の魔導具よりも優れたものを製作し、いざと(・・・)いう時(・・・)に使用するため。

 もう一つは、製作した武器を高値で売り、利益を得るため。


 ラングハイム家は五大公爵家の一つであり、帝国内でもかなりの勢力を誇っている。帝位を簒奪(さんだつ)するという野心を持っていてもおかしくはない。

 他国に魔導具を売りつけることも、安全性などが確認されていない試作品の実験をしてもらっていると考えれば一石二鳥だ。


 それに他国との取引は外貨の獲得につながり、何より戦を考えている国は帝国の魔導具を喉から手が出るほど欲しいはず。他国はラングハイム家と魔導具の取引をしたがるだろう。


「とにかく、このことを見過ごすわけにはいきません。なので、僕が誰よりも信頼する方に魔導具を預け、このことを帝国に告発するように促してほしいんです」

「ま、まあ、あの海蛇の魔獣も討伐して魔導具も要らなくなったからいいけどよ……それで、そのお前が『誰よりも信頼する方』っていうのは、誰なんだ?」

「はい……ハーゲンベルク伯爵様と、その令嬢であるマルグリット様です」


 ヨナが初めての旅先で心を交わした大切な女性(ひと)、マルグリット。

 今もこうしてその名前を口にするだけで、ヨナは胸が熱くなる。


「へえー……マルグリット嬢、ねえ?」


 そんなヨナの様子を見てカルロは口の端を持ち上げ、含みのある笑みを浮かべた。


「……ひょっとして、マルグリット様とお知り合いとかだったりするんですか?」

「いや、そういうわけじゃねえんだが……」


 マルグリットの名前を出した途端身構えるヨナに、カルロはますます愉快そうに笑う。

 ヨナ本人は気づいていないようだが、その反応は嫉妬(・・)というもの。彼がマルグリットのことを憎からず思っていることは明らかだ。


「そうかそうか。まあ頑張れよ」

「もう! 馬鹿にしないでください!」


 相変わらずにやついているカルロは、ヨナに生温かい視線を向ける。

 そんな彼に、ヨナは抗議した。


「分かった分かった。とにかくヨナの言うとおり、魔導具についてはハーゲンベルク伯爵に届ける」

「よ、よろしくお願いしますね?」

「任せとけって」


 拳で胸を叩くカルロに、ヨナはじと、とした視線を送る。

 信用はしているものの、マルグリットに余計なことを言って機嫌を損なうようなことをしないかと、ヨナは心配になった。


「さあ、そろそろあの二人が来ちまうぞ」

「そ、そうですね」


 話を終え、ヨナは床に人差し指を向けて素早く魔法陣を描く。


 そして。


「カルロさん。本当に、お世話になりました」

「おう。……ヨナ、何かあったら……いや、何かなくてもいつでもここに来い。俺よりも出来がいい(・・・・・)のは(しゃく)だけどな」

「あ……は、はい!」


 鼻を掻き、どこか照れくさそうなカルロが告げた言葉が嬉しくて、ヨナは満面の笑みを浮かべる。

 これまで『出来損ない(・・・・・)』だったヨナに、彼は正反対の言葉をくれたのだから。


「じゃあ、またな(・・・)

「カルロさん、どうかお元気で」

「ばーか、それはこっちの台詞だ。無茶するんじゃねえぞ」


 苦笑するカルロの顔を最後に、ヨナはあの国境の森へ転移した。


「えへへ……」


 カルロの言葉を思い出し、ヨナは口元を緩める。

 今回の旅も、ヨナにとって素晴らしい出逢いとなった。


「次はどこに行こうかなあ……」


 革の(かばん)から本を取り出し、次なる伝説に目星をつけていると。


『おやまあ。あのままベネディア王国で暮らしておけば、英雄(・・)として何不自由なく余生が過ごせたのにねえ』

「っ!?」


 不意に聞こえてきた、あの女の声。

 ヨナは周囲を見回すが、ここには誰もいない。


『お前の素性や病のことを知ってもなお親切にしてくれて、しかも二人の綺麗な侍女までいたじゃないか。何が不満だっていうんだい』

「ふ、不満なんかないよ。ただ僕は、次の伝説を見たいから……」

『強がりはおよし。結局お前は、死ぬ間際になって捨てられるのが怖いのさ』

「…………………………」


 図星を突かれ、ヨナは唇を噛む。

 カルロなら追い出したりはしないと分かっていても、それでも、いつか心変わりして捨てられたらと思うと、怖くて仕方がない。


 でも。


「それでも……僕は旅を続けるよ」

『……そうかい』


 その一言だけを残し、女の声は聞こえなくなった。


「……行こう」


 革の(かばん)を持ち、ヨナはぎこちない足取りで森の中へと歩を進める。


 ――どこかお調子者で、気安くて、でも本当は強くて、優しくて、頼もしい、()のような人との、小さな小さな『絆のカケラ』を(のこ)して。

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【余命一年の公爵子息は、旅をしたい】
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